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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第44話

 その後もう一度これまでの経緯を今度はヴォルターク相手に話すことになり、ついでに夕食まで一緒に食べることになった。


 シャルロッテが今夜はここに泊まっていけと言ったが、ヴォルタークがその目力だけで殺されるんじゃないかと思う程の鋭い眼光を向けてきたので私は丁重にお断りし、ソルドンと一緒に宿へと帰った。


 ソルドンもデルリシアンや他の兄弟子達と一緒に道場にある食堂で夕食をご馳走になったとのことだった。


 ちなみにシャルロッテからは明日もまた来いと言われた。流水式について知っていることや、モルサール八式についてなど話してくれるそうだ。


 宿屋に戻ると商人のマチャントが大分興奮した様子で、私がドグリアスの穴で採掘してきた鉱石や宝石がいよいよ明日正式な競売にかけられるとのことで、既に今日の段階から商人達の間で囁かれる金額では相当な額になりそうだとのことだった。


 明けて翌日、競売に関する事は全てマチャントに一任して、私は今日もモルサール本部道場へと向かうことにした。


 一応表門に入る前に深く一礼してから敷地内に入ると、昨日と打って変わって屋外練習場にいた上級クラスの門下生達は皆こちらに一礼してくれた。


 私も挨拶返しをしてそのままシャルロッテのいる離れの小屋へと歩き進んだ。


 小屋が近付くにつれて私は何となく五感を鋭くして歩いていたところ、まるでレーダーに反応したかのようにピクンと感じるものがあったので、私は左斜め後ろをチラ見してみた。


「やっ!バレた!やるのうタナカ!」


「いえ、そこまで近づかれるまで気付きませんでした」


「これがモルサール一式じゃ、格好つけて言えば隠密といったものじゃな」


「凄いですね!」


「おう、これが出来ると普通に剣で戦う前に敵を倒せて実に便利じゃ、不意打ちだろうが何だろうが勝ちのうちじゃ、もちろんごく一部の上級者にしか言わないがのう」


「コツとかあるんですか?」


「一応こういうふうにやれという言葉はあるが、それで出来れば誰も苦労せんわなぁ、結局才能によるところが大きいんじゃ」


「そうですよね、何事も一流になれるのはごく一部の才能のある人なんですよね、仮に下手な人だったとしてもずっと諦めず努力し続けられるという人はそれ自体が既に才能だと思います」


「その通りじゃ、じゃがモルサール八式は努力じゃどうにもならん程残酷なんじゃ、やはり天才的な才能がいる」


「そうですか・・・確かに剣術のように生きるか死ぬかがかかっている究極的な事には努力ではどうにも出来ない壁がありそうですね」


「そうなんじゃ、結局のところ生き物を殺す術じゃからまともじゃないんじゃ、もちろん努力は大事じゃ、それはもうとことん大事でそれが出来ない者は出発点に立つことすら許されん、しかしその先の才能がないとダメという残酷な世界なんじゃ」


