第48話
「そんなに怒る事ないじゃろう父ちゃん、じゃない、父上、いつもの手首を当てて遊ぶ流水式の練習方法をやっておっただけじゃよ」
「何を言うか!抱き合ってるように見えたぞ!」
「あれはタナカが凄かったからじゃ」
「何ィッ~!?凄いだとォ~!?一体何がどう凄かったというのだタナカ!貴様シャルに何をした!答えによってはこの場でたたっ斬るぞ!!」
「えっ、あっ、いやっ、うにゃっ」
「タナカさんは変なことしてませんッ!!」
「なっ!?マリー!?」
「おお!凄い気迫じゃ!初めて見たぞマリー」
「姉さん!ちゃんと説明して下さい!」
「ひゃあ!すまん!」
腰が抜けかかってしどろもどろになってかなり無様な姿の私に対して、マリーが凛として私を弁護養護保護してくれた。女神様のようなマリーだが、今は戦の女神のようだった。
その後シャルロッテは真面目にこれまでの経緯を説明したが、父親の顔を伺うのではなくマリーの顔を伺いながら殊勝な態度で説明した。もちろんマリーも一緒に私を弁護するように説明した。
「父上もやってみるとよい、そしたらすぐに分かるぞ」
「娘の手に触れて喜んでいるヤツの手などに誰が触れてやるものか!・・・いや、待てよ・・・よし、それ程の腕前ならば剣同士で触れ合っても同じことが出来るだろう、シャルの言っていることが本当かどうか剣で試してやる、抜け!タナカ!」
「えっ!!けけけ・・・剣で!?」
「お父様ッ!」
「案ずるなマリーよ、斬ったりせんわ、ただコヤツがシャルが言うような者じゃなかったら金輪際ここへは立ち入り禁止だ!」
「ムムム・・・それは困るぞ、タナカよ頑張ってくれ!」
「ととと、とても自信がないです、怖くて震えてますし」
「大丈夫じゃ!剣は手の延長!身体の一部じゃ!オヌシなら出来る!マリー!手伝ってくれ!」
「はい姉さん!」
シャルロッテとマリーは私に近づいて私の手を握った。右手はシャルロッテ、左手はマリーで、とても暖かくて柔らかくて優しくて今この場でもう一度死んでも後悔はないとさえ思えた。
「こら!離れんか馬鹿者!」
「どうじゃ?」
「どうですか?」
「やります!いけます!死んでもやります!」
「そのイキじゃタナカ!」
「がんばって下さい!タナカさん!」
今ので完全に震えはとまり、私の覚悟は決まったので、目を閉じて深く息をして頭のてっぺんから大気中の元気の源を掃除機のようにどんどん吸い取ってへその下へと溜め始めた。
「こりゃ、凄いのが見れるぞ、ワシがタナカの相手じゃないのが実に残念じゃ」
スラリ・・・
「準備は良いか」
スラリ・・・
「はい」
目を開けるとヴォルタークはこれまで見たことのない黒い刀身の剣を持って構えていた。光の当たり方によっては赤みがかっているようにも見えて、まるで沢山の血を吸った剣のように見えた。
「約束通り貴様を斬ることはせんが、貴様の剣はダメになるかも知れんぞ」
「承知しました」
「ならば来い!」
ザッ!
スゥ・・・
私はへその下に大量に集めた元気の素を今回は右手ではなく両手に大量に送った。まるで大河を流れる川のようにタップリと送った。そしてそのままカタナへと送った。シャルロッテの言う通り、剣は手の延長身体の一部という言葉を思い出して元気の素を送った。すぐにシャルロッテの言う通りだというのが分かった。
我ガカタナハ我タナカカナタノ一部ナリ。
「ムッ!?」
「スゲェ・・・スゲェぞタナカ・・・」
「はい!凄いですタナカさん!」
フォンッ!スッ、ウゥォン!スゥッ
ヴゥォン!スゥゥッ
ヴォルタークは最初から練習なしで剣を動かしたが、タナカカナタのカタナはまるで磁石で吸い付くようにヴォルタークの剣に追随した。
ダダダッ!サササッ!
