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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第58話

 その後本格的な作戦会議が始まり、前回来た時とはまるで比べ物にならない程に緻密で大きな地図が出来上がっていて、それには鬼の怪人の出没箇所もしっかり記載されていた。


 中央都市にもたらされた報告では調査員達はそれほど多くの情報を収集出来ぬまま撤退を余儀なくされたという認識だったが、こうして現地に来てみると、まったくそんな事はなく、皆かなり優秀な働きぶりをしていたのだという事が分かった。


 ここまで詳細な地図情報があれば先行偵察など必要ないんじゃないかと思ったが、肝心の鬼の怪人の習性や弱点などの情報が乏しく、ヴォルリッヒとデルリシアンの戦闘情報は確かに大いに役立つが、残念ながら弱点や習性、それとあるのかないのか分からないが性格などについての情報がなければ、攻略方法を立てられず、無駄に兵力を消耗するのは明らかだった。


 まぁ軍隊規模の大規模な山狩りを行うというならば兵糧攻めという手もあるが、軍事費もかなりかかり、たった一人?一匹?の対応の為に割く費用としてはあまりにも費用対効果が高く付くし、山の中なので食料になる様々な食べ物があり、ゲリラ戦術をとられてしまうとかなりの長期戦になり、ますます軍事費用がかかってしまう。


 そのため、やはり敵の弱点や習性を知ることは、なるべく被害を少なく短期間で敵を排除する上で極めて重要であった。


 以上の説明はほぼ全てギャラガの発言であり、ところどころシャルロッテの捕捉もあるが、そのシャルロッテは大いに感心し、ギャラガが習った北方の流派であるドゥーリー流を高く評価した。


 1対1を重んじるモルサール流と異なりドゥーリー流は多対多を重視しているので、純粋な剣術というよりは戦術指南道場といった感があった。とはいえもちろん剣術をメインに槍、弓、格闘などの戦闘技法についてもかなり高いレベルを有していた。


 その後昼食休憩を挟みながらも作戦会議は続き、一通り行動内容が固まったところで解散となった。作戦開始は明日の日の出前である。


 私とシャルロッテは温泉村を見て回り、足湯に浸かったり温泉団子などを食べて大分ゆっくりのんびりとした。


「まぁ明日で人生終了になるかもしれんからな」


 とはシャルロッテのセリフだった。何と言うかこうした発言がサラリと出てくるあたり、やはり厳しい修行を重ねてきた天才剣士の死生観なんだなと思わざるを得なかった。もちろんそんな事には絶対にさせない覚悟だが。


 ちなみにこの後、団子のタレが付けヒゲにベットリついてシャルロッテはかなりゲンナリし、私が丁寧に拭き取るという状況になった。店の人や観光客などから大分温かい目で見られた。


 そんなのんびりとした時間を過ごして1日を終え、この世界に来てからちょうど60日目の早朝、まだ日の出前という時間に私達はドグリアスの穴周辺の森へ向けて出発した。


 実は出発前に宿の部屋にてシャルロッテの防具装着を手伝ったのだが、その際シャルロッテの下着姿を見ることになってしまった。これは仕方がない不可抗力というもので、決してやましい気持ちなどはなかった・・・とは言い切れないが、ともかく防具装着に集中したのだが、それでもシャルロッテの身体はいつも見ている外見と違ってかなりグラマーだった。


「久しぶりに着けると大分胸がキツイのう、もっと紐を緩めてくれ」


 というセリフから察していただきたい。


 ともあれ、私はこの朝のハプニングで完全に覚悟が決まり、例え二度目の死を迎えたとしてもシャルロッテだけは必ず生きて返す事を決意した。


 そうしてギャラガ達と合流して温泉村を出て、森の手前まで進んだところでいったん停止して全員抜刀し、スナギンが刃先に猛毒を塗り込んだ。


 刃が通らないのは承知しているが、それでもかすり傷でも与えられれば効果はあるだろうということで何もしないよりはマシだった。また、シャルロッテはうまく剣を目に突き刺すことが出来れば倒せるかもしれないと、なかなかに残酷で恐ろしいセリフを発した。


「ウム?オヌシのカタナには塗らないのか?」


「それが、私の刀は毒を塗っても瞬く間に消えてしまうんです」


「なんと!さすが魔の剣じゃのう」


 こうして準備を整えて、ハンテルの先導の元慎重に森へと入って行ったが、詳細地図と出現予測ポイントのおかげで何もない状態で探索するより遥かに効率よく進むことが出来た。最初に訪れた時とはまるで違う移動速度だった。


「ここには恐らく2日前に寄ったようだ、これで大男の予測出現位置は3か所に絞ることが出来る、あくまでも予測の範疇の行動をしてくれれば、だがな」


 ハンテルの狩人能力は実に頼もしかったが、それだけ確実に危険も近付いているということの裏返しでもあった。


 さらに慎重さを増して一つ目の予測地点に向かったがそこにはおらず、その場所で30分程待機しても現れなかったので次の予測地点に向かった。


 間もなく二つ目の予測地点のエリアに入るというところで私は何か圧力のようなものを感じた。周りの仲間を見渡してみたが誰もそのような気配を感じた様子はなかった。


 シャルロッテはそんな私に気付いたようで、全く音を立てずに近づきどうした?と聞いてきた。


 私は感じたことを話すと、ギャラガは手に持っていたロープを引っ張ってハンテルを呼び戻した。


 例え結果的に不発だったとしても、誰かが何かを感じたならばそのフィーリングに従ってより一層行動を慎重にするというギャラガの判断は生存優先という点においては極めて正しく、私の思い込みかもしれない事に対しても軽く受け流すことなくしっかりと対応した。


「この位置からではさすがに分からないが、そういう感覚は大事だ」と、ハンテルも同意してくれた。


「ならばワシが行こう、モルサール流一式を使って隠密移動をする、うまく至近距離まで近づけるようならば雷声を使う。オヌシら適当なところで耳を塞いでおけ、間に合わなくてもしっかり心の準備をしておけば気絶するのは免れるじゃろう」


「えっと、私はどうすれば?」


「タナカはまだ一式は使えないから・・・そうじゃのう・・・ハンテルよ、タナカはとんでもなく速く走る事が出来るが、どの位置で待機すれば最も速くたどり着ける?」


「・・・ここだ、ここならば雑木林が薄いから一気に突っ切れる、ただし敵からも発見されやすい」


「なるほど分かった、その方角を意識して立ち回ることにしよう」


「ギャラガよ、オヌシらはどこで待機する?」


「俺達は・・・ここだ、見つかりにくいし、撤退する時もここが最適だ」


「ウム、いいか、最悪一人でも良いから生き残って情報を持ち帰るんじゃ、まぁギャラガは分かっていると思うが誰も英雄を気取るなよ」


コクリ・・・


「では、行く」


「お待ちを、これを着ていくとさらに姿が見えなくなります」


「ホウ、これは良いな、これでますます気付かれにくくなるぞ」


 シャルロッテはハンテルの偽装マントを羽織り、モルサール一式を発動して音もなく進んだ。3秒くらいまでははっきり目に見えていたが徐々に気配が薄くなり10秒も経たないうちに全く見えなくなった。


「オレにも分からん・・・何という恐ろしい技だ」


 狩人のハンテルですらそう漏らす程だった。


 その後私達も所定の位置に向かって静かに慎重に行動を開始した。

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