第57話
「して、その大男というのはどんなだった?」
「人間・・・とはとても言い難い存在だった」
「ええと・・・タナカ殿、そこに立てかけてある、そう、それです、そちらを見て下さい」
「えっ!!コレッ!?コレですか?」
「何だ、タナカ、ワシにも見せてくれ」
そこに描かれていたのは鬼のような怪人だった。
実に不謹慎ではあるがかなり格好良い姿で、全身青味がかった肌をしているが、皮膚はまるで硬い鎧のような皮で覆われており、額には大きな一本のツノが生えており顔がかなりイケメンな怪人だった。そしてお約束の金棒を持っていた。
「何じゃこれ?ホントにこんなモンがおるんか?」
「信じられないと思うけど、その絵はまさに本物ソックリの絵だよ」
「これを描いたのは?」
「もちろん調査団の探検家の一人で、危険を顧みずかなりの至近距離まで近づいて懸命にその姿をしっかり観察し続けたのです、その間多くの調査団達が怪我を負いながらも囮になってくれました」
「大勢の腕利き達で挑んだだけでなく、我が流派の精鋭2人ともがそんな姿になったということは、コヤツの強さは桁外れという事なんじゃな?」
「桁外れ・・・で済むような話じゃなかったよ、もう馬鹿げた強さだった」
「そんな凄いのか!?」
「まず速さと力の強さが尋常じゃなくて、技でどうとかという次元を超えてた」
「そうですね、技に関しては我らの方が大分上を行っています、しかし我等人間が練り上げてきた技を嘲笑うかのような驚異的身体能力でした」
「ホント、かなりガッカリするものがあったね」
「術式が通じなかったのか!?」
「いや、一応通じはしたんだよ、だけど驚いたことに剣は斬れないし、骨折はおろか打撲すら与えられなかったし、正直これまでの修行は一体何だったんだって思うくらい失望させられたよ」
「何じゃそりゃ!兄ちゃんの剣だって結構な業物だったじゃろう?」
「そうだね、何なら鉄だって斬れるくらいなのに、コイツには全く歯が立たないからウソだろと思ったんだけど、デルリシアンと一緒に何度斬りつけても全く傷を与えられなかったから、それはもうかなり狼狽したよ」
鉄斬れるんだ・・・それでも歯が立たないって一体どんな相手なんだ?鬼の怪人怖ェ・・・
「ハンテルさんの弓矢もことごとく弾かれたけど、ハンテルさんが機転を利かして目を狙ったんだ、それもスナギンさんが矢に猛毒を塗ってくれたおかげで大男も嫌がって顔を手で覆ったから隙が出来て逃げられたんだよ、マッタク逃げるとか子供のころ以来だよ・・・」
「しかも折れた肋骨が内臓に刺さっていたから全然走れなくてさ、グルカンさんが手当てしてくれなかったら逃げ遅れて死んでたね」
普通折れた肋骨が内臓に刺さっていたら走れないどころの騒ぎじゃないと思うが・・・
「今回はギャラガ殿達の仲間には大いに助けられました、単純な個々の戦闘能力以上に状況判断や知識などにおいて優れた生存能力があります」
「そうでしたか」
さすがギャラガ達だ、ソルドンはさておき。
その後も実際に最後まで戦った2人にあれこれヒアリングをしたが、正直私には勝てる気がまったくしなかった。
それでも手紙にはシャルロッテと私なら勝てると書いた意図をデルリシアンに聞いてみた。
「シャルロッテ様、これから話す事は酷く気に入らないと思いますが、どうか聞いていただきたい」
「申してみよ」
「ハッ、恐らくシャルリッヒ様の愛用の剣をもってしてもあの大男の固い皮を斬ることは不可能だと思います、しかしタナカ殿の魔の剣ならば可能かも知れません」
「フム」
「ですが、タナカ殿の剣はタナカ殿にしか持つことが出来ません、そのためシャルロッテ様は大男の牽制役として立ち回り、タナカ殿は背後などから大男に斬りかかるのです、さすれば討ち取る事が出来るかもしれません」
