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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第5話

 4日目の朝、私は何かしらの後遺症が出るようなこともなく普通に小屋の外の芝生の上で目覚めた。


 目の届く範囲にはもう一つのあの白いキノコがあったが昨日襲い掛かってきた強烈な食欲はなく、立ち上がって恐る恐る近づいてみても強い食欲衝動は働かなかった。


 さらに近づき無謀にも白キノコを手にして鼻に近づけてみたのだが、相変らずとても美味しそうな良い香りはしていたが、条件反射的に口に入れて食べてしまうこともなく、後で食べたくなったら食べようと考える程の余裕があった。


 そこでどうやら今朝は空腹で目を覚ましたのではないようだと気付いた。恐らく昨日は朝にピンク色の果物を食べて、その後白キノコも食べたから栄養が十分足りているのだろうと思った。


 さらにそこでふと思いついたことがあった。


 4日も経つのに全くおしっこもうんこもしていないのだ。思えばこの数日間全く尿意も便意も感じることがなかった。


 これは身体にとっては良くない状況で、栄養を吸収するのと同じ位、身体に溜まった老廃物を排出することは重要なのだ。


 とはいえ今も全く尿意や便意はないので、そのうち感じるようになることを期待して、今日は何をしようか考えた。


 考え始めてすぐに思い立ったのが今いる小屋、いや、この森林を抜けて人の入る町へと向かうことだった。


 昨日見た夢は鮮明に覚えており、この鬱蒼とした森林を抜けた先には大草原が広がり、さらにその先には畑があり、そしてさらにその先には町があったのだ。


 私はそれらが夢でみた景色にも関わらず、それが本当の事だと信じていた。何の根拠もないのに信じ切っていた。


 しかし果たして生身の身体でこの鬱蒼とした森林を抜けだす事が出来るのだろうか。さらにその先の大草原もかなり広大だった。


 町までたどり着くまでに必要な水、食料、医療品、防寒具等々・・・明らかに不足している。


 しかしいつまでもこのままこの場所に住み続けるのも無理だと思った。今はまだ生き続けられるが、いつかピンク色の果物や白キノコを食べ尽してしまうかもしれないし、寒い冬が来たら凍え死ぬかもしれない。そして何よりあまりにも孤独で退屈過ぎて生きる意思力がなくなってしまうかもしれない。


 昨日あのような夢を見たのには理由があるのだ。それこそこの始まりの場所から旅立つという大きな理由が・・・と、私は自分にとって都合の良い解釈をして納得し、この地を離れることを決意した。


 食料は現地調達以外にないし、当然夜は森の中で野宿するしかない。荷物を運ぶリュックもなければ寒さをしのぐ防寒具もない。替えの下着すらないのだ。つまり恐ろしいまでに絶望的なまでに装備品が足りないのだ。


 それでも私はこの場所から旅立つことを決意した。実に浅はかで自殺的行為ではあるがそれで死んでも構わないとすら思った。実際に最悪な状態になって死ぬほど後悔するかもしれないのに。


 私は小屋に戻ってベッドの上に置いた3つのピンク色の果物を持ってきて、枕と一緒にシーツの上に置いてシーツを丁寧に折り畳み、丁度良い大きさになったところでグルグル巻いて上半身にたすき掛けして胸の前で縛った。


 そして白キノコの残り一つをポケットに入れて、今のところ命の次に大事な刀を手にして池から流れる自然の用水路に沿って深い森の中へと突き進むことにした。


 温かなぬくもりを感じる優しい日の光が入り込む小屋付近の芝生の絨毯の終わりに差し掛かった際、一度だけ振り返って小屋を見て私は軽く一礼し、その後は一度も振り返ることなく暗く鬱蒼とした森の中へと入って行った。


 森へ入って最初のうちは特に行く手を遮るものもなく割とサクサク進んでいくことが出来た。時折進むのがためらわれる程の背の高い雑草が生い茂っていたが、その時は自然の用水路に入って進むことが出来た。


