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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第40話

 その後私だけ探検家組合本部へと赴き、鞘に納めたままの魔の剣を預けたところ4人がかりでやっと持ち運べるという状態で、応接室で本部長と話をしている最中にどうやっても鞘から抜くことが出来ないという事で呼び出されたので、調査室に行って鞘から抜いてみせると、私があまりにも簡単にスラリと剣を抜く様子を見て、もうその時点で魔の剣確定というお墨付きをもらうことになった。


 刀を返却してもらってから応接室での会談を再開すると、今度は別の職員が入ってきて何枚かの肖像画を見ることになった。


「この肖像画に描かれた方達は魔の森に挑んだ探検家の方々です、こちらの男性の方は重症を負いながらなんとか人里まで戻られたのですが、程なくしてお亡くなりになりました、そしてこの方以外誰一人として戻ってきた方はいません」


「タナカ殿、こちらの肖像画を見て見覚えのある方がいれば教えていただけますか?」


「分かりました、拝見いたします」


 と、見る前から結果は分かっているが、敢えてそれは言わずに神妙な面持ちで肖像画を手にして、一枚ずつしっかり見て思い出すフリをした。当然全員が初めてみる顔だった。


「すいません、どの方も全く見覚えがありません」


「いえ、お気になさらないで下さい、ご協力有難うございます」


「ええと、私の肖像画はなかったですか?」


 ないのが当然だがあえてとぼけて聞いてみた。


「はい、実は今見て頂いた方々以外で途中から参加した人もいたようなのです、依頼書を持参して正式に受付たのが今ご覧になられた方々で、その方達から参加を誘われた知り合いの探検家や戦士の人が数人加わって魔の森に行ったようなのです、恐らくタナカ殿もそのうちの一人ではないかと思っていたのですが・・・」


「そうだったんですね、そうなると見覚えではなく記憶がないのかも知れません、なにせ自分の顔すら忘れていたくらいですから」


「そうでしたね、お辛い心境の中、協力していただき真に感謝いたします」


「いえ、何というか本当に綺麗さっぱり忘れているので、あまり悲しいという気持ちがないんです」


「なんと・・・」


 どうにも私にかける言葉がないくらい職員の方を困らせてしまったようで、逆にこちらが申し訳ない気持ちになり、なんともいたたまれない空気感が漂ってしまった。


 それでもこうして事情聴取を受けた事によって得られたこともあり、とりわけ探検家組合本部長および上級職員の知己を得た事は大きかった。これは今後の活動においてとても有利に働きそうだ。


 一通り話しを終えて一階のエントランスに戻ったところ、なんと全員が私を待っていてくれた。


「わっ、皆さん待っていてくれたんですか?」


「ええ、タナカ殿はこちらに来たのは初めてですので、一人では場所が分からないと思ったのです」


「わぁ有難うございます!お手数おかけします」


「まぁ俺達もそんなにこの辺りは詳しくないしな」


「オレはモルサール流本部道場でお世話になったことがあるから結構知ってるぜ!といってもまぁ半年程度だがな」


「オレもここには数える位しか来たことがない」

「オレは大分昔に物見遊山で一度来たきりだ」

「・・・」


「とりあえずまずは宿へ行きましょう、素晴らしい事に探検家組合から直営の良い宿を手配してもらったんですよ!」


「ホントですか!やった!」


 早速コネが働いたようで、やはりどんな世界であれこうした事は実に価値ある大事なものだとしみじみ思い知った。


 そうして私達はかつての城塞都市内部に設けられた高級宿泊所へと向かった。ちなみに商人の荷馬車は安心の組合本部に預けてあるそうだ。


 歩いて10分もしない場所にその宿泊所はあり、受付カウンターでライセンス証を見せるとすぐに係の人がやってきて部屋を案内してくれた。


 私だけが個室で他は全員二人部屋だったので、何とも気が引ける思いだったが、これほど高級な宿泊所に二人部屋で泊まれるなんて滅多にないと言って皆とても喜んでいた。


 私は最上階の4階の角部屋で、入室して真っ先にトイレを確認すると便器の横にレバーがついていて水洗であることに感動し、さらにシャワーがあることに驚いた。


 といっても私が生きていた頃の現代日本のシャワーとは当然異なり重力を利用した原始的なもので、金属製のシャワーヘッドの上に水を溜めるたらいのようなものがあり、レバーを引いてたらいに水を溜めて回転式の弁を開いてシャワーの量を調整するものだった。


 それでもとうとう水洗トイレにシャワーまで完備ということで、これまでの絶望的な衛生環境に比べるとまるで天国のような気分だった。


 その後皆と合流して少しお高い居酒屋で楽しく飲食した際も、その話題でもちきりで皆水洗トイレとシャワーにはすこぶる感心して喜んでいた。


 明けて翌日、この世界で初めて朝にシャワーを浴びてサッパリして部屋を出ると、皆も同じようにサッパリしていて互いにまだ濡れた髪を見てニヤリとし、一緒に近くの飯屋で朝食を食べた。


 その後商人は商工組合へと行き、私はソルドンと一緒にモルサール流剣術の本部道場へと向かうことにした。


「4年・・・いや5年ぶりか、師範はオレの事覚えているだろうか」


「5年くらいなら覚えているんじゃないですか?」


「そうだといいが、何せ本部道場は入門してくる練習生が凄く多い上に入れ替わりも激しいから、師範に顔と名前を覚えてもらうくらい上達する前に大抵はやめていくんだ」


「そうなんですね」


 モルサール流剣術本部道場は本部というだけあってとても大きく、一般の練習生は城塞都市外部の道場に通い、一部の上級者と師範クラスだけが城塞都市内部にある道場に通うとのことだった。


 ソルドンはあと1年も通えば師範代の昇格試験を受けられるところまで行ったが、お金を稼がなくてはならない事情があったのでギャラガに誘われて戦士組合に入ったとのことだった。


 当時その辺の事情を理解してくれた親切な先輩師範にとてもお世話になったというのと、私が持っている紹介状は超一級の戦士ライセンスを持ち、モルサール八式という剣術を考案した一風変わったモルサールの剣士へ宛てた書状なので、私とソルドンは共に城塞都市内部にある本部道場へと足を運んだのであった。


 目的の場所は宿屋から歩いて30分程度の場所にあり、城壁内部は元々外部からの侵略に対応するため土地スペースには限りがあるにも関わらず、野外練習場のある大きな敷地を有していた。


「ムゥ、さすがに少し緊張してきたぞ」


 190センチを優に超える身長で筋骨隆々で性格もその通り勇ましいソルドンが少し萎縮する程で、これから行く場所がそれだけ恐ろしい場所かと思うとこちらまで身震いする程だった。


「タナカよ、手出し無用の巻物と紹介状を出していつでも見せられるようにしてくれ、あと剣には絶対手を触れるなよ」


「は、はい!既に紹介状は手に持ってます、巻物も持ってるので両手は塞がっているから剣には絶対触れません」


「よし、それなら安心だ、じゃあ行くぞ」


「はっ・・・はい」


 まずは門をくぐる前に手前で深々とお辞儀をしてから入り、野外練習場で練習をしている人達に向けても同様に深々とお辞儀をした。練習している人達は誰もこちらを見ていないようだったが、頭を下げたままのソルドンが小声で、あれでしっかりこちらのことを見極めているのだと言った。


 以前私が町にあるモルサール流の支部道場に入った時とは大違いで、いかにあの時は運が良かったのかというのを思い知ったのであった。

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