第61話
温泉村へと戻った私達はすぐに合同組合の仮設作戦本部となっている村役場へと行き、大男の討伐が無事完了したという報告を行った。
役場の中はそれはもう大歓声に包まれ、あっという間にその吉報は村中に行き渡った。
そしてすぐにその大吉報の報告を特別な連絡鳥に付けて飛ばした。この鳥は数行程度の短い文章しか送る事が出来ないが、その分長い距離を休みなく飛ぶため明日には中央都市に到着するのである。
それから大男の頭部をリュックから取り出して金棒と一緒に披露すると、辺りは息を飲む程静まり返り、それからしばらくした後にようやく実感として事実認識出来たようで、もう一度割れんばかりの大歓声が轟き響いた。
その後頭部は凍り石と保温機能の高い容器に移され、森の奥に置いてきた身体を回収するため、怪我を負っていない無事な組合員達が召集されて現地に向かっていった。
次にベッドに横になっているヴォルリッヒとデルリシアンのところに行って、大男討伐は無事完了したと報告した。
「二人とも無事に帰ってきて良かった・・・本当に良かった・・・」
「まことにお見事でございました、お二方共に無事のご帰還、本当に嬉しく思います」
「ウム・・・」
「・・・もしかして・・・倒したのはやっぱりタナカだったのかい?」
さすが兄妹、それともモルサール八式で心を読んだのか、ヴォルリッヒは付けヒゲと眉毛で表情が分かりにくいはずのシャルロッテの浮かない様子を察して事実を見抜いた。
「ウム・・・じゃが、倒したのはワシという事になっておる・・・タナカがそうした方が良いと申したのじゃ」
「シャル・・・」
「御慧眼ですタナカ殿、そこまで考えられているとは感服致します、いや・・・それ以上にタナカ殿の優しさに感謝致します、シャル様のこれからの人生をお考えになられての事でしょう」
「えっ?それってどういう・・・あっ・・・もしかして、シャルはようやくこれで・・・」
ヴォルリッヒは最後まで言わなかった。この洞察力も優れた剣士の能力によるものなのか、それとも家族だからこそ気付いたのかは分からなかった。
「タナカ君、本当に有難う、君には何とお礼をすれば良いか・・・とにかく有難う本当に有難う」
こうしてシャルロッテの無事な姿を見せて二人を安心させることが出来たので、今度はヴォルタークとマリーを安心させるためにいち早く中央都市に戻ることにした。
私とシャルロッテが昼食を食べている間に出発の準備を整えてくれていて、来た時に利用した馬車には金棒と鬼の怪人の頭部が積み込まれた。ついでにお土産の名物温泉まんじゅうも。
その後村の住人達や多くの組合員達に見送られながら私とシャルロッテを乗せた高速馬車は中央都市に向けて出発した。滞在期間わずか3日での帰還であった。
帰りは盗賊の邪魔などもなく、順調に移動出来たので来た時同様3日後には中央都市に到着した。
先に組合に行くべきか道場に行くべきか悩んでいたが、城塞都市の大門前には各組合の代表達とヴォルタークが出迎えていたので悩む必要はなくなり、そのままかつての城を利用した大公会堂へと凱旋することになった。
これまで遠巻きに見ていた城だったが、今回初めて城に近づき中に入ってみると、それはもう実に見事なもので、今は昔程しっかり手入れされていないとのことだったが、それでも西洋の城など実際に見たことも入ったこともない私にとっては目の前の現実として存在する城に大感激していた。
広大と言っても良い玄関ホールから緩い半螺旋状のスロープを上り、かつては舞踏会などのパーティーが催された大ホールへと移動すると、白いテーブルクロスの上に様々な料理が並べられているのが目に入り、さらに前方のスペースには一段高い壇上が設けられていて、その周りは立ち入り制限用の装飾されたロープによって取り囲まれていた。
