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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第56話

 私は間合いを間違えないように巨木と自分の距離をしっかり確認して巨木の前に立ち刀を抜いた。


スラリ・・・


「ハハハ!そんな細っこいナイフのような剣で斬れるものか!」


「「「ハハハハハハ!」」」


 確かに刀の全長よりも木の幹の方が太いので、そのまま水平に斬ると一太刀では難しい、盗賊達を黙らせるには一刀両断で斬り落とさなければならないので、私は斜めに斬ることにした。そうすれば巨木の自重で倒れてくれると思ったからだ。


 私は右斜め上段に刀を構え、以前シャルロッテに教わった力を抜いて重力を用いた一振りでいこうかと思ったが、周りの盗賊達を驚かすパフォーマンスとしては若干迫力が足りない気がしたので、自分流のアレンジを加えることにした。


「スゥーーーハァーーースゥーーーハァーーースゥーーーハァーーー・・・」


「「「・・・」」」


「キエェェェェーーーイッ!」


ドンッ!パキィィィンッ!


ミシッ!メキメキメキ・・・


「うわっ!ボケッとするな!倒れるぞッ!」


「「「うわぁーーーッ!」」」


バサバサバサ!ズシィィィン!!


「「「・・・」」」


「どうだ!一刀両断して見せたぞ!」


「しっ・・・信じられん・・・」


「この足元を見てみろ!これがモルサール流総本家の単なるお世話役の力と技だ!」


「どれどれ・・・」


「「「オオォーーーッ!!」」」

「「「スゲェーーーッ!!」」」


 硬そうな地面にはクッキリハッキリとこれまでで最高の4センチくらいの深さの足跡がついていた。


 今回私は例の重力を利用した脱力に加えてさらにそれを加速させるための筋力を使った。その際せっかくの動きを阻害するブレーキとして作用する筋肉まで働かないように意識した。まさに考えて出来る事ではなく感じたままに従って動いた。


