第30話
図書館の職員は今日もやってきた私を見て、少し驚いた表情をしてすぐに話しかけてきた。
「タナカさんお早うございます、今日も何かお探しですか?」
「はい、今日は鉱物に関する本を探しに来ました」
「鉱物ですか?」
「はい、今後探検で鉱物資源が豊かな山とか洞窟の中に入ることもあるだろうと思って、そうしたところにはどういう鉱物があるのか、出来れば図解の多い本があれば良いなと思って来ました」
「なるほど、それならば該当する本を見るのと同時に、鍛冶屋や宝石店などに立ち寄って現物を見る事をお勧めします」
「なるほど、それらの場所に行けば現物の鉱石が見られるのですね」
「はい、店の人にライセンス証を提示すれば見せてくれると思いますよ」
そうして職員はすぐに私が希望する本を見繕ってきてくれて、さらに立ち寄ると良い場所の簡単な地図も描いてくれた。
私はお礼を言って早速現地に行って現物を見せてもらいに行くことにした。
最初に足を運んだのは図書館から近い場所にある宝石店で、入店した直後は店員は私を見て驚いた顔をしたが、ライセンス証を見せて事情を説明し、図書館で借りてきた本を見せると、すぐに理解してくれて、別の人を呼んで店の裏にある別の建物へと案内してくれた。
その建物では宝石の原石を研磨加工している工房のようなところで、突然見学者がやってきたものだから職人達に煙たがられるかと思いきや、探検家兼戦士ランク3級の人がやってきたと聞くやいなや皆喜んで近付いてきて、色んな原石を見せてくれた。
エメラルドやサファイヤやルビーのような原石を見せてもらい、もしも良いものが手に入ったら是非とも売りに来てくれとお願いされた。
次に鍛冶屋へと尋ねるとやはりライセンス証の効果は絶大で、すぐに職人たちが積極的に近付いてきて、様々な鉱石を見せてくれた。
その中でもとても大事そうに布に包まれて持ってこられたのがほんのり青みがかった銀色に輝く綺麗な鉱石で、もしもこれと同じものが手に入ったらどうかウチに売ってくれとお願いされた。もしウチがダメでも頼むからこの町で競りに出してくれとも言われた。
その後飯屋で昼食をとり、商人の借家に戻って借りてきた本を読み始めると、宝石店と鍛冶屋での熱意にあてられたせいか、鉱石探しが楽しみになってきて読書も大分はかどった。
夕食は今日も商人の家でとることになったが、今日はあらかじめ商人が料理屋に注文していた料理を護衛の人達が取りに行ってきたとのことだった。
いつものテイクアウトしたピザも大変美味しいが、今日は普通の料理がふんだんに用意され、様々な具材が入ったピラフにシチューや肉のソテーなどが並び、どれもとても美味しくて食事をしながらの打ち合わせはどこへやら皆黙々と舌鼓をうち、完食した後で軽く果実酒を飲みながら打ち合わせをした。
翌日、私はかなりヤルキに満ちた感じで鉱石採取のための道具を仕入れに道具屋へと赴いた。
商人が話した筋書ではたまたまの連続だったが、昨日の図書館や宝石店や鍛冶屋巡りに続き、今日道具屋でピッケルとか小型ハンマーなどを買ったら、たまたまとは程遠い目撃証言者多数の計画的で意図的な行為であることがバレバレだった。
ともあれ私は商人から教えてもらった道具屋に行って、店員に相談して鉱石採取のための道具を見繕ってもらった。ここでもライセンス証は実に役に立ってくれて、良い装備品を揃えることが出来た。
にわか仕込みで付け焼刃の知識ではあるが、昨日色々と読書したのと、たった今手に入れた道具を使ってみたくて、町の近くを流れる川に行って練習してみることにした。
途中でパン屋に立ち寄って昼に食べる総菜パンをいくつか買ってから町を出て川のある方角へと向かったが、結構距離があるのと早く道具を使って鉱石採取をしてみたいという気持ちから早歩きで進み、いつしか駆け足になって進んでいた。
