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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第49話

 マリーの淹れてくれたお茶と、甘すぎない丁度良い自然な甘さでクルミか何かの実が入ったクッキーはとても優しくて温かくて美味しく、先ほどまで鬼のような形相で怒っていたヴォルタークもすっかり大人しくなり、何なら目を細めて嬉しそうな表情になっていた。


 私は極力口を挟まないように、自分はここではただの空気だと言い聞かせて、波風を立たせないように嵐が過ぎ去るのを待った。


「父上、会合で何か面白そうな話などはありましたか?」


「面白い話かは分からんが、タナカの話しで聞いた例のドグリアスの穴近くの森にいるらしい大男の件で高ランクの探検家と戦士に調査討伐依頼を出す事が決まり、ウチからはデルリシアンを出すことが決まった」


「ワシも行きたい!!」


「馬鹿者!オヌシが行ってよい訳なかろう!これはメンツの問題でもあるのだ!」


「つまらんのう・・・」


「そもそもそんな得体の知れないしょうもない事案にモルサール本家の先代当主を送るなど出来るはずないだろう」


「その先代当主の事じゃが、そろそろシャルリッヒ爺ちゃんは天からお迎えが来てもいいんじゃないか?父ちゃん、いや、父上」


「まだだめだ、ヴォルリッヒが修行の旅から帰ってくるまでは万が一のためにオヌシがいないとならんのだ」


「でもそろそろ厳しいぞ、シャルリッヒ爺ちゃんはもうじき90歳になるぞ、90歳でまだ剣が振れるというのは無理があるんじゃないか?普通どんなに長生きしても80歳というのが世の常識じゃぞ、いつまでも隠し続けるとヤバイんじゃないか?」


「分かってる・・・お前にはこれまで多くの苦労をさせてきた、歩むべき人生を狂わせてしまったと言っても良い、普通にお前の母のように幸せな人生を歩んでもらいたいのは親として当然の願いだ、しかし何とも残酷な事に天はヴォルリッヒではなくお前に最高の剣の才を与えてしまった・・・」


「ワシは今でもなかなか楽しい幸せな人生じゃと思っとるよ父上」


「すまん・・・ヴォルリッヒが戻るまでもう少し辛抱してくれ、手紙ではそろそろこちらに戻ってくると書いてあったが、あやつめ一体今どこで何をしているのか・・・」


「それはさておき、タナカよ」


「・・・はっ!はいっ!」


「オヌシ、そろそろ戻った方が良いぞ、何でもオヌシがドグリアスの穴から持ってきたとかいう石が競売でとんでもない事になっているようだぞ」


「えっ!?そうなんですか?」


「ああ、代理人の商人じゃ承認許可が出来ない程の金額になっているらしい、今頃お前の代理の商人も困っていることだろう」


「わっ!えっと、教えて下さり有難うございます!では私は失礼してそちらに向かおうと思います!」


「ああさっさと行け、しばらくここへはこなくてもいいぞ」


「気にせず明日も来いタナカ!」

「明日も来て下さいねタナカさん」


「え、えーと・・・はい、失礼します」


 マリーの作ってくれる夕飯をマリーとシャルロッテと一緒に食べれないのはとても残念だったが、さすがに今のちょいオコ状態のヴォルタークと一緒に食べるのはかなりキツイものがあるので、この場は素直に去ることにした。


 商工組合へと急ぎ足で向かう際、私はモルサール流の歩方術をおさらいしながら進んだ。


「よっ、ほっ、はっ・・・っと、やっぱり難しいな、よっ、ほっ、はっ・・・」


 普通ならこんな風におかしな歩き方をしている人がいれば割と注目の的になるのだが、ほとんど誰も私の事は気にしなかった。ここはモルサールの本部があるからモルサール流の歩方術を練習している門下生をよく見かけて慣れているんだろうか?


 そうしてモルサール流歩方術の練習をしたままで商工組合に到着し、受付窓口でライセンス証を見せると、職員は飛び上るように席を立って人を呼びに行き、すぐに上司と思われる人がやってきて、急いで一緒に来てくれと言って私を先導した。


 連絡通路を通って別館へと入ると、競売ホールは騒然としており、興奮した様子で大声を上げている人達で賑わっていた。


「2億2千!」

「2億2千2百!」


「2千3百!」

「2千4百!」

「2千5百!」

「2千7百!」


「3千!」


「「「オォーーーッ!!」」」


「2億3千!2億3千が出ました!」


 えっ!?何っ!?ええっ?いきなり2億ゥ!?


「他いませんか!?決まりますよ!」


「2億5千!」


「「「オォーーーッ!!」」」


 ちょ、マジすか!?って、いや待て待て、他の人の商品かも知れない、私の鉱石や宝石はそんなに沢山あるわけじゃないからとっくのとうに私の競売は終わってるかもしれない。


「2億5千!2億5千でいいですか!他いませんか!?いませんね?いいですね!?」


ゴンゴンゴン!!


「では、青色宝石は2億5千で仮決定となります!まだタナカ様がいらしていないのでこちらも仮決定となります!・・・えっ?・・・あっ!来ました!今タナカ様が参られました!!」


 終わってなかったーーーッ!!


「おおタナカ殿!ご覧の通り大変な事になってますぞ!」


「すいません!ご心配かけました!」


「いえ、私の方こそ任せて下さいなどと言って大分浅はかでした、タナカ殿の大事な用事を中断させてしまい真に申し訳ない!」


「いえ、気にしないで下さい、それにしても凄い事になっていますね」


「ええ、どうやら今西の王侯貴族連合に属する商人達が来ておりまして、彼等がほぼ買いあさっているという状況なのです」


「お話し中申し訳ありませんタナカ様、現時点までに仮決定している競売価格について説明させていただきたいのですがよろしいでしょうか?」


「あっ、はい!分かりました」


「有難うございます、それでは別室にご案内いたします」


 そうして私は係の人について行ったが、その際周囲からあれがタナカかといったような声を耳にしながら足早に移動した。


「何やら大事な用事の中、急ぎお越しいただいたようで、真に申し訳ありませんでした」


「あっ、いや、お気になさらないで下さい!全然大丈夫ですから!」


 マリーの手作り夕食を逃したのは残念ではあるが・・・


「先ほどマチャント氏がお話しされた通り、良いのか悪いのかちょうど今西側の王侯貴族連合の商工組合に所属する商人達が来ておりまして、今回の件を聞きつけた彼等がこぞって競り落としているという状況で通常の倍以上の落札額がついています」


「倍以上ですか!」


「はい、しかしそれはタナカ様が危険を冒して持ち帰ってきた品々が大変貴重で素晴らしい物であったからこそで、それだけその価値を正しく認められたということでもあります、今回の競売でこちらにも多額の利益が生じますので、我ら商工組合としてもタナカ様には大いに感謝しております」


「いえ、こちらこそ有難うございます、とても嬉しいです」


 実際のところ私は全く危険を冒してなどおらず、むしろ楽しくお宝発掘をしていただけで、次の日になって周辺の森が実はかなり危険だというのを知ったという有様で、そんな単なるレジャーに近いような事でこれほどまでに大金が手に入り、巨大組織から感謝される程に大事になるとは思いもせず、こんなラッキーな事が起きてしまうと、何だかその反動で後で良くない事が起きるんじゃないだろうかと少し心配になる程だった。

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