 さらに私は地面に刀を突き刺して、誰かこの剣を抜いて見ろと言った。もしも抜けた者がいればこの剣をやるとまで言った。


「オレがやる!」


 いかにも腕自慢の男が威勢よく前に出てきて、私の太ももよりも太いんじゃないかという上腕二頭筋とそこに施している入れ墨をこれ見よがしに見せびらかして刀を掴んだ。


「こんなのナイフよりも軽いぜ!・・・ウン!?」


「「「・・・?」」」


「フンヌッ!・・・?スゥー、フゥー・・・オリャァァァ!チョリャァァァ!キャオラァァァッ!」


「オイオイホントか?」


「ブハァーーーッ!ダメだ!ビクともしない!」


「次はオレだ!」

「オレがやる!」

「オレもだ!」


 結局誰一人として1ミリも動かせなかった。


「これがモルサール流総本家の世話役の実力だ!兄弟子たちはこの10倍は強いぞ!ましてや当主様などは雲の上のような存在だ!」


「「「・・・」」」


「スゲェ・・・」

「ああ・・・」


「わ、分かった、邪魔して悪かった、すぐどける」


 そうしてついさっきまで威勢の良かった盗賊達はすぐに道を空けて通してくれた。


「オヌシやるのう!」


「思った以上にうまくいきました」


「機転を利かせる頭にも感心したわい」


「前にもらったものが役に立って良かったです」


「おまけにかなり口も達者じゃった、モルサールの九番目に付け加えようか、戦わずして勝つための話術とかな、キシシシシシ!」


「ハハハハ、からかわないでくださいよ」


 こうして途中足止めを食らったが、それでも時間にして20分程度の事だったので、それほど予定時間に影響なく温泉村へと到着した。


 シャルロッテはヴォルリッヒとデルリシアンが出迎えてくれるとばかり思っていたが、真っ先に出迎えてきたのはギャラガ達で、すぐに組合が手配した宿屋へと案内してくれた。


 すぐに温かい食事が運ばれ、今日はもう遅いのでヴォルリッヒとデルリシアンには明日面会して話しを聞くことになった。


 両名とも今は休んでいるとのことで、しっかり意識はあり重症状態からは脱したが、まだ立って歩ける程には回復していないとのことだった。


 とりあえずいつもより遅い夜食を食べて、今日のところは休む事にした。のだが・・・


「おっ!我等の部屋には風呂があるぞ!やった!」


 シャルロッテの言う通り、私達の部屋にある庭には小さな露天風呂があった。


 シャルロッテはすぐにその場で服を脱ぎ始めたので、私は慌ててその場を去ろうとしたところ、怪しまれるので部屋から出るなと言われた。


 さらにもしも入浴中に誰かが入ってきて今の姿を見られたらこれまでの10年以上の苦労が全て台無しになると脅され、とりあえず誰かが訪ねて来た時に備えて部屋の中で待機するように頼まれたので、私は目の前のドアを凝視して決して後ろを振り返らないと固く誓ってシャルロッテの言う通りにした。


 その後シャルロッテからもういいぞと言われたので振り返ろうとしたが、何故かこれはダマシだと気付き、後ろを振り返るのではなく、常に壁を見ながらカニのように横歩きした。


「チッ!気付いていたか、つまらんのう!」


「早く服を着て下さい、後私もお風呂に入っても良いでしょうか?」


「いいともいいとも、せっかくじゃからワシが背中を流してやろうか?シリも拭いてやろうか?キシシシシシ!」


 まさに露骨な酷いセクハラではあったが、もちろん全てを正直に告白するとそりゃ男としてはアレがアレしてアレな気分ではある。だがしかし、今はそんな状況ではないし、シャルロッテも当然冗談で私をからかって楽しんでいるのが分かっているので、私は当たり障りのないツッコミを入れて、そそくさと服を脱ぎ始めた。


 まさかホントに入ってこないよなと少しだけ緊張しつつ久しぶりの湯船に浸かるとそれはもう実に心地良く、やはり風呂、それも天然温泉の露店風呂は最高だなぁ~と星が綺麗な夜空を見上げながら入浴を楽しんだ。


 すっかり心と身体を癒して風呂からでると、シャルロッテはスゥスゥと寝息を立ててグッスリと寝ていた。さすがに変装は解いた状態なので、そのとてつもなく美しく可愛い寝顔はあまりにも神々しく、そのまま見続けたら天罰が下りそうだったので、目を逸らして私もすぐに寝る事にした。


 翌朝、お互い寝ぐせで髪の毛が盛大に爆発しているのを見て笑い合い、軽く朝風呂に入った後で私は朝食を取りに1階の食堂へ行って部屋に戻り、シャルロッテと一緒に朝ご飯を食べた。


 昼は個室で二人きりの食事ではないのでフサフサのヒゲを付けながらの食事をしなければならず、食べにくいうえにヒゲに汁などがつくのが地味に嫌だということだった。


 食後、ヴォルリッヒとデルリシアンに面会することになり、病室になっている部屋へといくと、ベッドに横たわっている二人の姿と対面した。


「まぁこの通り一応元気なんだけど、それでもこのざまだよ、何とも面目ない・・・」


 病室には私達以外誰もいないので、ヴォルリッヒは普通に会話した。


「私もついていながらこの体たらく、ヴォルターク様に合わせる顔がありません」


「いやいや、頼むからそんな事言わないでおくれよデルリシアン、君がいたおかげで凄く助かったんだから」


 話によると、二人とも最後まで調査員を逃がすために大男を引き付けて相手をし、ヴォルリッヒは右の肋骨が全て折れ、デルリシアンは肩から鎖骨にかけて粉砕骨折するという大怪我を負いながらも、何とか生還することに成功した。


 ハンテルが指揮する弓矢隊のおかげで隙を見て脱出出来て、応急処置についてはグルカンの手当てのおかげで再起不能には至らなかったそうだ。

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