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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第46話

 シャルロッテの言う通りひたすら素振りをしていたせいでお腹が凄く空いたので、マリーが作ってくれた料理は昨日よりさらに一段と美味しく、それだけでなく手作りの優しいぬくもりを感じて私は涙が出そうな位感激した。


「何じゃオヌシ、今にも泣きそうな顔して、筋肉痛か?」


「いえ、身体の方はなんともありません、マリーさんの料理がとても美味しくて優しい味なので泣きそうなくらい感激しているのです」


「まぁ、とっても嬉しいです」


「キヒヒ、オヌシも言うのう、父ちゃんがいたら首チョンパされるかも知れんぞ」


「ウグッ!・・・ウングッ!」


「あら大変!お水をどうぞタナカさん!」


「・・・ゴクン、プハァ~ッ、ありがとうございます」


 実際気配を消したヴォルタークがいるかも知れないので今のは洒落になっていなかった。


 しかしその後そんな恐ろしい事は起こらず、美味しいお昼ご飯を食べて食後のお茶を飲んでゆっくりとくつろぐことが出来た。


「それにしてもオヌシは実に不思議で面白いのう、素人なのか達人なのかまるで分からん、さらにオヌシの持ってるその剣じゃ、魔の剣とはよくいったものじゃ、さすがにこうして目の当たりにすると本当に存在するんだなと感心したわい」


「さすがです、何か分かりますか?」


「うむ、その剣はオヌシ以外誰にも扱えん、剣がそう言っておる」


「えっ!?剣の声が聞こえるんですか?」


「いや言葉のアヤじゃ、剣がそう言っているかのようにワシには思えるっちゅう話しじゃ」


「えっと、実際その通りで、この剣はこれまで誰もまともに持つことが出来ませんでした」


「そうじゃろうな、ワシにも無理じゃろう、剣が拒絶している、タナカは大分その剣に好かれているようじゃな」


「そっそうなんですか!?」


「ウム、まぁワシの空想かも知れんがそんな感じがするんじゃ」


 確かにこの世界で目覚めた時からほぼ一心同体でこの刀と過ごしてきたし、そもそも目覚めた時に私の傍らに存在していた事からして何か特別な理由があるのかも知れない。


「そういえばシャルロッテ様は流水式をご存知なんですか?」


「キシシシ!なんだかこそばゆいのう、この場ではシャルでよい」


「分かりました、ではシャルさんでいいですか?」


「さんもいらんが、まぁそれでよかろう、それだとシャルリッヒでもシャルロッテでも同じように通じるから言い間違いをする心配もない」


「なるほど」


「さて、流水式な・・・まだワシが小さい頃、爺ちゃんの客人として流水式の使い手が半年程ここに滞在していた事があったんじゃ」


「どんな人でした?私のように黒髪で黒目の人でしたか?」


「いや、既に年老いて白髪じゃったし、眉毛もフサフサじゃったから瞳の色は分からんかった、ただオヌシのように細身の身体じゃったし、背中もまだ曲がってなくてピンとしていた」


「そうですか・・・」


「・・・あっ!思い出した!確かその人のお師匠様は遥か東の国の出身だと言っていたぞ!」


「おお!」


「そうじゃ確か技の伝承がほぼ口伝によるもので、書物などにして書き記す事がなかったと言っておった」


「そうなんですね」


「ウム、今出回っている書物も数少ない伝承者が言い伝えたものを誰かがまとめたものだと言われておる」


「だから上下二巻しかないのでしょうか」


「恐らくそうじゃろう、そもそも考えるな感じろじゃからなぁ、あまりこうしろああしろと理屈を並べないんじゃろう、ある点ではそれも正しいがそれじゃと誰も上達せん、というよりそれでは剣士にはなれん」


「分かります、本には基本の練習法など全く書かれていませんでした」


「そうなんじゃよ、考えるなとあるが、そもそも多くの先人達が何百年もかけて命がけで技を磨いて洗練してきたものじゃから、当然どうすれば強くなれるのか考えに考えてきたはずなんじゃ、そうして色々な技が生まれ、それらの技がどうしてそういう動作をするのかしっかり理由があるはずなんじゃ」


「ウンウン・・・」


「我らは動物と違って考える生き物じゃから、考えに考え抜いていかに自分よりも強い者に対して勝利して生き残るかを命がけで徹底的に考えて創意工夫してきたはずなのじゃ、それは流水式とて同じことだと思うんじゃ」


「そうですよね、私もそう思います」


「だから、恐らく流水式も実はちゃんと体系的な練習方法や修行方法があるはずなんじゃ、ただ口伝による伝承なのでしっかりした記録が残っておらんのじゃろう、そうして想像だけが先行して今の書籍にあるような抽象的で少し怪しい内容の書になったんだと思う」


 私はここまでのシャルロッテの見解を聞いて、少しシャルロッテには失礼ではあるが、大いに感心した。演技をしていたのかも知れないが最初に会った時は相当にアレな人物という印象を持ったのだが、今こうして話しているシャルロッテからはとても知的な印象を受けたのだ。


「シャルさんはその流水式の使い手の方から何か手ほどきを受けましたか?」


「いくつか面白い遊びを教えてもらったぞ」


「遊び・・・ですか?」


「ウム、なんたってまだ小さかった頃じゃからな、その頃はまだ剣を持たせてもらえなかったんじゃ」


「なるほど」


「どれ、やってみるか、マリー」

「はい」


 そう言って私達は小屋の外に出た。


 それからシャルロッテとマリーはかなり近い距離で互いに向き合い、若干半身の構えで右手を前にして、ちょうど互いの手首同士を触れさせた。


「まずは練習の動きじゃ」

「はい」


 二人はその場から動かずに右手を押したり引いたりしたがその際二人を真上から見たら、その手は楕円を描くように規則的に動いていたことだろう。そうして二人はしばらくの間その動きを続けた。


「次は引きからじゃ」

「はい」


「それっ」

「えいっ」


「ほいさっ」

「はいっ」


「とりゃっ」

「はいっ」


 私から見れば動き自体はさっきとあまり変わっていないように見えるが、確実にタイミングが変則的になっていた。


「ウン?・・・あっ!」


「気付いたか?」


「はい、多分」


 これは相当高等なことをやっているというのが、私にも分かった。一方がサッと手を引いているのに合わせてもう一方はまるで手に接着剤がついているか、磁石でくっついているかのようにその手に触れたままの状態にしているのだ。


 その際相手の引いた手に対して決して強く押しているのではなく、あくまでも軽く触れたままの状態を維持して互いの手首をくっつけたまま追随しているのであった。


「今度は押しじゃ」

「はい」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


 今度は一方が押してくるのに対して、押してくる速度に合わせて手を引いて手首がくっついたままの状態にした。しかもいよいよ掛け声なしで無言のままでおこなっていた。これは相当高度に思えた。


「遊びでいくぞ、先にマリーからじゃ」

「はい」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


 これは凄い、押すのか引くのか分からないのに、ピッタリ手首がくっついたまま離れない、しかもシャルロッテは一切無理に押したり引いたりしている様子がなく本当にマリーの手首に磁石でくっつているかのように見えた。


「そろそろワシの番じゃ」

「はい」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「・・・」

「あっ!」


 最後はお互いに手を引いた感じになり、まるでお菓子か何かを譲り合っているような可愛らしい仕草になった。


「えへへ、負けちゃいました」


 実際マリーの仕草にはとても癒されてほっこりするものがあった。

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