「それだけやっても、かもしれない、というのか」
「ハッ、真に遺憾ながら・・・」
「ワシはモルサールの歴代剣士の中でも最強の大天才だと思っとったんじゃがなぁ・・・やはり世界は広く、上には上がいるんじゃなぁ・・・」
「でもシャル、相手は同じ人間の剣士じゃなくて怪物だよ?上の存在とは違うんじゃない?」
「怪物だろうが何だろうが上は上じゃ、軍隊相手の戦争ならいざ知らず、1対1を信条とするモルサール流総本家としては例え相手が化け物であっても後れを取るわけにはいかんのじゃ」
ああなるほど、やっぱりシャルロッテはモルサールの血を受け継いでいるんだ・・・武人としての矜持が根っこにあるんだ・・・
「ハァ・・・まぁデルリシアンがそういうなら仕方ない、事実そうなのじゃろう・・・相分かった、ならばその戦法でやってやろうじゃないか、なぁタナカ」
「えっ!?わた、わたしが、ですか?」
「聞いてなかったのか?オヌシのカタナじゃないとこの怪物は斬れないらしいのじゃぞ」
「カタナ?」
「カタナ?とは?」
「おお、カタナというのはタナカの国の言葉で剣のことを言うらしいぞ、タナカのカタナじゃ、タナカカナナのカナナじゃ、違った、タナカカカカのカタタじゃ、いや、タカカカナナのアナタ・・・ブフーッ!アハハハハハ!最後のアナタって!ブフーッ!アナタ!アナタはないだろう!アハハハハハ!」
「えっ?なに?なにシャルは一人大ウケしてるの?分かんないんだけど・・・でも待って、ブフッ!笑わせないで、笑うとブフッ!痛いッ!痛タタタタ!肋骨が!折れた肋骨が!グフフフ!って痛いッ!」
この兄妹は揃って何をやっているんだとツッコミたくなりそうだが、2人とも最高に美形で笑っている顔がまたすこぶる美しいもんだから黙って見惚れてしまった。まぁ落ち込んで沈んだ顔をしているよりは断然良いか。
とりあえず聞きだせることは全て聞いたので、安静にするように言って部屋を出た。
その後ギャラガ達のところに行って、彼等からも情報収集することにしたのだが・・・
「俺達も一緒に行こう」
「えっ!?いや、皆さんをそんな危険な目には遭わせられませんよ!」
「タナカこそ何を言ってる?いくら先代当主様とはいえ高齢のお方と、記憶喪失で探検の知識も喪失しているタナカを一人でいかせることなど出来るはずがないだろう」
「そうだ、既に我らはアレをこの目で見て体験しているし、こうして無事生還しているのだぞ」
「そうだ!例え私の腕では足手まといになろうとも先代当主様の盾代りくらいにはなるぞ!」
「オヌシじゃ盾にもならん、一撃で瞬殺じゃ」
「グッ!・・・い、いかにも・・・己の無力が悔しいです・・・」
シャルロッテの気遣い無しの強烈な事実指摘で凹むソルドンを見ると少し可哀そうな気がした。
私はどうします?という表情でシャルロッテの顔を見た。声には出さないがしっかりと頭の中で念じたので恐らくシャルロッテはモルサール八式で読み取ってくれていることだろう。
「フム・・・しゃあない、オヌシ達には打ち明けるとするか・・・ワシらはな、あの化け物を討ち取るつもりじゃ、偵察任務なんちゅうのは建前じゃ」
言ってしまったか・・・まぁ、シャルロッテならばそう言うだろうと思った。
「・・・やはりそうでしたか・・・」
「私には分かっておりました!先代様!」
まぁソルドンならそう思うのも分かるが、さすがにギャラガまでそう考えていたとは驚きだった。
「もし付いてくるというのなら、オヌシら死を覚悟せねばならんぞ」
困った事にギャラガ達は皆真剣な表情で頷き、一緒に来る気満々だった。




