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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第31話

 その後も様々な石を掘り起こしては砕くという作業が続き大分道具にも慣れたのだが、鍛冶屋や宝石店で見たような原石は全く見つからなかった。


 まぁ鉱山でも何でもない普通の河川敷なので当たり前といえば当たり前なのだが、それでも少し残念な気持ちだった。こうなると今度行くドグリアスの穴では是非とも何か良い鉱石をゲットしたいところだ。


 帰りもずっと駆け足で戻り、夕方までにはまだ大分余裕がある時間帯に町に到着したが、疲労は全くない代わりに結構腹が減ったので、肉屋の良い匂いにつられて焼き鳥を大きくしたような串焼き肉を買ってその場で3本食べた。実に美味しかった。


 それから炭酸の柑橘系果実ジュースを買って商人の借家に戻り、ジュースを飲みながら図書館で借りた本の続きを読んで過ごした。


 その日の夕食もテイクアウトで、色んな料理が食卓に並べられたが、その中でも今日は具沢山グラタンがすこぶる美味しくて、3時のおやつに大きな串焼きを3本食べたことなど全く関係なく沢山おかわりして食べた。


 明日は仕入れた商品や長旅に必要な物を荷馬車に詰め込む作業があるということで、私は図書館に行って本を返却した後は自分も手伝うと言うと、商人は最初は遠慮していたが、私がグマンの王を乗せた大きな材木運搬用のそりを一人で3時間以上も引いて運んだ事を説明して力には自信があると言うと、護衛の人達は本当か?という程に驚き、商人もそれならばお願いしますと言ってくれた。


 実のところここ数日私だけが好き勝手な事をして過ごしていたようでなんとも申し訳ない気持ちがしていたのだ。


 そうして出発前の最終日となり、私は早速図書館に行って借りていた本を返却し、職員の人からは無事の長旅をお祈りしていますと言ってもらった。


 そうして商人の家に戻って「荷物の詰め込み作業を手伝います!」と張り切って言うと、ギャラガが割り込んで入ってきた。


「その前にタナカよ、お前旅の準備は出来ているのか?」


「はいバッチリです!替えの下着や服にタオル、あっそうだ、良い石鹸を買ったので良かったら皆さんも使って下さい、それに鉱石採取用の道具も買って昨日練習しておきました」


「そうか・・・で、防具は?」


「は?・・・ぼうぐ?」


「ああ防具だ、ドグリアスの穴に行くってんなら防具が要るぞ、まさか防具なしで行くつもりか?」


「えっ?・・・あっ!」


「おいおい・・・声をかけておいて良かったぜ、いくらお前さんが強くて力持ちだとしても、防具無しってのは自殺行為だ、少なくとも革鎧くらいは用意した方がいい。背格好的にグルカンについて行ってもらって防具を揃えるんだ」


「すいません・・・そうします」


 我ながら自分の浅はかさが赤面する程情けなかった。何が高級石鹸だ、何が鉱石採取道具だ、それ以前に自分の身を守る防具を完全に失念するとは一体何事か。


 この世界はこれまで生きてきた現実世界とは違うということをこの身を持って体験してきたというのに、まだ安全な日本で暮らしていた時の習慣が抜けず、すっかり安全装備に関する必要性と重要性の考慮が欠如していた。


 私はグルカンを探すと、グルカンだけでなくソルドンも真剣な表情で防具や武器の点検をしており、私は実に面目ない気持ちでグルカンに頭を下げて、防具を買いに行くので付き合って欲しいと言った。


