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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第69話

 その後昨日と同じ場所で朝食を食べたが、中央都市で買い込んだ小麦を使った焼きたてのパンが食卓に並び、バターの香りと相まってとても食欲を掻き立てられた。


 そして当然採れたて新鮮野菜のフレッシュサラダに、カリカリベーコンと目玉焼きにコンソメスープという、ここが例え異世界だとしても万国共通の鉄板モーニングセットが揃えられた。


 ただし確実に味の方は万国共通ではなく、今食べている物の方が飛び抜けて美味しかった。あともう一点だけ共通じゃない所があるとすれば、この世界に来てまだコーヒーを飲んだ事がなかった。まぁその代わりミルクティーのような甘くて美味しいお茶があるので気にならなかったが。


 そうして朝から素晴らしく美味しい食事を味わうことになったのだが、最初に末娘のイザベルが食堂で私を見つけるとすぐにやってきて私の膝の上に座ったので、ソフィーリア婦人が子供用の椅子を私の席の隣に置くと、イザベルは素直にその椅子に移ってくれたが、私の方を向いてアーンと口を開けたので、私はまずイザベル女王陛下にスープをフーフーして飲ませたりパンを食べさせたりした。


「まぁまぁイザベルったら・・・申し訳ありませんタナカ様」


「いえ、お気になさらないで下さい、私もこれ程までに好かれて嬉しいです」


「驚きました、まさかイザベルがここまでタナカ殿になつくとは・・・」


「タナカ様がお優しい方だと分かっているんでしょうねぇ」


「そうじゃのう、小さな子供はそういう所が敏感に分かるものじゃ」


 その後私は調査のためまずは周辺地域の視察に行くという事で館の外に出ることになったのだが、イザベルは私の膝からくっついて離れず私がどこかに行ってしまうんじゃないかと泣きそうになり、私はしゃがんでイザベルの目線でイザベルの目を真っ直ぐ見て、お仕事に行くだけで夕方には帰って来ると言うと素直に頷いて離れて手を振ってくれた。


 館の玄関から敷地の外に出るだけでも馬車で15分以上はかかるので、リシャールは現地周辺まで馬車を用意すると言ってくれたのだが、ここのところずっと馬車移動が続き、おまけにここ最近美味しい物をたらふく食べてきたので、ちゃんと身体を動かさないとダメだということで、私は久しぶりにモルサール流歩方術で全行程徒歩で行く事にした。


 まだまだモルサール流歩方術が身に付いていないので、最初は上半身の上下動が大きく余計な力が入っていたが、館から敷地の外に到達する頃には大分勘を取り戻してきた。


 そこから4時間程全く休みなく足早に進んでいき、館からおよそ100キロも離れた地点に到達した。男子マラソンの金メダリスト達は42.195キロをおよそ2時間程で走破するが、私はそれ以上の速さと距離で移動していた。我ながら自分の驚異的な身体能力に空恐ろしさを感じる程だった。


 どうやら目的の風穴の名所がある山の麓に来たようで観光客相手の店がいくつかあり、お昼にはまだ少し早いが美味しそうな匂いのする店に入って、早めの昼食を取りつつ店の人などに聞き込みをすることにした。


 お勧めを注文すると、魚の塩焼きと塩結びと漬け物が出てきて、ここのところパン食が続いていたので私は大いに喜んで食べた。これで味噌汁があれば最高なんだがなぁ・・・


 その後お店の人にライセンス証とリシャールが昨日書いてくれた書状を見せて、風穴周辺の調査に来たことを伝えると、皆快く情報を提供してくれた。


 この店には観光客だけでなくこの付近に住んでる人達もよく来るそうで、そうした人達からの情報によると、やはり半年程前から風穴周辺に小さな二足歩行の生き物が出現するようになったとのことで、最初は猿かと思ったようだがこの付近には猿は生息しておらず、目撃証言では猿とは違う生き物だという意見が多かった。


