第34話
ドグリアスの穴、そこは実に分かりやすい場所だった。至るどころに穴の空いた大きな岩山が目の前に現れたのである。
ほとんどが自然に空いた穴だが、何か所かは人の手が入っている箇所もあり、その周辺には木の箱や小屋などがあった。
目の届く範囲には全く人も動物もいないし気配も感じなかったので、私はほとんど警戒することなく近づいていった。
近づいていくにつれ穴から変わった音が聞こえてきた。これがもし夜中だったとしたらとても恐ろしく感じたかもしれないが、今はまだ午前中で日も明るいし、明らかにあちこちに空いている穴が風によって笛のように鳴っているのだと推測出来た。
私はランタンを取り出して大きくて太いローソクに火をつけたが、穴の前にある箱のなかには使い古されたつるはしの他にたいまつがあったので、たいまつも手にして穴の中に入っていった。
坑道の中には道を照らすための火のついていないたいまつが点々と金属製の器具に掛けられており、それらに先程手に入れたたいまつで火をつけていきながら進んだ。
灯りで照らしてみると周辺にはあちこち掘り出された跡が見て取れて、ここが掘り尽くされていなければこの先大いに収穫が見込まれそうで、私は期待に胸が膨らんでワクワクした気分になった。
そうして1時間程進んだところで初めて綺麗に光り輝く箇所を見つけて、すかさず飛びつくように近づいてよく観察した。
「これは・・・銀か?銀かもしれない!やった!」
すかさずリュックからピッケルを取り出そうとしたが手を止めてまだ早いと自分に言い聞かせた。この先にもっと貴重な鉱石があるかもしれない。今あせって手に入れることはない。今のところ全く人はいないのだから誰かに取られることもない。余裕があれば帰りに取ったっていいじゃないか。
そうしてはやる気持ちをなんとか抑えて私は先を進んだが、正直なところ先が楽しみでスキップしたくなるほどにウキウキした気分になっていた。もうすっかり警戒心などなかった。
さらに奥へと進むこと1時間、結構奥に進んできたが全く息苦しくなるような事はなく、ここまで奥に来てもじっとしていればまだほんのりとそよ風を感じる事が出来た。恐らくそれは沢山穴が空いていることで自然の通気口になっているからだろう。
ここまでの道中あちこちに銀色に光り輝く箇所を発見してきた。それも最初に発見した時よりも明らかに大きいという事がハッキリと分かった。
そろそろどこまで進もうかと考え始めた頃、いよいよ道を照らすためのたいまつを掛ける器具がなくなり、恐らくその先はまだ未発掘の場所ではないかと考えた。
10分程進んだ辺りから穴は狭くなっていき、閉所恐怖症の人ならばかなり怖いと思われる様子になってきたが、私は依然として期待と好奇心が勝り、躊躇なくどんどん進んで行った。
やがて前屈みにならないと頭をぶつけそうになる程になり、さらに進むといよいよこの先はしゃがんで進まないといけない状況になり、そこでいよいよ待望の光を見つけた。
「あっ!青いのがある!あっ!赤いのもあるぞ!」
ここでようやく私はリュックからピッケルを取り出して、まずは青いのに近づいてランタンを照らしてしっかりと根本を確認し、お目当ての鉱石を傷つけないように慎重にピッケルを振り下ろそうとしたがそこでいったん手を止めて深呼吸して、全然別の場所にピッケルを振り下ろして岩盤の硬さを確認することにした。
案の定はやる心で力がこもっていたようで、思った以上にピッケルが岩盤に突き刺さり、あやうく鉱石を割ってしまうところだった。
何度か適当な箇所にピッケルを突き刺して岩の塊を取り出して練習したのだが、そうして取り出した塊にすら銀と思われる部分が含まれていた。しかも結構純度の高い銀に見えた。