自分も一人で馬に乗れるようになりたいなと思いながらひたすら駆け足を続けたが、10分を過ぎて20分を過ぎて30分になろうとしているのに、ペースが落ちるどころかまるで息も上がっていない事に我ながら驚いた。
これならば全力疾走でどこまでいけるか試してみたくなったが、いつぞやの激痛筋肉疲労の事を思い出したのと、この後の鉱石採取練習こそが主目的なので、今下手な事をして疲れるのは本末転倒なので今の駆け足ペースで進んだ。
ちなみに腰からぶら下げていた刀はさすがに駆け足では邪魔になるのでリュックに差し込んで走ったが、鞘から刀が抜け落ちそうになったので逆さまに入れ直してから走った。
その後1時間程で到着したが、結構町が遠く離れていることと、1時間も駆け足をし続けたにも関わらず全く疲れた様子がない自分の体に嬉しいと思う反面結構空恐ろしいものがあった。
早速河川敷全体を良く見渡して、岩肌が見えるところを探すと、100メートル程先にそれらしい箇所があるのを発見した。
先ほどは全力疾走をためらったが、100メートル程度ならば軽く本気を出してダッシュしてみても良いかと思い、さすがにクラウチングスタートによるロケットダッシュはしなかったが、それでも出来る限りの瞬発力で猛ダッシュを試みた。
「うわっ!はやっ!」
耳に伝わる風を切り裂く音と100メートル先の岩肌がみるみる近づいてい来る様子を見て、思わず私は驚きの声をあげた。そして確実に10秒は経っていないどころか、まさかとは思うが5秒くらいかもしれないという速さで現地に到着した。
さすがに全く息が上がらないという事はなかったが、それでも肩でゼーゼー息をするというような事は全くなく、それこそちょっと駆け足した後のような早めの呼吸だった。
ともあれ早速リュックから買ったばかりのピッケルと小型ハンマーを取り出し、鉱石採取練習を開始した。
まずは道具の使い方からの練習ということで、頭の部分が飛び出ている石の根本にピッケルを打ち込んで石を丁寧に取り出してみようとして、振り下ろしてみるとカキンッ!という音と共に跳ね返されるかと思ったのにコッ!という音と共にピッケルの先端がほぼ埋まってしまう程硬い岩盤に食い込んだ。
こりゃ結構力加減に気を付けないと石を傷つけてしまうという事が分かったので、早くも練習しておいて良かったという手応えがあった。
続けて他の箇所に丁寧にピッケルを打ち込んで、石の周りを半周程掘った所で石を手で揺すってみるとグラグラしたので手前に引いてみると石はこちらに転がってきて、無傷のまま石を取り出すことに成功した。
続けて小型ハンマーを手にして、先端が尖っている方を使って石に振り下ろしてみた。たった今ピッケルで試したばかりなので、あまり力を入れずに軽く叩いてみたところコンッ!という音と共にいとも簡単に石は三つに分かれて割れた。
同じようにしていくつかの石を掘り起こしては小型ハンマーで割ってみたが、当然貴重な鉱物資源や美しい宝石が出てくることはなく、石は単なる石のままだった。それでも道具の使い方の練習としては大いに得られるものがあった。
しかしいくら道具をうまく使いこなしても、目ぼしい鉱石がどういう所にあるのかという知識がなければ宝の持ち腐れで、昨日本で読んだ程度の全くの初心者が見渡す限りの岩場で貴重な鉱石や宝石を発掘するなどほぼ不可能に思われた。
ともあれとりあえずいったん昼食をとることにして、適当な大きな岩に腰かけて弁当の総菜パンを食べる事にしたが、走り続けたせいでリュックの中で大分つぶれたり中身が飛び出していたりして、かなり残念なことになってしまった。
それでも味に変わりはなく、手作りの総菜パンを自然豊かな河原で美味しい空気を吸いながら食べるのは格別だった。




