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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第41話

 少し冷静に考えてみれば、これまで武道武術格闘技など一切合切全くやったことのない、およそ戦いとは無縁の平穏な一般市民だった自分が、本当に生き死にの場で使われる剣術の道場に来ているという事自体がおかしいというかありえない事だった。


 ところが何故か今こうして、この世界ではかなりメジャーな剣術道場の本部に来ているという状況だった。それも最上級クラスの腕前の人しか立ち入れないという道場に。


 いつもは威勢の良いソルドンも今日ばかりは大きな身体を小さく丸めて深々と頭を下げたままでいた。


 そうしてしばらく私も一緒に頭を下げ続けていると、ようやく野外練習場の方から近づいてくる足音が聞こえた。


「二人とも面を上げよ!」


「ハハッ!」


「ンッ!?・・・お前は・・・見覚えがあるぞ!」


「ハッ!以前お世話になったソルドンです!デルリシアン師範には大変よくしていただきました!」


「おお!あのソルドンか!覚えているぞ!随分生意気なヤツが入ってきたということで大分皆から可愛がられたヤツだ!」


「ハッ!あの頃はなんともご迷惑をおかけいたしました!お恥ずかしいばかりです!」


「いい、いい、気にするな!それくらいの気概があった方が良い!最近は大人しいのばかりしかいないので少々つまらん!」


「で・・・隣にいるのはお前の付き人か?・・・って、ウン?・・・ンン~~~?」


「オイお前、その手にしているのは何だ?」


「ハッ!ハヒッ!こち!こちらは以前大変お世話になったロッロレッ、ロレオン・デ・モルサール様から頂いた書状と巻物にございます!」


 怖くてうまく呂律が回らなかった私であった。


「何ッ!ロレオン様だと!」


「ハッ!ハハァッ!」


「ソルドン!お前が頂戴したものか!?」


「いっ!いえっ!この者、タナカがロレオン様より直々に頂いたものでございます!」


「何ィッ!?この付き、いやっ!ここにいる人物がロレオン様から直々に頂いただと!?」


「ハッ!左様にございます!」


「ヌヌヌ・・・すまぬが見せてもらえるか?」


「ハッ!ハイッ!どうぞ!」


「・・・」


「・・・」


「何とッ!?何だとォーーーッ!!」


「おいおい何だ?」

「何だ何だ?」

「どうした?」

「何事だ?」


 いよいよ恐ろしい人達がワラワラと近づいてきて生きた心地がしなかった。ソルドンもこれまで見たこともない程にますます委縮して身体を小さくしていた。


「ウン?オイその巻物は本物か!?」


「本物も本物だ!よく見てみろ!」


「どれ・・・オオッ!?手出し無用の書状だと!?しかも何と!かのロレオン様の直筆ではないか!」


「これはお前の・・・って、やっ!お前ソルドンか?」


「ハイッ!あっ!いえっ!違います!」


「何が違うんだ?お前はソルドンじゃないのか?」


「ハッ、あっ、えっと、ソルドンです!間違いなく自分はソルドンです!違うのはその書状で、その書状は私が頂いたのではなく、私の横にいるタナカが頂いたものです、タナカはこう見えて3級の探検家で戦士でもあります、あの魔の森からただ一人生還してきた者です!」


「「「何だとぉーーーッ!!」」」


 怒号というわけでは決してないのだが、何というか実に腹に力のこもった野太く力強い声なので、それはもうただただ怖かった。


「どうした!何を騒いでおるかッ!!」


 そこに来てさらにまさに雷のような声が鳴り響いた。そのまま気絶してしまうんじゃないかと思う程で、私達を取り囲んでいた上級者達も萎縮した様子ですぐに整列して頭を下げた。


「一体何の騒ぎか!誰か説明せい!」


「ハッ!かつての練習生ソルドンがタナカなる者を連れてきました。この者はロレオン様直筆の手出し無用の巻物と紹介状を持っており、魔の森からただ一人生還した探検家で戦士のライセンスと共に3級の腕前だとのことで驚いていたところです」


「何ッ!?・・・フム・・・ンッ!?もしやオヌシ流水式の使い手か?」


「えっ!?流水式をご存知なんですか?」


「いや、ワシも詳しい事は知らんが、流水式の使い手は筋骨隆々で闘志や覇気がにじみ出る剣士とはまるで違って、ごく普通のどこにでもいるような風貌の者だったのを思い出したのだ、して、お前は流水式の使い手か?」


「いえ、私はつい最近流水式の書を読んだだけで、流水式の使い手ではありません」


「そうか、ではオヌシの流派は何だ?」


「それが私は魔の森で多くの記憶を失ってしまったので、以前の事はほとんど覚えていないのです、そのため自分が何の流派だったのかも全く覚えていません」


 実際のところは日本で平凡な一普通庶民として生きていたので、剣術も剣道も一切の武道もやったことがない訳ですが・・・


「何と!魔の森とはそれ程恐ろしい所なのか!ウウム・・・ならば、剣を振ってみよ、記憶は失われていても身体に染みついた技は残っているはずだ」


「えっと・・・はい、分かりました」


 全く何の準備もなくいきなりこの場でやってみせろという辺り、何というか武闘派というか体育会系というか、この手の人達ってやっぱり論より証拠で四の五の言わずに身体で示せというスタイルの人が多いような感じがする・・・


 ソルドンと私達を取り囲んでいた人達はすぐに後ずさり、刀を振るうためのスペースを確保した。


「えっと・・・あの、刀、じゃない、剣は何を使えばよいですか?」


「オヌシの持ってる剣で良い」


「分かりました、では・・・」


 そうして私は真剣の刀を抜いて、8の字を横にしたような無限のマークの軌道の素振りを行った。そもそも私はこれしか知らないのである。


「ホウ・・・まさに流水式だ」


「最近覚えました」


「なるほど・・・では、次にただ真っ直ぐ上から下に振ってみよ」


「えっと・・・はい」


 これはあまり自信がなかった、確実に素人丸出しだと思ったからだ。でも以前朝から晩まで倒れそうになるくらい素振りしたし、確かに単純に時間という点で一番練習した動作は真っ直ぐ振り下ろす動作だったから、これが腕前を見るのに最も適しているのかも知れない。


 私はロレオンから教わった事を意識し、腕の力で振り下ろすのではなく、大地を蹴った足の力をしっかり腰から背中に伝えて全身の力を連動させるようにして一気に振り下ろした。


「・・・」


 残念ながらまるで稲妻のように鋭く空気を切り裂くような凄い一太刀には遠く及ばなかった。音すらしなかった。当然迫力は皆無だった。


 誰も一言も発せず、私にとってはなかなかにつらい空気が漂うひと時だった。


「ロレオンが書いたという巻物と書状を見せよ」


「ハッ!こちらにございます!」


 いかにも封建的というか、まるで日本の武家とか侍のような上下関係を彷彿させる光景だったが、私を除いて全員その容姿は西洋人だし、身に着けている道着も洋服なので結構違和感があった。


「フムフム・・・ホウ・・・」


「なるほど相分かった、オイ誰か、この者、タナカをシャルリッヒ師父の元に案内せよ、くれぐれも無礼のないようにな」


「私が案内いたしましょう」


「デルリシアンか、いつから見ていた?」


「今の一振りからです」


「ウソつけその前から気配を消しておったくせに、おっといかん、会合が始まってしまう急がねば、タナカよ後でゆっくり話を聞かせてくれ」


「はい!」


 そうして恐らくこの道場で最も偉いと思われる人物は名乗ることなく足早に去っていった。

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