第65話
その後もリシャールから今の時点で知り得た情報を詳しく聞き、3日後には領地に戻るというので、私も便乗して一緒に行く事にした。
これにはリシャールもソフィーリア婦人も大いに喜び、前日は泊まりに来てくれと言い、今日のように迎えに来てくれるとの事だった。
来た時同様城塞都市まで送り届けてもらい、早速私は荷物の準備をすることにした。といっても替えの下着や衣服を洗濯をするだけなのだが、先日鬼の怪人退治から帰ってきたばかりなのでまだ結構洗濯物が溜まっており、自分で洗濯するのも面倒だったので、高級宿の1階エントランスの受付カウンターに行ってランドリーサービスがないか尋ねたところ、思った通りあるようで、早速手配してもらい部屋まで取りに来てもらう事にした。
すぐに中年の女性の人がやってきてカゴに入れて一番高いコースの料金を支払った。女性はとても喜んで、明日の夕方までに全て送り届けるとのことだった。
その後マチャントと合流して一緒に夕食を食べに少しお高い居酒屋に行き、マチャントは給仕にチップを多めに渡して個室を用意してもらい、互いの今日の事を話し合った。
「なんと!そこまで話しが進展しましたか!」
「はい、思った以上にハイラル家の人達は良い方々でした」
「私の方でも情報を仕入れたのですが、確かにハイラル家の評価は比較的良かったです」
「比較的?」
「はい、ほとんどが好意的に捉えているのですが、どうも王侯貴族の中にはハイラル家の人の良さが偽善的だといって気に入らない方々もいるようです」
「なるほど、なんか分かる気がします」
「領民に媚びを売っていて、高貴な貴族らしくないと思っている一部の貴族もいるみたいですねぇ」
「あ~やっぱりいるんですね」
「ええ、でも今は昔と違って貴族が権威を振りかざして世の中を統治する時代ではないので、こうした考えの貴族は時代遅れの少数派です」
「そうなんですね」
「財政的な面では一時期の栄華を誇っていた時代よりは大分下がりましたが、それでも常に黒字を保っており商工組合への借り入れは一切ありません」
「確か先代の方が将来を見越して農地開拓や道路整備などを行ったんですよね」
「おお、そんなところまでお聞きになりましたか」
その後も色々とマチャントからハイラル家と領地に関する情報を聞き、大いに参考になったお礼にこの場の飲食代は自分が支払って宿へと戻った。
明けて翌日、アポなしでシャルロッテとマリーのいる離れの小屋に行ったのだが、いつもと変わらずマリーからは温かく迎えられて、シャルロッテも嬉しそうに出迎えてくれた。
相変らず美味しくてほっこりするお茶をすすりながら、ハイラル家の依頼で西へ赴くことを説明すると、シャルロッテはとても行きたがった。
「探検家というのは楽しい職業で良いのう、ワシも自由の身になったら探検家になろうかのう」
どうやら、先代当主シャルリッヒが天に召される日取りの検討が極秘裏に進んでいるようで、ヴォルリッヒとデルリシアンの回復と帰還を待って、そう遠くないうちに実行されるとのことだった。
シャルロッテは既に死んでいる事になっているので、晴れて自由の身になった後は簡単にモルサール家の敷居をまたぐ事は出来なくなり、マリーは少し寂しくなるとのことだが、それを機にマリーの方もシャルリッヒのお世話という名目の事実隠ぺい工作から解き放たれて自由になるので、その点においては大いに歓迎する事のようだった。
例えば母と一緒にマリーも旅をして、しかも途中からそれにシャルロッテも加わって女家族旅行をするのも凄く楽しそうだと想像していた。それなら安全面においても天才剣士シャルロッテがいるので大いに安心だ。
この日は結局昼も夕も食事をご馳走になり、しばらくここへは来れなくなるのでしっかりとマリーの手作り料理を味わって、二人の笑顔を記憶に刻み込んだ。
宿に戻って部屋に入ると、クリーニングサービスに出していた洗濯物が綺麗に折りたたまれていてベッドの上に置かれていた。タオルなどはフワフワに復活していて大いに満足する仕上がりだった。これなら次も是非頼むことにしよう。
そうして翌日の午後に1階エントランスの受付カウンターにてしばらく西側地域を旅する旨を伝えてチェックアウトの手続きを行った。
玄関を出ると以前送り迎えしてくれた人がやってきて、前回と同じ場所から馬車に乗って出発した。
その後ハイラル家別宅に到着すると、立派な馬車に加えて護衛の人が騎乗すると思われる馬が6頭もいて、地方の田舎貴族とはいえやはり貴族は別格なのだなぁと思い知ることになった。
そもそもこの別宅を持つ事といい、別宅に滞在しない間も庭園を含めた屋敷全体を維持管理する費用も相当かかるはずである。そうした費用を捻出出来るだけの資産があるというだけでも完全に一般市民の域を遥かに越えた存在だった。
さらにまた驚いたのが、護衛役の人達がギャラガ達とは大きく異なっていて、いかにも雇われ傭兵集団などではなく、まるでどこかの王に仕える騎士のようだった。
「タナカ殿でございますな、私は護衛隊長を務めているバリステレスと申します、お目にかかれて光栄に存じます」
「丁寧な挨拶有難うございます田中です、これからよろしくお願いします」
その後も次々と丁寧な挨拶をしてもらい、互いに握手も交わした。
「なんていうか、皆さんとても格好良いです、しかもとても礼儀正しくてまさにこれこそ騎士だと思いました」
「・・・」
「「「ハハハハハ!」」」
「なんとも嬉しいお言葉!そうですか、我々を騎士のようだと言って下さいますか!実に嬉しい名誉なお言葉を頂き有難うございます!」
「えっ?皆さん騎士ではないのですか?」
「はい、我らは騎士ではありません、騎士制度そのものが廃止されて随分経ちますから、今では祭りや式典などの時に当時の恰好を再現するくらいです」
「では皆さんは?」
「私達は普段はポウェトゥール流剣術道場の師範をしており、町の自警団の団長もしています」
「そうなんですね、でもその恰好はまさに騎士のようで凄く格好良いですよ」
「こちらの装備品はハイラル家が所有するかつての騎士用装備で、護衛任務で遠征する際は家紋を現わす意味合いも兼ねて着用します、見た目だけなく実戦的な防具としても今でも十分通用する素晴らしい防具です」
「なるほど、そうなんですね」
「それに盗賊に対してもとても効果があり、これまで一度も盗賊に襲われたことはありません」
「確かにその姿は大いに効果がありそうですね、ところでポウェトゥール流剣術というのはどういうものなんでしょうか?」
「そうですね・・・我が流派が他の流派と最も異なる点としては馬上で剣や槍などを用いる技を重視しているという点があります」
「なるほど!皆さんがまさに騎士に見えたのもその特徴によるものなんですね!」
「はい、かつての王侯貴族主義と騎士の時代が色濃く反映された流派だからですね」
「おお、タナカ殿!ようこそお越しくださいました!」
「あ、リシャール様、わざわざお出迎え有難うございます、今日は、いや今日からお世話になります」
「こちらこそお世話になります、何か至らぬ点がありましたらどうぞ気兼ねなくおっしゃって下さい」
「ご配慮有難うございます」
「では中をご案内いたします、間もなく夕食の支度も整います」
そうして当主自らの案内に付き従って、私は屋敷の中へと入っていった。




