第32話
この世界に来て19日目、なんとここで待望のカレーが出てきたので、私は思わず「やった!カレーだ!」と声に出して喜んでしまった。
グルカンは私の方を見て一つ頷き、ナンをむしってカレーにつけて食べ始めた。
私も野菜サラダを食べる前にまずカレーの味を確かめるべく、まだ指が熱いと感じる程の出来立てナンをむしり取ってカレーに浸して口に放り込んだ。
「ウメェーッ!」と、またしても声に出た。
カレーにはひき肉と刻まれた野菜と豆がタップリ入っており、辛さの中にほんのりとした甘さもあって抜群に美味しかった。
美味しいカレーである事を確認したので、野菜サラダを食べてみると、こちらもまたオレンジ色でトロリとしたドレッシングがとても美味しくて、あっという間に食べ終わった。
ひと息ついて乳酸菌飲料を飲んだところ、甘酸っぱくてコクがあり冷えててとても美味しかった。
また、ナンだけを食べてみてもごく少量の塩気と甘味に加えてバターの香ばしい香りが口の中に充満してこれだけでいくらでも食べられそうだった。
ボリュームも満点で、巨大なナンにカレーも大きな器に入っているので、おかわりしなくても十分満腹になった。
隣に座っていた人が席を立ったので鋭く目と耳をすませて確認すると、どうやらお代は500ガーランドのようで、私もすかさずこちらも二人分払いますと言って銅貨1枚を渡すと、少しだけ怪訝な顔をしてお釣りを渡そうとしたので、お釣りはいらないですと言うと、それまでぶっきらぼうだった店員はニヤリとしてまた来てくれ!と言った。
「良い防具を探してくれた上に、美味しい店も教えてくれて有難うございました!」
「・・・」グルカンは一度だけ頷き、商人の借家へと進んだ。
「おっ、戻ってきたか!」
「おお!結構良い物が見つかったな!」
「ホントだ、出来合いの物とは思えない程、サイズもピッタリ合ってるな」
「はい、グルカンさんのおかげです」
「ホウ、確かに今流行りの防具じゃないが物は良いな、鉄のプレートを間に挟めば戦でも十分使えるだろう」
いくさって・・・この世界ではまだ戦が普通に行われているんだろうか・・・
「おお、戻られましたかタナカ殿!ホホウ!これはまた大分良い防具を身に着けておられますな!」
「はい、一緒に来てくれたグルカンさんのおかげです、えっと・・・そこの荷物を荷馬車に積み込めば良いですか?」
「はい、よろしくお願いいたします、あっ、その箱はとても重いで・・・おおっ!?」
「なんだ、どうした?ってうわっ、お前それ重くないのか!?よくそんな風に持ちあげられるな!」
「えっ?そうなんですか?それ程重くないですよ」
「一体その体のどこにそんな力があるんだ?」
周りが驚いた顔をする中、私はここぞとばかりに汚名挽回として皆の役に立つように働いた。
「おいおい、どんどん荷物が積まれていくぞ、引っ越し屋でも食っていけるんじゃねぇか」
「しかも買ってきたばかりの鎧を身に着けて、そこまで動けるんだから大したもんだ」
引っ越し屋か、それはいいかも、それなら危険な探検や戦闘をせずに平和に暮らしていけそうだ。
あっという間に私一人で全ての積荷を荷馬車に詰め込むと商人は大喜びで、大いに時間短縮になった上に荷物運びの人を雇わなくても済んだということで、その分奮発して今日は良い料理と酒を注文して出発前の壮行会としますと言うと皆大いに喜んだ。
私の不備で皆に迷惑をかけた分、ここで何とか取り返したようで、少しは自責の念も和らいだ。
明日以降は護衛任務で気が抜けないため、お酒を楽しめるのも今日が最後という事で、明日の朝二日酔いにならない程度に皆美味しいお酒と美味しい料理を大いに楽しんだ。
会話も弾んで、木こりの村から数えてギャラガ達護衛の人達との付き合いも一週間になったということで大分お互いに打ち解けて、色んな話を聞くことが出来た。
その後ギャラガと私以外は全員良い感じに酔ったので、寝ると言って寝室へと向かって行った。ここで深酒をせずに自分の酒量をわきまえて明日からの任務に備える辺り、さすがプロである。
「タナカは見かけによらず結構酒に強いんだな」
「自分でも驚いています、確か以前はほとんどお酒は飲まなかった、というよりも飲めなかったような気がします」
「そうか」
「今日はご迷惑をおかけしました」
「うん?いや、こちらは何の迷惑もしていないが」
「あっ・・・でも、グルカンさんには随分お世話になりました」
「ああ、グルカンな・・・しかし、グルカンは大分お前を気に入ったみたいだな」
「そうなんですか?」
「ああ、グルカンは子供のころ大分辛い目にあったらしく、それ以来人と話す事が出来ないああいう性格になった・・・らしい」
「・・・」
「だが、お前に対しては大分心を許しているように見える、多分兄弟とか親しかった人間を思い出しているのかもしれないな」
「そうですか・・・」
ギャラガの話によると、北方ではまだ政情不安な地域があり、温暖で食物が豊かに育つ土壌のある地域と異なり、厳しい自然環境の中で資源を求めて地域同士の紛争も起こっているとの事だった。
そんな北方の貧しい村の出身であるグルカンは、隣の地域からの侵略によって村を壊滅させられたそうだった。それも相当に酷い惨状だったらしい。
「おっとすまん、シケた話しをしてしまった、忘れてくれ」
「いえ・・・でも、そうですね、今日はもう寝ましょう」
そう言って最後まで残ってお酒を飲んでいた私達もお開きにすることにした。
私は寝る前に水で体を拭いた。酔いと悲しくなりそうな気持を冷ますため、頭から水を被って身体を拭いた。
明けて翌朝、昨日のギャラガの話はいったん忘れて、中央都市への長旅に集中することにした。
そもそもまた馬車に乗っての見知らぬ場所への旅が始まるという事でワクワク感が抑えられず、昨日の悲しい話をしんみりと思い出す暇はなかった。
普通にどこにも寄らず真っ直ぐ街道を進んで中央都市に向かえば2週間程度で到着するが、今回はまず5日程街道を進んだところで西へ進路を変えて、そこから3日程かかる温泉宿で有名な村へと向かい、ドグリアスの穴周辺の状況に応じて滞在日数を検討するとのことだった。また、温泉宿のある村から中央都市までは10日程度かかるそうだ。
初日の今日から2~3日の間は町周辺ということで盗賊の襲撃の危険性はほぼないことから、護衛の人達も割とのどかな気分で進んだ。
しかし休憩の合い間には皆素振りをしたり、軽く模擬戦闘を行って突発的な戦闘にもしっかり対応出来るようにしていた。
私も一緒に例の8の字を横にした無限マークの素振りを革防具をしっかり身に着けたうえで行った。ロレオンに指導してもらったおかげで、以前はどうにもぎこちなかったが、大分しっくりくるようになった。
「おいおい、そんなに張り切って振り回していると疲れるぞ」
「大丈夫です!森の中で朝から晩まで倒れる寸前まで振り続けていたことがあります!今はその時の半分くらいの力です!」
「マジか!」
「そりゃ手出し無用の巻物も授かるわけだ」
そんな風に休憩するたびに適度に体を動かしては移動し続けたのであった。