バババッ!スススゥ
バッ!バッ!バッ!スッスッスゥ・・・
ヴォルタークはいよいよ剣のみならず体ごと縦横無尽に動き回って剣を振ったが、タナカカナタのカタナはことごとく追従してくっついたままだった。かなり異様な光景だった。
「フゥーーーッ、スゥ・・・」
「あっいかん!そりゃ反則!」
「ギィヤァアアアアアオウ!!」
「きゃあ!」
ヴォルタークは雷声を使い、今回はタナカカナタではなくマリーが驚きの声をあげた。
ダンッ!ドヒュッ!
ムニュウゥゥゥ~・・・
「なッ何と!!」
雷声をあげたヴォルタークはそのままタナカカナタを真っ二つにする勢いで凄まじい一撃を放った。踏み込んだ足が地面にめり込む程だったが、まるで柔らかいゴムのようなものに当たったかのように見えない膜に受け止められた。
「グッ!?グヌヌ!?ウヌヌゥーーー!!フンヌゥーーーッ!!ウゥォーーーッ!!」
・・・ドスン
それから剣とカタナの鍔迫り合いのようになり、ヴォルタークはこめかみに血管が浮かび上がる程力を込めてタナカカナタを押し沈めようとしたが、全く力の込もっていないように見えるタナカカナタに徐々に押し返され、膝を曲げていたタナカカナタが膝を伸ばして立っただけで、ヴォルタークは押し負けて尻餅をついてしまった。
「それまでいぃぃぃッ!!双方それまでじゃ!!」
「きゃあ!タナカさん!凄いです!凄いです!」
パチパチパチパチ!!
「え・・・えっと、失礼しました・・・」
「当主様、お手が要りますか?」
「!?・・・いっ!要らんわ!自分で立てる!」
またしてもいつの間にかヴォルタークの側に静かに立っているデルリシアンだった。
「貴様、いつから見ておった」
「最初から見てました」
「ウヌヌ・・・」
「それにしても凄いものですね、これが流水式の神髄というものですか?」
「タナカは今日初めてこれを知ったんじゃ」
「まさか、それはタナカ殿が魔の森で記憶喪失になられたからで、身体の方はしっかり覚えていたということじゃないですか?」
「いや、それはない、どうみても最初は素人の動きじゃった、とはいえ普通じゃありえない速度で上達したのは確かじゃ、タナカは本当に不思議なヤツじゃのう、これまで出会った剣士とはまるで違う」
パンッ!
「はい!お遊びはそれまでです!皆さん中に入ってお茶にしましょう!」
マリーはパチンと一つ手を打ち鳴らして、誰が見ても途中から真剣勝負だったのをお遊びと称して、この場を落ち着かせた。皆を落ち着かせたというよりはヴォルタークを落ち着かせたようだった。
「それにしても父ちゃ、父上はワシ達娘に心配性過ぎるのじゃ」
「仕方ありませんよ、なにせ血の気の多い剣の馬鹿達が多く集まっているわけですから、父親としての当主様がご心配なされるのも当然の事です」
「大丈夫じゃ、マリーにはワシがついておる」
「剣の腕では安心ですが、色恋の技においては世の中には実に手練れた者もおります」
「おお、確かにそんな技はワシはからっきしじゃ、でもワシもマリーも人を見る目はそれなりにあると自負しておるぞ」
「承知しております、しかし色恋沙汰というのは時にそうしたものをも超える不思議な魔力があるのです」
「ホウホウ!それは面白いのう!」
「要らん話はするな!!」
「失礼いたしました」
「なんじゃ、面白そうじゃったのに」
「まぁまぁ、お茶が入りましたよ、お父様どうぞ」
「ウ・・・ウム」
離れにある小さな小屋の小さなダイニングテーブルで皆肩を寄せ合ってお茶をすするのであった。私は立たされていないだけマシだった。




