第39話
翌日、いよいよ中央都市の中心部、かつての城塞都市だった場所に向かうことになったが、昨日のうちから既に巨大な壁が目視できる距離にあり、その迫力と見ごたえは十分で、単に観光で来ただけでもその価値は十分あった。
近づくにつれてますますその巨大さが分かり、重機のないこの世界でよくぞこんな建造物を作る事が出来たもんだと感嘆の溜息が出る程だった。
「いつ見ても圧倒されますなぁ」
「凄いですね、これ程の城壁を作るのに一体どれほどの年月と人力が必要だったんでしょう」
「そうですねぇ数千人がかりで数十年はかかった事でしょう・・・」
城門もそれはもう全く見事なものだったが、戦乱の世はとうに去ったとのことで、常に解放されたままで、年に一度のお祭りの時にメンテナンスも兼ねて開閉させるとのことだった。
検問も全く厳しくなく、我々は止められることもなく普通にパスしてくれた。
馬車組はそのまま商工組合へと向かい、乗馬組のギャラガとハンテルはいったん別れて先に戦士組合へと向かって行った。
城塞都市ということで限られた敷地内に多くの施設建物を収容しなければならないためどの建物も上に高く、この世界に来て始めて3階以上の高さの建物を見た。そしてほぼ全ての建物が石造りだった。それは戦乱の時代に火矢などの攻撃から火災を防ぐためだったそうだ。
商人はあらかじめ商工組合にも連絡の手紙を送っていたようで、到着するやいなやすぐに上階にある特別応接室へと案内され、高級そうなティーカップに美味しいお茶が出され、その味わいを楽しんでいると数人の人が入ってきた。
「なんと!組合本部長自ら来ていただけるとは思ってもいませんでした!なんとも恐縮です!」
「いやいや、顔を上げたまえ、えーと貴殿は何と言ったか・・・」
「マチャントです、本部長殿」
「おお!そうだったマチャント殿だった!いつぞやの・・・そうそう、マクベギャンの白磁器だ!あの白磁器は実に見事な壺だった!」
「おお!覚えていて下さりましたか!これは真に光栄の極み!有難うございます!」
「何の何の!あれほど見事な陶磁器を危険を顧みず持ち帰ってきた功績は極めて大きい!あの年にシャルルの深紅の薔薇がなければ年間最高栄誉賞はマチャント殿が確実だったことだろう!」
「お褒め頂き有難うございます」
「して・・・こちらの御仁、でよろしいか?こちらがあの魔の森から生還したというタナカカ・・・カナタタ・・・ええと・・・」
「田中かなたです、タナカとお呼びください、田中が性でかなたが名です」
「そうだ!タナカ、タナカだ!タナカは東方の出身だと手紙に書かれていた!私は商工組合本部の長をしているウルリッヒと言う、会えて光栄だ!」
「有難うございます、私もお会いできて光栄です、ウルリッヒ様は日本、もしくはジャパンという名の国をご存じありませんか?」
「・・・いや、どちらも聞いたことがない国だ、何せここから東方の国々は実に遠く、半年以上はかかる程の距離にあるので、東方の地域に関することはあまり良く知られていないのだ」
「なるほど、やはりそうなんですね」
「タナカの活躍はマチャント殿からの書状で読み知っている、魔の森からたった一人生還したことも、グマンの王の首を一刀両断してみせたということも、その首を刎ねた剣が魔の剣だということも、そして不幸な事に記憶喪失になってしまったことも知っている、さらにドグリアスの穴周辺で起きた事の報告のためにこの場に参られたこともな」
「そうでしたか」
「さて・・・早速ではあるが、ドグリアスの穴で採掘したという品を見せてはもらえないだろうか」
「分かりました・・・ええと・・・はい、こちらになります」
「「「オオーーーッ!!」」」
「こっ、これが全てドグリアスの穴にあったというのかね!?」
「はい、入り口から2時間以上奥に入ったところで見つけました、立って進むことが出来ない程狭い場所です」
「そんな奥にたった一人で入られたのか!さすが高ランク探検家だ!」
そうしてテーブルの上にドグリアスの穴で採掘した鉱石宝石を全て並べると、組合本部長と一緒に入室してきた人達が身を乗り出して食い入るようにそれらを見た。小さな筒状の道具を取り出して目に当ててしっかりと鑑定していた。
「ゴクリ・・・どうかね?」
「間違いありません・・・ホ、ホンモノです、しかも純度が極めて高いものです、初めて見たとまでは言いませんが滅多に見れない程の物です」
「「「オオーーーッ!」」」
これには私と商人のマチャントも声が出た。一番大きい声だったのは組合本部長だったが。
その後採掘した時のドグリアスの穴の詳細な情報を説明したが、当然その情報提供料については後日然るべき対価がしっかり支払われると説明され、今回持ち帰ってきた鉱石宝石もいったん詳細な解析と鑑定がなされた後に競売にかけられることが決まった。
競売についてはあらかじめ商人のマチャントと話し合っていて彼に一任することになっており、上りの3割をマチャントに報酬として渡すことになっている。
最初マチャントは1割でも十分といっていたが、彼が発案しなければそもそも何も始まらなかったので半分くらいは支払う価値があると私が言うと、危険を冒してしかも採掘作業は全部タナカ殿がおやりになったのに半分も頂くなど到底出来ないと言われ、その後もあれこれと議論した末に3割に達したのであった。それでも取り過ぎで、商人仲間に知られると非難を浴びせられそうだと心配する程だった。
いったんこの場は落ち着いたので、ギャラガ達に合流するという事になり、組合本部長のウルリッヒも一緒に行くと言って、私達は戦士組合へと向かった。
商工組合本部のすぐ近くにある戦士組合本部建物に入ると、ウルリッヒの姿を確認した職員がすぐに駆け付けて来て上階へと案内してくれた。
ここでは応接室ではなく会議室に案内されて入ると、結構な人数が既にいて、書記や地図を描いている人などの姿が確認出来た。
「おお、ウルリッヒも来たか」
「ホウ、皆勢揃いだな、珍しい」
どうやら戦士組合の本部長に加えて探検家組合の本部長も来ているようだった。
「君が魔の森からただ一人生還してきたというタナカだな、話しは十分聞かせてもらったが確かにその・・・失礼ながらとてもそうは見えない容姿をしているな」
「えっと・・・そうですね、自分でもそう思います」
「ホウ?・・・いや失礼した、私は戦士組合の本部長をしているダッガールと申す」
「初めましてタナカです、よろしくお願いします」
「私は探検家組合本部長を務めているカタリウスと申します、貴殿の活躍はこちらにも届いております、できますれば後程魔の剣を調べさせてはもらえないでしょうか?」
「もちろんです!タナカです、よろしくお願いします」
既にギャラガ達がドグリアスの穴周辺の森の中で起きた事を詳細に説明していたので、私は先程商工組合にて説明したドグリアスの穴内部についてもう一度詳細に説明した。
その際、商工組合本部長のウルリッヒが先程鑑定した鉱石宝石は紛れもなく高純度の本物で、極めて価値が高いという事を保証した。
一通り情報が出そろったところで、近日中に各組合合同で高ランク限定で規模も大きい調査活動を開始し、その間該当区域は立ち入り禁止とする方針が決定された。
当然建前としては温泉村の地域住民の安全確保が最重要ということではあるが、本音のところでは貴重な鉱石宝石の存在が実に大きかった。