 私は全く足を止めることなく休むことなく飲まず食わずでひたすら歩き続けることが出来た。以前の私では絶対に不可能なことだった。


 細かい事かも知れないが、そもそも靴下を履いていない素足のままで革のブーツなど履いて歩こうものなら確実に靴ずれして足の皮膚が傷ついて痛くて歩けなくなっているはすだ。


 さらにまた細かい事かも知れないが、非常に重要な事としてこれまで蚊などの虫に刺されて痒い目に遭うこともなかった。


 これ程鬱蒼とした森の中なのだから蚊以外にも色んな毒虫やヒルなどの生物がいるはずで、野生動物のように硬い体毛で覆われいない非常に脆弱な皮膚を持つ文明人など格好の餌食なはずである。


 それ以外にも皮膚が直接触れるとかぶれてかゆみを伴う炎症を起こすようなトゲトゲやギザギザのある植物などにも悩まされなかった。


 もちろん今のところたまたままだそういう酷い目に遭っていないだけかもしれないので油断は出来ないのだが、数日前に全裸のまま半日以上過ごした時も身体のどこにも虫に刺されたことはなかったのでつい楽観的に考えてしまうのだった。


 だが危険なのは何も毒虫や毒のある植物だけではない。それ以上に危険なのが獰猛な肉食動物の存在有無である。今のところ一切動物の類を見かけてはいないが、まさか全く動物がいないなどということはないだろう。


 出来ればこのまま獰猛な肉食獣などに見つからずに進みたいところだが、こうして自然の水路を歩いていればいつかは水を飲みにやってくる動物に出くわす可能性は大いにあるだろう。


 とはいえ道を迷わないためにはこの水路を辿って歩いていく他になく、せいぜい周りを良く観察して進むしか選択肢はなかった。


 このようにほとんどネガティブな要素しかない状況にも関わらず私は気が滅入ることもなく、とにかくひたすら歩き続けた。一度も立ち止まることなく飲まず食わずで歩き続けた。


 だがやがて日が暮れ始めた時、いよいよそこで不安材料が出現した。


 どうやって夜を明かそう・・・


 さすがにこのまま地べたに横になって寝るというのは絶対に不可だった。様々なおぞましい想像が頭の中をめぐりそれだけで鳥肌が立った。


 例えばムカデやヤスデに身体中を這いまわされたり、耳の穴の中や鼻の穴の中に虫が侵入して卵を植えつけられたり、身体のあちこちがヒルやマダニなどの吸血生物に噛まれていたり・・・少し想像しただけで身体中が痒くなって気絶しそうになった。


 どうしたものかと考えていたところ、目の前に大きくて逞しい枝を生やした木があるのを見て、私は数秒間その木を見つめたところでアイディアが閃いた。


 まず私はその木に近付き、手を伸ばした辺りの所と胸の辺りの所の2箇所に刀の先を使ってえぐって手とつま先をひっかけられる穴を開けた。そして片手片足をひっかけた状態でさらに上の方に穴を開けてジグザグに互い違いに穴を開けては手足をひっかけてまた穴を開けて登っていった。


 我ながら信じられない程に器用にこなし、一度もしくじって落下することなく太い枝のところまで登ることが出来た。ちなみに刀の鞘は木の根元に置いてきた。


 いったん刀を木に突き刺して両腕をフリーにして枝の上に乗って進み2メートル程進んだところで上半身にたすきがけしていたシーツを解き、枕とピンク色の果物を下に落とさないよう注意しながら、シーツの四隅のうち頭側と足側の二組の隅を結んでシーツを前後に広げていった。


 そうしてシーツは左右で折れ曲がった状態で細長いUの字状態になり簡易的なハンモックのような見た目になった。


 私は枝にぶら下がりながら恐る恐るシーツの中へと身体を降ろしていき、シーツが破けたり縛ったところが解けませんようにと祈りながら徐々に指の力を抜いて少しづつ体重をシーツに預けていった。

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