第37話
ドグリアスの穴周辺の森林地帯のほぼ中間地点にて、山賊の野営地と思われる場所を発見し、ハンテルは一人先行して偵察に行った。
残った我々はいつでも散開して逃走出来るように準備を整えてその場で待機した。
今回は遅れてハンテルに合流するのではなく、ハンテルが戻ってくるのを待ち続けた。その待ち時間たるや、まるで時間が停まっているかのようにとても長く感じた。
相変らず一度見失ったハンテルの姿を探すのは至難の業で、いつの間にかハンテルはギャラガの元に至近距離まで近づいていた。
「どうだった?」
「いったんこの場から離れよう、そこで説明する、大丈夫だとは思うが警戒は怠るな」
「「「了解」」」
そうして私達は音を立てないように静かに来た道を引き返した。しっかり警戒はしていたが、来た時のハンテルによる先行偵察行軍と違って全員そのまま歩き続けたので行きの半分の時間で森を抜けた。
ギャラガは周りを見渡し、小高い丘を指さすとハンテルも頷いたので、全員そこに行ってみると、森の方をしっかり見渡せる場所だったので、そこで腰を下ろして昼食をとりながら作戦会議を行うことにした。もちろん全員森の方を向いて腰かけた。
空腹だったことが気付かなかった程に緊張していたようで、昼食を包んでいた布袋を開けた瞬間にグゥと腹が鳴った。他のメンバーも同様だった。
最初は各自弁当の握りっこを頬張り黙々と食べ、水筒に入れた柑橘系の果汁と塩を少しだけ入れた水を一口飲んだところでギャラガは口を開いた。
「で、どうだった?」
「ああ、やはり戦いの跡が残っていた、死体は一つもなく、身体の一部なども全くなかった、ただ引きずられた跡はハッキリ残っていて、辿って行くのはより簡単になった」
「気になった点は?」
「そうだな、獣に襲われたのではないのは確実だ、荒された形跡が獣によるものとは明らかに違うしテントなどに大き過ぎる人間の手の跡がついてた、それは血の跡だったが恐らく山賊の血だろう」
「山賊は何人いたと思う?」
「6人だ、寝床と食器の数、さらに箱に入っていた衣類などからからしてほぼ間違いない」
「襲ったモノの数は?」
「一人・・・と言っていいのか分からんが一人だ」
「山賊6人相手に1人だと?」
「いくら田舎の山賊とはいえ武装した連中だぞ」
「そう、その武装だが、剣が折れ曲がっていたり、途中で折れたりしていた、盾の残骸もあった」
「っていうことはまさか金属鎧を身に着けている相手だっていうのか?」
「普通に考えればそうなるな」
「こりゃ思った以上にヤベェぞギャラガ」
「ああ、これは間違いなく危険だ、俺達だけでどうにか出来る範囲を超えている、いったん宿に戻って商人も含めて相談しよう、まぁ間違いなく町に戻るか中央都市に行って組合に報告することになるだろうがな」
「さすがに一人で村を襲うってことはないよな?」
「「「・・・」」」
ソルドンの最後の問いには誰も答えられず、しばらくは誰も何も言わず黙々と残りの弁当を食べた。
食後の小休止をした後温泉宿へと戻ったが、特に何も起こらず無事に宿へと到着した。ちなみに温泉村に到着する手前でスナギンは皆の武器に塗布した毒を拭き取り剣は鞘に納めた。
商人は宿に隣接している商工組合の建物にて、町で仕入れた日用雑貨品を卸売り販売していた。
「おや、皆さんお早いお帰りで。無事で何よりですが・・・これはどうやら何かありましたね」
「ああ、森でかなりヤバイ事が起きている」
「何ですと?」
「今から役場に行って説明してくる」
「私もすぐに参ります」
そうして私達はすぐに村役場へと向かい、窓口で暇そうにしている役員にギャラガが手短に要点を伝えると、役員は眠たそうだった目を大きく開いて、すぐに上司を呼びに行った。
上司が若干面倒臭そうな表情で出てきたので、ギャラガは小声で私のライセンス証をあいつに見せてやってくれと言い、言われた通りにすると上司はライセンス証と私の顔を交互に何回か見た後で少し慌てた様子で、さらに上司である村長を呼びに行くと言って出ていった。残された役員は私達を応接室へと案内してくれた。
応接室のソファに腰かけると、お茶が運ばれて来たので一息ついていると、先に商人が到着し、その後上司と村長がやってきた。
そこからギャラガによる状況説明が始まったのだが、私がドグリアスの穴で採取した鉱石や宝石についての事は全く触れなかった。当然私も全く口を挟まず余計な事は喋らないように口を真一文字に結んだまま黙っていた。
「・・・以上だ、ここにいるタナカは魔の森から帰還した唯一の探検家で戦士ランクも3級の腕前でグマンの王の首を魔の剣で一刀両断する程の腕前で、かのモルサール流の師範からも手出し無用の書状を持つほどだ、その彼ですらも危険だと感じる程にこの森には得体の知れない危険な存在がいる」
「ここ最近害獣被害や山賊被害の報告がほとんどなかったのですが、そんな恐ろしい事が起きていたとは・・・」
「我々はいったん町に戻るか中央都市に行って、この件を組合に報告するつもりだ」
「おお!そうしていただけますか!」
「ついては先に書状を送ってもらいたいのだが」
「もちろんです!早速手配します、報告文書作成のご協力お願い出来ますか?」
「有難う、もちろん協力させてもらう、ハンテル頼めるか?」
「了解した」
そうしてハンテルが残り、役場の担当者と一緒に報告書類作成の手伝いをすることになった。また、ここまでの調査結果報酬も受け取ったが、当初の報酬額よりも多い金額を受け取った。
ギャラガは私の取り分が3でギャラガ達全員の取り分が7で良いかと聞いてきたが、とてもじゃないが何の役にも立ってない素人の私が3割ももらうとかありえないので、全部ギャラガ達がもらってくれと言ったところ、この報酬は本来探検家向けの依頼だから私が全額受け取る権利があるとのことだった。
「いや、しかし、本当にいいのかそれで?」
「はい、私にはグマンの王と魔の森の果物で得た大金があるので、この報酬は皆さんで分けて下さい」
「お前いいヤツだなぁ!でもいいヤツは騙されやすいから気を付けろよ!」
「いやいや自分はそんなに良い奴じゃないので大丈夫ですよ、なんたって自分にはアレがありますからね」
「・・・おっ、そうだったそうだった、ヒヒヒ、なかなかどうしてタナカもしたたかだな、それなら大丈夫だ」
「そういうことなら有難くもらっておく」
「タナカ殿、アレの件、是非とも私にも一枚かませて下さいよ」
「はい、もちろんです!」
そもそも商人の発案がなければ今回の件は全く存在しなかったので、提案者報酬は当然の権利だ。
「さてどうする?町に戻るか中央都市に行くか」
「タナカ殿はどちらが良いですか?」
「えっ?自分ですか?そうですね・・・出来れば中央都市に行ってみたいです」
「中央都市ならば組合の規模も大きいですし、町で仕入れた商品も売れるので私も助かります」
「そうだな、今回の件を報告するにしても、組合の規模が大きい中央都市の方がしっかり対処してくれるだろう、腕の良い探検家や戦士も多いだろうし」
「では中央都市に向かう事にしましょう」
「分かった、ハンテル達に伝えてくる」
現実に起こり得る物事というのはなかなか筋書き通りにいかないというのは頭では分かっているが、まさかこうした展開になるとは誰一人として想定出来なかったのであった・・・




