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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第38話

 明けて翌日、本来ならば数日間は滞在する予定だった温泉村を後にして、当初の目的地である中央都市へと向かうことになった。ここからおよそ10日程かかる移動だった。


 そして私がこの世界で目覚めてからおよそひと月が過ぎていた。


「あの村はこの先どうなるんでしょうか」


「そうですねぇ、組合の出方次第ですが恐らくドグリアスの穴方面の森一帯は立ち入り禁止になり、探検家組合と戦士組合から合同で探査依頼が出されることでしょう」


「少し惜しい気がしますね」


「いやいや、命あっての物種ですよ、皆さんが無事でいられることが一番大事です、それに初日にタナカ殿が入手したアレだけでも白大金貨ものですよ」


「白大金貨!それってどれくらいですか?」


「億ですよ、億!」


「億ですか!?」


「ええ!億です!」


 私と商人は互いにテンション高めで喜んだ。


「タナカ達は大分盛り上がってるようだな」


「ハハハ、まぁそれも仕方ないだろう、昨日の一件ですっかり忘れちまってたが、初日にタナカが採掘してきたアレは相当なものだ」


「いやはや記憶喪失とはいえ、やっぱり探検家ランク3級ってのは伊達じゃないんだなぁ・・・」


「まるでそんな風には見えない顔してるのにな」


「ワハハハ!全くだ!」


「それにしてもあの足跡・・・一体あそこには何がいると思う?」


「分からん、だがもしかしたら中央都市の組合に行けば知ってる人物がいるかもしれん」


 その後、トイレ以外は快適な旅が続き、余裕をもって日中の移動を心がけたため道中盗賊に襲われることもなく順調に進んだ。


 私が持参した石鹸はすこぶる好評だったが香りが良すぎるため、ドグリアスの穴周辺の探査の前日に使わなくて良かったと言われた。この香りは自然の中では大いに目立ちすぎるとのことだった。


 ただ、それなりに栄えている人の多い村や町などでは清潔な好印象を持ってもらえるので、何かと役立つ利点もあった。


 そして人が多くなるつれてますます困ったのが、悪臭問題である。この世界は私が生きて生活していた日本よりも何百年も遅れている感じで、下水道がしっかり完備されているところはまだ少なく、普通に窓から排泄物が捨てられているのである。


「中央都市もこんな感じなんでしょうか・・・」


「いえいえ!安心して下さいタナカ殿!中央都市も確かに百年以上前はそれはもう悪臭都市と言われる程酷い臭いで、衛生環境も最悪で疫病なども蔓延していた時代がありました、その後このままではダメだと当時の都市長と大勢の住民が団結して、都市をあげての下水道工事を開始したのです」


「ほう!」


「そして長年に渡る工事の末、中央都市全土に下水道が敷かれ、順次都市に近い近隣の村も下水道が完備されていったのです」


「そうですか!それは安心しました!」


「各家庭や施設の天井などには雨を溜めるマスがあって、その水を利用してトイレは水洗式ですし洗濯したり体を洗う洗い場もあります」


「それは良かった・・・実に良かった・・・」


 商人によるとあと3日程先の村から順次下水道が完備された地域になるとのことで、私は大分救われた気がした。あと3日の辛抱だ・・・


 そんな私でも悪臭ばかりは何とも慣れないが、トイレに関しては大分慣れてしまったもので、扉の付いていないトイレでも、仕切り壁が全くない複数人で利用するトイレだろうとも、商人と一緒の部屋の中で陶器の中で用を足すということすらも出来るようになってしまった。


 わずかに私に残された乏しい記憶ではこの世界は中世ヨーロッパ時代の文明水準のような印象を受けていた。


 そしてこの世界に来てひと月以上経過したが、今のところファンタジー世界に出てくるエルフとかドワーフとか獣人とかゴブリンとかオークとかスライムとかドラゴンなどは全く目にしたことはなく、魔法に関するものも全くなかった。そうした物事に関する話しすら耳にしなかった。


 とはいえ私は異常とも言える程の超人的身体能力を保有している事は間違いなく、まだ実際に会ったこともないしこの目で見てもいないが超一級ランクの戦士や探検家も相当な超人のようだし、何より私が肌身離さず持ち歩いているこの刀も極めて異質な存在だった。


 そもそも死んだはずの人間がこうして別世界で生き返っているということ事態常識の範囲外なので、果たしてこの先どういう非常識が起こるのか全く想像出来なかった。


 ともかく今こうしてこの世界で生きている以上、何が起ころうとも受け入れていくしかない。例え劣悪なトイレ事情だったとしても・・・


 こうして商人の言う事を信じてトイレ事情に希望の光を信じて移動したところ、まさに3日後の村から待望の水洗トイレが登場した。


 相変らず一部の箇所では個室どころかドアも仕切り壁もないトイレが多かったが、それでも悪臭状況はかなりマシになった。


 そしてそこからさらに数日進んだところでいよいよ中央都市へと到着した。


 中央都市はかなり広大で、最初は普通に民家が増えてきたと思っていたが、既にその時点で中央都市エリアに入っていたらしく、私が想像していた巨大な壁と門はさらに進んだ中心部にあるようで、それはかつての城塞都市だった頃の名残りだそうだ。


 200年程前までは結構各地で領地を奪い合う戦が起きていたが、今のこの地域は安定した平和時代になっているそうだった。


 中央都市はかつて城塞都市だった中心部から円周上に概ね三層構造になっており、今私達がいるのは最も外周にある部分で、入居してきた順番でもあるし農業や牧畜や食用の家畜の飼育などを生業にしている人達の住居エリアでもあった。


 中央部にいくに従って古くから住んでいた人や経済力の高い人や権力を持った人が住んでいるとのことで、この辺りは私が生きていた頃の現代社会とあまり変わらない構図だ。


 私達が向かうのはその中央部分で、外周から中央部に向かうだけでも1日はかかるとのことだった。


 そして中央部に向かうに従い明らかに人の数が多いのが分かり、町並みもかなり栄えている印象を受けた。市場周辺と思しき箇所に差し掛かってくると、悪臭の代わりに美味しそうな匂いが漂ってきて、腹の方も同意するかのようにグウと鳴った。


 夕暮れ時になったので、まさにその美味しそうな匂いが漂う市場周辺で宿泊することになり、防犯面で商工組合の認可を受けた安心の宿屋が利用出来るため、ギャラガ達もようやく安心して全員で飲食と睡眠をすることが出来た。


 そうして久しぶりに全員揃って居酒屋へ行き、これまで以上に美味しい料理を味わう事が出来て大いに満足した。


 まず何と言っても味付けに使う調味料や香辛料の数がこれまでよりも各段に豊富で、さすが中央都市というだけあって様々な地方からそうした調味料等が運ばれてきているのである。


 当然人もそれだけやってきているので、腕の良い料理人もいるだろうし、人の多いこの都市で店の存続のために料理の腕を競い合ってきたであろうから、より洗練された味になっていた。


 さらに地方から運ばれてきた美味しい食材だが、現代社会と違って鮮度を保ったままの高速冷凍運送などない世界なので、こうした食材をいかに美味しく調理するかという技術も長年に渡り積み重ねられてきたので、明らかに料理技術は地方の村や町よりも各段に高かった。


 ともあれ、生きていた頃に現実世界で生活していた時よりも美味しい料理を味わう事が出来て私はこの世界での生活にかなり満足していた。

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