 また、山の中で迷った子供を道路まで送ってくれたり、疲れて動けなくなった人に果物を置いていってくれたりしたという話しも教えてくれた。


 ただ、声をかけたり近づいたりすると逃げていくようで、滅多に人前には姿を現さないようだった。


 時々お礼としてこちらから魚とか採れたての旬の野菜を置いておくと、次の日にはなくなっていて、お返しに山菜や薬草やキノコが置かれていることもあるそうだった。


 私はここまでの話しを聞いて、とても安堵して嬉しくなった。そこで私も今回の調査はあくまでもリシャールから個人的に頼まれたもので、組合に報告するつもりはなく、もしも生き物の正体が分かったとしてもリシャールの要望通り自分もそっとしておくつもりだと言ったところ、店の人も大いに喜んでくれた。


 すると店の奥から年配の男性が出てきて、一緒に来てくれと言って店の外に出たので後に付いていくと、外に出て少し歩いた所で山の方を指差して生き物の姿が確認された場所と、たまにお供えする場所の特徴を細かく教えてくれた。


 私は喜んでお礼を言うと、年配の男性はどうか生き物を見つけてもそっとしておいてあげてくれと言ったので、私も必ずそうすると答えた。


 早速教えてもらった場所に向かって進み、歩道が徐々に細い林道へと変わっていき、周辺に人がいない事を確認してから道から逸れて小さな沢の上流に向かってピョンピョン飛び跳ねながら移動した。


 やがて先程教えてもらったお供えポイントに到着すると、私は少し大きな声で森の奥に向かって話しかけた。


「こんにちは!私は地球の人間です!日本から来た日本人です!田中といいます!今日は挨拶にきました!」


 私はこのセリフをゆっくりと何回も話し、30分程繰り返し話したところで、また明日も来ますと言ってその場を離れ、ハイラル家へと戻っていった。


 帰りも当然モルサール流歩方術で移動し、割と良い感じになってきたようで、上半身の上下幅が小さくなり、行きの時よりも無駄な力が抜けてより速く進めるようになり、そのおかげで夕食までに十分余裕をもって館へと到着することが出来た。


 しかしながら片道約4時間、往復で8時間以上、しかも歩行中はほぼ休みなく進み続けたため、その反動が身体のある部分に大いに影響した。

 といっても足が筋肉痛になっているわけでもないし、全身が疲労しているわけでもない。

 では何が影響したのかというと、ひたすら腹がグウグウ鳴り続けるというものだった。


 確かにお腹は空いているのだが極度の空腹というわけではないにも関わらずこうもグウグウ鳴るというのは、これまであまり体を動かしてこなかった上に美味しい物をたらふく食べてきたことでどうやら胃の方が堕落してしまったようだった。


 そんな私の様子に子供達は大ウケで、とりわけイザベルは何度も私のお腹に耳を当てたり手を当てたりして音を確かめてその度に手を叩いて大笑いしていた。


 ソフィーリア婦人は私に謝っていたが、こんなにも可笑しく笑うイザベルを見たのは初めてだという事で、謝罪しながらもそんなイザベルを嬉しそうに見つめていた。


 最初は少し恥ずかしかったが、当然全く気分を害するような事はなく、私はイザベルの好きなようにさせていた。


 その後夕食の時間になり、私の席の前には一回り大きな皿に料理が盛り付けられていた。ちなみに夕食の時もイザベルは私の席の隣に座って、朝と違ってイザベルの方から私にアーンして何度かイザベルのミートボールを食べさせてくれた。


 食後は今日も小さな子供達はウトウトし始めたのでソフィーリアと一緒に退室し、その後も昨日と同様に各自退室して行った後、残ったリシャールに今日の事を報告した。


 リシャールは私が馬も乗らずに徒歩だけで現地に赴き、初日でそこまでの進展があった事に大いに驚き称賛してくれた。

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