第29話
相変らず美味しいピザを食べながら商人は今後の旅についての行動計画を説明し始めた。
当然ながら商人にとっては単なる観光旅行ではなく儲けるための旅であり、商いの基本は安く仕入れて高く売る事であり、中央都市では手に入れにくい高付加価値商品を安く手に入れられる場所で仕入れて、金持ちに売るというのが基本スタンスである。
当然商品価値が高くなる程様々なリスクがあり、例えば危険な場所にあるとか、盗賊に襲われて商品を強奪されるリスクなどがある。
しかし今回はその両方とも既にクリアしていると商人は言い、私はその理由を尋ねたところ、実は商人は私が倒したグマンの王の爪を競り落としていたと語った。
「本当は魔の森の果物を手に入れたかったのですが、金額もさることながら鮮度を保ったまま中央都市まで運ぶための保冷素材と早送り専門の輸送業者のツテがなかったので断念したのです。しかし爪ならば腐ることもないですし、荷物としてかさばることもないので最初から爪狙いで競り落としました」
「そうだったんですね、それなら言ってくれればお譲りしたんですが・・・」
「それは大変ありがたいお話しなのですが、商工組合に所属している商人としては、通さないとならない筋というのがありまして、それがあるからこそ組合から正式に認可された商人として、いろんな地域に自由に出入りして商いが出来るのです」
「あっそうか、なるほど!」
様々な商品が競りにかけられる市場への参加も、色んな地域の町や村に買い付けに行ったり売りに行ったりするための通行許可や売買許可も、商工組合から正式に認可された者のみが行えるのであり、組合から認められるためにはしっかりとルールに従わなければならないのだ。とはいえそこは頭の良い商売人のやることなのでグレーな部分はあるのではないだろうか。
「うまいこと筋を通したうえで、何か抜け道的なことはないのでしょうか?」
「「「!?」」」
私の発した言葉で護衛の人達はウン?という表情をしてこちらを見た。
「おぉっ!タナカ殿!いやなかなかどうして、タナカ殿は商人の才覚もおありのようですぞ!」
「お前結構ずる賢いところがあるんだな!いや、悪く思うな、オレは気に入ったぜ!」
と、ソルドンに言われたが正直あまり嬉しくなかった。
「例えばの話をしましょう、例えばの話ですが」
商人もニヤリとしてこれまで見なかった表情で話し始めた。
「何かの正式な依頼、例えば探検家組合の掲示板に張り出されているような依頼ではなく、探検家がたまたまふらりと立ち寄った場所でたまたま手に入れた珍しいものを中の良い知人に個人的に譲渡したという場合は規約的には問題ありませんね」
「ワハハハハ!オヌシも悪よのう!探検家がたまたまふらりと立ち寄るなんてことがあるかい!だが、そこがいい!そういう所がいい!」
「「「ワハハハハ!」」」
「そして今回の旅なんですが、街道をいったん西にそれた先にはドグリアスの穴があります」
「ドグリアスの穴?何だそれ?」
「ムッ、聞いたことがあるぞ」
「何か知ってるのか?ギャラガ」
「あそこは貴重な鉱物資源がとれる場所だ、しかしグマンもいるし大山猫もいるし山賊までいる」
「そうなんです、たまに良質な銀や金が売りに出されるのですが、恐らくそれはドグリアスの穴で掘り出されたもので、闇の裏ルートを経由してもたされたものです」
「行くつもりなのか?」
「名目としてはその近くの温泉宿がある村に立ち寄ってゆっくり温泉を満喫し、ついでにその地の名産品を幾つか仕入れるという筋書です」
「で、その表向きの筋書きに書かれていない話しの筋書きは?」
「いやいや筋書はありません、ですが戦士組合に登録されている方々が、たまたま立ち寄った温泉宿の村でグマンや大山猫、もしくは山賊討伐の依頼を見てドグリアスの穴付近の山へと赴き、そこにたまたま一緒に同行したとある戦士兼探検家の方がたまたまドグリアスの穴へと赴き、たまたまドグリアスの穴で鉱石を手に入れたとか、たまたまグマンや大山猫を討伐する事があるのかもしれません」
「ワッハッハ!たまたまの多い話だな!」
「そこまであからさまで大丈夫なんでしょうか?」
「名目上は害獣や山賊討伐で、ドグリアスの穴の鉱物採取とか穴内部の詳細調査依頼とかじゃないので大丈夫だろう、といってもまぁバレバレだろうけどな、それくらいの事は多かれ少なかれ皆やってることなんだろう」
「面白い!最近はほとんど暴れてなかったからな、剣も腕も錆びちまうんじゃねぇかと心配していたところだ!」
「えぇと・・・戦いは必須なのでしょうか」
「いえ、タナカ殿はあくまでもたまたま一緒に温泉宿に来ていただけで、討伐依頼を受けたのはギャラガさん達ですので、タナカ殿はその間観光がてらドグリアスの穴を見に行き、たまたま近くにあった綺麗な鉱物を持ってくる・・・らしいのです」
「ワッハッハッハ!らしいのです・・・ってまだ起きてもいねぇのにらしいときたか!」
「全くだ!」
「「ワハハハハ!」」
私は少しだけ安堵したがそれでも危険な場所である事には変わらず、考えてみれば探検家も戦士もかなり命の危険が高い職業だし、今となっては普通に日常的に腰に真剣をさげて生活していて、しかも剣術の道にほんの少しだけ足を踏み入れているという事に対してあまりにも浅はかな気持ちだったことに今さらながら気が付いた。
覚悟を決めるか、今歩みかけている道を引き返すか、どこかで決断しなければならない。
「ところでタナカよ、今日は随分と真剣に本を読んでいたな、クッキーのお礼で軽く声をかけても全然聞こえてないくらい集中していたぞ」
「おう、邪魔しちゃ悪いと思ってオレも黙ってた」
「あっ、あれはグルカンさんがおすすめしてくれた手当ての本を読んでいたんです!やりましたよ!自分にも少しは素質がありそうでした!」
「少しくらいなら誰にも素質はあるが、まぁよかったじゃねぇか」
「はい!グルカンさん有難うございます!教えてくれた本はすごく参考になりました!」
「・・・」
一応頷いているようには見えた・・・
その後も旅程の打ち合わせは続き、私は明日も図書館に行って、今度は鉱石と洞窟探検に関連する本を借りて勉強しようと思ったのであった。
明けて翌朝、昨夜のうちに明日の朝食は各自どこかでとるなりしてくれと言われていたので、私は商人と一緒に朝市が行われている場所のすぐ近くで朝食を提供している店に行った。
朝市で並ぶ生鮮食料品を使った朝食が食べれるという事でなかなかに繁盛しており、美味しい魚を食べられる店を案内してもらって入店すると、驚いたことに海鮮丼のようなものが出されており、残念ながら味噌汁はなかったがお吸い物のようなスープも一緒に提供されていた。
当然私は商人と一緒にその海鮮丼を注文し、すぐに運ばれてきたので箸ではなくスプーンで口にしてみると、しっかりとした酢飯に若干カルパッチョのような味付けの生の魚の切り身が、噛むとほんのり甘味があって絶妙な調和を生みだしていて、実に美味しかった。
そしてご飯を頬張りながら塩味のお吸い物を一緒に口に入れて食べるとこれまた味の変化を楽しめてたまらない組み合わせだった。
私は大いに気に入っておかわりを注文して、朝から腹一杯満足するまで食べた。
商人にお礼を言って、商人は食料品以外で何か目ぼしい売り物がないか見て回るといって朝市に残り、私はいったん商人の借家に戻ってから図書館へと向かう事にした。