早速その壇上の上に持ち帰った鬼の怪人の頭部と金棒を飾る支度を始めたが、金棒は体格の良い職員が4人がかりでなんとか持ち運んでテーブルの上に横たえたのだが、その際ミシッとテーブルが軋む音がする程だった。
さらに鬼の怪人の頭部については、ガラス張りの容器に移し替えられたのだが、容器の中には美しい宝石が入っており、その宝石は物を腐らせない特別な力があると聞かされ、これが例の不思議な力が込められた宝石なのかと大いに驚き感心した。
討ち取った鬼の怪人の陳列が完了したところで、多くの人達が入ってきて、早速討伐完了祝賀会が開催された。
まずは中央都市を代表する市長からの挨拶に始まり、各組合の代表、それからモルサール流総本家当主のヴォルタークがそれぞれ挨拶し、見事大男を討ち取ったシャルロッテ扮するシャルリッヒに対してその栄誉を称え、入場した大勢の人達からは拍手喝采を浴びた。シャルリッヒには後日正式に栄誉賞を授けるとのことだった。
それから自由歓談となり、まずは討ち取った大男の顔を一目見ようと来訪者達は行列をなして並び、その大きな金棒と、額に大きなツノを生やした恐ろしくも格好良いイケメンの怪人の頭部を見て、驚きと畏怖の念と強者に対する尊敬の念などが入り混じったため息を漏らした。
大男を見終わった人はそのままシャルロッテ扮するシャルリッヒへと移動して祝辞を述べていった。シャルロッテには椅子が用意され、言葉少なめにウムと頷き貫禄のある姿を演じ続けた。その横にはヴォルタークが立ち並び、シャルロッテをフォローしているようだった。
シャルロッテには申し訳ないが、私にとっては実に有難い事にほとんど誰も私の事は目に入っていないようで、私はこれ幸いとばかりにズラリと並べられた料理に舌鼓をうっていた。
私は一人料理を楽しんでいたのだが、誰かが近付いてくる気配を感じたので、皿とフォークを置いてそちらの方を向いた。
「お食事中のところ申し訳ない、貴殿がかのタナカ殿でありますか?」
「えっと、はい、私が田中です」
私の前には30~40歳くらいと思われる相当イケメンな金髪碧眼の白人男性が立っていた。華美な装飾や刺繍は施されてはいないが、生地は当然、ボタンなども相当高級な仕立ての衣装を着ていて、これがまた憎いくらい似合っていた。
「おお!そうでしたか!お目にかかれて光栄です!私はハイラル家7代目当主を務めておりますリシャール・コルサ・デル・ハイラルと申します」
「わっ!えっ?当主?えっと、これは大変失礼いたしました」
「いやいや、頭をお上げください、こちらこそ突然お声がけして申し訳ない、当主と言っても今は昔のような貴族至上主義社会ではありませんし、ハイラル家は歴史だけは長いですが所詮地方の田舎貴族ですから」
「は、はぁ・・・」
「まずは此度の討伐、無事のご帰還おめでとうございます」
「有難うございます、でも私はシャル、シャルリッヒ様の単なるお世話役に過ぎませんから」
「これはご謙遜を・・・それでもあのように恐ろしい大男のいる森の中に入って行く勇敢さは称賛に値します、しかもそれより前に単身でかのドグリアスの穴を探検し、貴重な宝石や鉱石を持ち帰られたではありませんか、そして何より最も凄いのがかの魔の森からただ一人生還したという事です、これだけの事を成し遂げたタナカ殿は称賛に値する素晴らしい探検家です」
「いや~・・・なんとも恐縮です・・・」
「実はタナカ殿に、是非とも聞いて頂きたいお話しがあるのです」
「話・・・ですか?」
「はい、あまり大きな声では申せませんが、実は我が領地にも風穴の名所がございまして、どうやらその付近でも半年ほど前から何かが出現したといううわさが広まっているのです・・・」
「なんですと!」