「ですよねぇ・・・」


「いらっしゃいタナカさん」


「あっ、おはようございますマリーさん」


「タナカさんのおかげで、姉さんは昨日からとてもご機嫌で私もとても嬉しいです」


「えっ、いやぁ~、そう言って頂けると、私もとても嬉しいです」


「娘はやらぬぞ」


「キャァアアアッ!!」


 いつの間にか右斜め後方にいたヴォルタークの静かだが極めて殺意のこもった声を聞いて、女性の金切声のような叫び声をあげたのは私だった。


「アッハッハッハッハ!」

「アハハハハ!」


 シャルロッテだけでなくマリーからも大いに笑われてしまった。しかしヴォルタークは目を大きく見開いて二人の娘が心から笑っている姿を驚くような表情で見続けていた。


「モルサール一式って心臓に悪いですね・・・」


「おお、確かに一式に三式を加えればうまくいけば弱い相手ならショック死させることが出来るぞ」


「三式ですか?」


「うむ、ええとな・・・スゥ・・・」


「待て待て!ここでやるんじゃない!」


「ダメですよ!姉さん!」


「おっと、スマンスマン、そうじゃった」


 え・・・何、何?そんなに危険な技なの?ヴォルタークとマリーが止めてくれて良かった。


「三式はな、爆発呼吸で雷声をあげるんじゃ」


「爆発呼吸でらいせい?」


「うむ、まるで雷みたいな声を出すんじゃ、ただ単に大きい声を出すのではなく、雷のように激しく鋭い声を出して相手をビビらせるんじゃ」


「それって一体どうやって練習するものなんですか?」


「これはなぁ・・・これこそ才能がモノを言うかもしれんなぁ・・・多分母ちゃんの影響かもしれん」


「お母さんですか?お母さんも凄い剣術家だったんですか?」


「いや、母ちゃんは剣とは無縁の人で歌と踊りが凄かったべっぴんさんじゃった、天下一の剣の父ちゃんもすっかり虜になってしまった程じゃ」


「余計な事を言うな!」


「本当の事じゃろう、いや、事でしょう、まぁともかく、この雷声が出来るのはワシだけじゃった、父ちゃんもかなり良い線までいっとるが、爺ちゃんが描いた完成形には達しなかった、飛んでる鳥を気絶させる事が出来たのはワシだけじゃ」


「えっ!そんな事が出来るんですか!?」


「おう出来るぞ!いいか・・・スゥ・・・」


「だからここでやるんじゃない!」


「ダメですよ!姉さん!」


「あっ、そうじゃった、スマンスマン」


「何やら面白い事になっていますね」


「うわっ!?」


 いつの間にかデルリシアンまでいて、普通に会話に入ってきたので私は驚いた。私だけが驚いた。


「そろそろお時間です、当主様」


「何!もうそんな時間か!?ぐぬぬ・・・マリー!シャルがおかしな事をしないようしっかり見ていてくれよ!あとタナカ!オヌシもうちの娘に妙な事をしたらタダでは済まさんぞ!」


「はっ!はい!肝に銘じます!」


 そうしてヴォルタークはデルリシアンと一緒に本殿の方へと歩いて行った。またしても普通に歩いているようなのに、凄く移動速度が速かった。


「・・・」


「歩方が気になるか?」


「ええ・・・って、分かっちゃいました?」


「うむ、相手の心を読むのが最終奥義の八式じゃからな」


「えっ!?相手の心が分かるんですか?」


「まぁ何もかも全て分かるわけじゃないがな、何というかフィーリングじゃのう、結構良い所まで行く上級者もいるが、相手がどういう性格でどういう考え方をしてどういう人生を送ってきたかまで想像出来るようになるのはそうそうおらん、これも母ちゃんは得意じゃった、マリーも結構人を見る目は良い物を持っとる、父ちゃんは大分偏った見方をするが戦いの中での相手の読みは上手じゃ」


 シャルロッテのお母さんってまさかもうお亡くなりになっているんだろうか・・・


「母ちゃんは今旅行中じゃ、熟女旅行の旅に出ておる、各地の美味しい物を食べて、美容に良い温泉巡りをして、各地の観光名所を訪れるという羨ましい旅じゃ」


 あ、ホントに心を読めるんだ。


「そうそう、言い忘れておった、あとウチらには兄ちゃんがおる、剣の技でいえばそれはもう芸術品と言えるほどで、練習稽古では父ちゃんでも敵わない程の腕前じゃ、じゃが恐らく人を斬って殺す方はあまり上手じゃないじゃろう、優しいから」


「・・・そうなんですね・・・」


「オヌシも兄ちゃんと同じ感じがする・・・が、何だろう、タナカは不思議じゃ、ワシにも分からんところが多い、それが実に面白い」


「タナカさんは優しい方ですよ、兄さんと同じで戦いそのものが好きではないのだと思います」


「ウム、ワシもそう思う、そう思うが、兄ちゃんとはちょっと違うな、兄ちゃんは大分真面目じゃが、タナカはなんというか・・・面白いというか、愛嬌があるというか、そうじゃ、とても自然じゃ、素朴でいかにも愛すべき存在じゃ、どうかいつまでもそのままのタナカであって欲しいものじゃ」


「タナカさんは大丈夫だと思います」


 シャルロッテもマリーも美しく穏やかな表情で私を高評価してくれたが、私は背筋を正されたような心境で、くれぐれも二人に対しては性的なよこしまな感情は抱かないようにしなければと思った。


 そもそもそんな感情を抱いたら、ヴォルタークに殺されそうだ・・・

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