とりあえず練習は済んだということで、改めて青い色の箇所に向けて慎重に丁寧に割と余裕を持って少し遠目の場所にピッケルを突き刺していった。青い箇所に沿って楕円形を描くように穴を空けていった。
コツコツとした作業は続いたが、私的には全く力を込めていないにも関わらずピッケルはサクサク岩盤に突き刺さるので全く疲労しないし、半分を過ぎた辺りでコツが掴めて採掘速度もあがっていき、5分程度で良く育った大きなスイカ程の塊を取り出すことに成功した。
恐らく相当に重いはずだが、私は片手で難なくそれを受け止めてそっと地面に置くことが出来た。そして小型ハンマーを取り出して慎重に優しくコツコツと叩いて不要な箇所をそぎ落としていった。
取り出した大きな塊には美しく透き通った青い何かの頭の先が少しだけ飛び出ており、それを見ただけでも私の心臓は結構ドクンドクンと意識出来る程に期待で高鳴っており、コツコツコンコン先端の尖った小型ハンマーを叩いていくと、途中から軽く叩いただけで不要な岩の部分がポロポロと剥がれ落ちていき、念願の鉱石とご対面することになった。
それはなんと太さ10センチ長さ20センチ以上はありそうな青い透き通った鉱石で、自然物とは思えない程に綺麗な直線的な形をしていた。
私の顔はそれはもう人には見せられない程にニンマリとした満面の笑みで、あまりにも嬉しくて声を上げる事すら出来ない程にただただニンマリした。
あらかじめ商人から使い古しの布切れをもらっていたので、大事に青い鉱石を包んで愛おしそうにそっとリュックに詰め込んだ。
早速次の赤い色の箇所にピッケルを慎重に丁寧に打ち込んでいき今度はメロン程度の大きさの塊を取り出して小型ハンマーで不要部分をそぎ落としていった。
そうして出てきたのは深紅に輝く石で、今回のは平べったくて丸い形状で大きさは直径10センチあるかないかというものだった。
そしてこれがまた惚れ惚れする程美しく、危うくいつまでも眺め続けそうになってしまうところだった。
これも優しく丁寧に布に包んでリュックの中にしまい込んだ。とうとうイッヒッヒという下卑た笑いが口から漏れるという有様だった。
そこでグウと腹が鳴ったので、私は昼食をとることにした。お昼は温泉たまごと握りっこと漬け物なのだが、今回の握りっこには中に具が入っており、タレに浸けて焼いた鶏肉をほぐしたものが入っていて温泉たまごと一緒に食べると格別だった。
楽しい!なんて楽しいんだ!と、私は狭い洞窟内でランタンだけという状況にも関わらず大いに楽しい気分を満喫していた。もしかしたら探検家という職業は結構自分に向いているかもしれないと思う程だった。
食後もしゃがみながら進んでいき、大き目の金の塊を手に入れてはニンマリし、エメラルドのようなグリーンの美しい鉱石を手に入れてはニヤリとしつつ進んで行ったところ、いよいよ匍匐前進でもしない限り先に進めないところまでやってきたのだが、その先に青みがかった銀色の光が見えた気がしてうつ伏せになって頭を入れてみると、以前鍛冶屋で見せてもらったものと同じ物がそこら中至るどころににあった。
とりあえず目の前にあった塊をピッケルで掘り出して小さな穴から出てランタンの前で確認すると、紛れもなく鍛冶屋で見た鉱石だったが、より青みが強く銀色も澄んでいるように見えて、それを確かめるにはいったん外に出て陽の光のもとでしっかりと確認する必要があった。
また、小さな穴に体をねじ込んでピッケルでチマチマ採掘するのではなく、つるはしでこの穴を拡張してから本格的に採掘したいと思った。
さらに、なにも今日慌てて掘り出すのではなく、明日以降もここに来てしっかり採掘した方が良いと思い、今日の所はいったん切り上げて商人やギャラガ達と相談することにした。




