第52話
今日も至福のひとときのランチタイムを過ごし、食後のお茶をまったりと飲んでいた。しかも有難いことにヴォルタークはこの日も会合に向かって行った。恐らく昨日の警備強化の件だろう。
「昨日は慌ただしい様子じゃったが、石ころは売れたのか?」
「そう!そうなんですよ!聞いてくれますか?実は・・・」
「じゅっ、じゅうおくぅ!?」
「わぁ凄い!凄いお金持ちです!」
私は昨日競売で起きた事と、その後マチャントが懸念した事を全てシャルロッテとマリーに話した。
「驚いたのう・・・青銀鉱石は良い剣の材料になるからまだ分かるが、わしはキラキラ光る宝石は全く分からん、母ちゃんは大好きじゃが・・・」
「でも宝石の中には元気になったりするものがあるって本で読んだ事がありますよ」
「そういえばワシもずっと明るく光り続ける宝石があるというのを何かで知った記憶がある」
「そんなのがあるんですか?」
「ええ、いくつかこの町にもとても大事に保管されていると聞いたことがあります」
とうとうここにきていよいよファンタジー世界では定番の魔法に関するものが出てきたかもしれないと思い、私はかなりワクワクしてきた。後で商工組合か探検家組合に聞いてみよう。
その後は昨日私とヴォルタークがやった剣による手首合わせの練習試合をシャルロッテも是非ともやりたいということで互いに真剣でやることにした。
シャルロッテの剣は先代当主シャルリッヒが愛用した剣で、青味がかった清らかな刀身は紛れもなく青銀鉱石で作られた美しい剣だった。
「良い剣じゃったが、間もなくヴォルリッヒ兄ちゃんの物になるのか、少し惜しい気がするのう」
そうして互いに真剣を用いて手首合わせの練習を開始した。
昨日は状況的に結構本気でヴォルタークに挑んだのだが、今日は昨日程本気ではない状態なのにも関わらず刀を抜いた瞬間から手首から先に空気の膜が発生したように感じた。
「ムッ、オヌシ一日で会得したのか、歩方術といいその不思議な術といい恐ろしい習得速度じゃな」
「それを見抜くシャルさんだって普通じゃないですよ」
「そりゃ剣に限って言えばワシは天才じゃからな、では最初から自由に本気でいくぞ」
「どうぞ!」
フォンフォンフォン!スッスッスッ!
バババ!サササ!フュフュフュン!スススゥ!
まさに風を斬る、いや、空気を斬るシャルロッテの剣は美しい青い閃光を描いて目にも止まらぬ速さで縦横無尽に動いた。しかしそのいずれにもタナカカナタタのカタナはピッタリくっついたまま追従した。
「では次に剛の剣で行くぞ!」
「どうぞ!」
「ハァッ!」
ゴオッ!・・・ヌルウッ!・・・スゥ・・・
「何ッ!このダマシは決まったと思ったのに!」
シャルロッテは剛の剣で行くと宣言して、かなりの力を込めて打ち込み始めたのだが、実はそれは完全なウソで、直前で超達人級の技を用いてヌルリと腕の力を抜いて軌道を変えてくっついたままのタナカカナタのカタナを引きはがそうとしたのだが、それすらも予見していたかのようにタナカカナタのカタナはピッタリとまるで離れず追随した。
「まさかとは思うがオヌシ、モルサール三式を用いてワシの心を読んだのではないだろうな」
「いえ、さすがにそれは出来ません、でもカタナが教えてくれました」
「何だと!カタナとは何だ!?」
「あっ、剣です、剣のことです」
「その剣はカタナという名前なのか?オヌシは一つ名がタナカで二つ名はカナタで、剣の名がカタナ?タナカカカカカカナ、タカカカナナカナナ、タナカカナタタ・・・ブフッ!アハハハ!アハハアハハ!アハハハハハ!」
「いや、カタナっていうのは日本語でこういう剣のことを刀って呼ぶんです」
「アハハ!アハハ!そうなのか!カナナ!タナカカナナのカナナ!アハハハハハ!」
「ダメですよ姉さん、タナカさんに失礼ですよ」
「だって、タナカでカナナ、じゃないカタタ、じゃないカタタタ、ブフーッ!アハハハハ!」
「クスッ!ダメです!ダメなのにアハハハハ!」
どうやら二人の笑いのツボに入ったらしく、剣の練習はそこで終了となった。二人とも猛烈に可愛いので例え私がボロクソにクソミソにけなされようとも全く構わなかった。
「ハァーッ、なんとも久しぶりに腹がよじれるくらい笑った、しかしニホン言葉というのは言いにくくて難しいのう」
「そうみたいですね、外国の人には難しいみたいです」
「まぁそれはさておき、剣が教えてくれたというのは実に興味深い、これまでも数多くの達人達の伝承に似たような言い伝えが残っている」
「おお!」
「まぁ実際に剣が言葉を話したわけではなく、あくまでも達人達の心の中で起きた事で、そういう風に心から思い込む程に真剣に命がけで剣に取り組んだという事なんだろうと思う」
「分かる気がします」
「で、まさかとは思うが本当にその剣、カタナがオヌシに話しかけてきたわけではあるまいな?」
「ええ、言葉は話していません、でも刀が教えてくれたのは間違いないと思います、恐らく練習用の剣だったらシャルさんの最後の一振りには引っかかっていたと思います」
「ホウ・・・となると、やはりその剣、カタナは特別な剣なんじゃろうな、なんといってもオヌシ以外の者を拒絶する魔の剣じゃからのう」
「そうですね、特別だというのは間違いないです」
その後、なんとも幸いなことにヴォルタークはここには戻ってこなかったので夕食をご馳走になり、シャルロッテからは泊っていけと言われたが、もしもそこでヴォルタークが帰ってきたら確実に殺されそうだし、そうでなくとも金輪際出入り禁止になるのは確実なので、さすがに宿に帰る事にした。
一人宿に戻るとギャラガ達がいないのが少し寂しく感じたが、寝るまでの間マチャントが話し相手になってくれて、今日聞いた不思議な力を持つ宝石について尋ねてみたところ、見学可能かどうか明日商工組合にかけあってみると言ってくれた。
そうして次の日もあつかましくマリーとシャルロッテのいる小屋へと行ってモルサール八式についての説明を聞いたり、基本的な技の練習方法などを教えてもらって過ごした。
この日は一度もヴォルタークは来なかったので、とても素晴らしい日となったが、少しだけ何かあったのだろうかと心配になった。
その後昨日と同様に夕食をご馳走になり、宿屋に戻るとマチャントから貴重な宝石の見学について、条件付きで見学可という話を聞いた。
「例のドグリアスの穴周辺警備に協力してくれれば無料で見せてくれるそうです」
「うーん、そうきましたかぁ・・・」
確かにもしかしたらこの世界で初めて魔法らしいものに触れるかもしれないという機会はとても魅力的だが、マリーとシャルロッテと一緒に過ごす時間はとても幸せなひとときだし、温泉村に着くまでの間にある村のあのトイレ事情を再び味わうのはかなり精神的にキツイものがある。
とりあえず宝石見学についてはいったん保留にして、シャルロッテから剣を教えてもらう方を優先することにした。
マチャントからも一生遊んで暮らせるほどの大金が入ってきたのだから、危険な目に遭うことはなるべく避けて然るべきだと言われた。
そうだった、あまりにも途方もない金額で考えるのをほとんど放棄していたのと、マリーとシャルロッテと過ごす時間があまりにも幸せ過ぎて、自分は大金持ちになっていたのをすっかり忘れていた。