「今から防具を買いに行くってのか!?」


 すかさず痛い所を突いてくるソルドン。


「今からだと、出来合いの物を買うしかないぞ」


「体に合わせた調整もちゃんとしたものじゃなく、一時的なものになるな」


「はい・・・何とも面目ないです・・・」


「・・・」


 グルカンは何も言わずに立ち上がり、私の袖を引っ張って防具屋へと連れて行ってくれた。


 私はここにきて初めて人に迷惑をかける失敗をしたということで、なかなかにシュンとした気持ちでいつも通り終始無言のグルカンの後に付いて歩いていった。


 やがて昨日訪問した鍛冶屋からそう遠くない区画に到着すると、扉の前には剣や斧や盾や弓などを表現した飾り物を吊るした建物が並んでいた。


 グルカンはそれらのどの店もスルーして奥へと進んでいき、大分年期の入った古そうな建物へと入っていった。


 扉を開けて入るとさらに古い建物独特の匂いのような空気が鼻から伝わり、続けて革製品の匂いがしてきた。


 周りを見渡すと革のジャケットやパンツに、帽子やグローブにブーツなどが結構無造作に陳列されていて、どのアイテムも結構埃を被っているようだった。


 グルカンは店の奥の方へと進み、ますます売れ残って古くなった商品のように見えるコーナーの辺りで、あたかも初めから決めていたかのように革のベストとジャケットを持ってきた。


 そこでようやくカウンターの奥から店の人が出てきたが、そのまま挨拶も何も言わずイスに座った。小柄でそこそこ年配の人のように見えた。


「こんにちは、お邪魔してます」


 別にお客として来ているのだから、お邪魔もなにもないのだが、何故かそう言ってしまった。


 グルカンは何も言わず私にベストを着せて、胸からへそのあたりにある4か所のベルトを締め、その上にジャケットを被せてきた。


 最初のベストは両サイドの脇の下が厚い革になっていて、その上に被るようにして着たジャケットは胸と背中が分厚い革になっていて、両脇はまるでスニーカーのようにジグザグに紐が通っていて腰のあたりのヒモを引っ張って締めて結ぶようになっていた。ジャケットといっても袖はなく、肩の部分には甲羅のように三枚程の革が重ねられていた。


「これなら両手で剣を振り回しても全然邪魔になりません、それに軽いしサイズもピッタリなので動きやすいです」


 肩から先の袖がないのでこれなら刀を自由に動かすことが出来そうだった。それでいて胴体はかなり守られてる感があった。


 グルカンは頷き、カウンターを指さした。


「すいません、これ買います、いくらですか?」


「2万、いや、1万5千ガーランドでええ」


 えっ、そんなに安くていいの?見た目は結構古そうではあるけど、当然本革だしステッチを見ただけでもかなり丁寧に縫製されてて物は良いと思う。


 手持ちのガーランド硬貨では足りなかったので、私は銀貨一枚と銅貨5枚を渡したが、それだともらい過ぎだと言って、おまけとして丈夫な革製のヘッドギアとガントレットと紐のスペアと革に塗るクリームをもらった。


 ガントレットはほぼ前腕を保護するグローブで、そのまま手を入れても良いが一応小さなベルトがついていて締められるようになっていた。


「ありがとうございました」


「痛んだら、またこい」


「はい!」


 お礼を言ったのは私の方で客と店員が全く逆の会話だった。しかし口数は少なく接客も不愛想ではあるが、何というか真面目さと優しさが感じられる人でこの店で良かったと思った。


 店を出てグルカンにもお礼を言って、是非とも昼食をおごらせてくれとお願いして、高級料理店のある区画へ行こうとしたがグルカンは首を振って別の場所へと向かい、またしても年季が入っていて結構汚れている店に入った。


 店に入ってみると先程の店と違って大分繁盛しているようで驚く程の客でごった返していた。そしてこの店も実に接客がぶっきらぼうで、私とグルカンを見るとすぐにカウンターの空いてる席を指さして「そこ!」と言い、こちらの注文を聞くこともなくすぐにランチプレートを二皿持ってきた。


 多分この店も数日前に夕食で利用した店と同様、とりわけ今の忙しい時間帯はメニューは一つ、恐らく日替わり定食しかやっていないんだろう。


 そうして目の前に置かれたプレートを見ると、分厚くて巨大なナンそっくりのパンと、見た目も香りもどうみてもカレーと思われるものと、野菜サラダと乳酸菌飲料のようなものが乗っていた。

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