第27話
商人の借家に帰宅すると護衛の人達がこれから居酒屋に行くというので、私も合流させて欲しいと言うと快く了承してくれた。
居酒屋では当然今日の出来事でもちきりになり、ソルドンはひたすら感心していた。
「お師匠様直々に稽古をつけてもらった上に、手出し無用の書状までもらってくるとは、タナカよ!お前マジでスゲェ奴だな!」
「ロレオン殿と言えばモルサール6強のうちの一人だぞ、本当に大したものだな」
「えっ!そんな凄い方なんですか!?ロレオン様は片田舎の分家だととても謙遜なされていました」
「いやいやいや!それはお師匠様お得意の方便なんだ!モルサールの達人の中でも数々の修羅場をくぐり抜けてきた歴戦の強者なんだぞ!」
「えぇっ!全然そんな風には見えないとても優しいお爺さんのようでした」
「まぁ・・・切ったはったの人生だったらしいからなぁ・・・俺達の知らない境地に達したんだろう」
「・・・」私は想像するのを途中で強制終了した。
「ところで、今日手当てというのを目の当たりにしたのですが、あれは練習すれば私にも出来るようになったりするんでしょうか?」
「うん?手当てか?まぁ普通の奴でもある程度の所までは出来るぞ、小さい子供だってやるくらいだ」
「えっ!?そうなんですか?」
「この中ではグルカンが一番凄い、骨折や結構深い斬り傷まで治す」
「・・・」
なんと、いつも無口で料理が上手くて背丈が唯一自分と同じ位の人がヒーラーだったとは思わなかった。失礼ではあるがてっきり暗殺専門の人かと思っていた。
「ええと、何かコツとかあったりするんでしょうか?」
「コツも何も、元気を送ればいいんだ元気を」
いや、それで治れば医者は要らんでしょうが。ていうか自分はソルドンじゃなくグルカンに聞いているんですが。
するとグルカンは私の手を指さしたので、私は手を出してグルカンの前にかざすと、グルカンも手を出して手を合わせるか合わせないかという微妙な間隔を作って静かに呼吸をし始めた。
「・・・わっ!凄い!凄いです!暖かい!とても優しい暖かさを感じます!」
「スゲェだろ、グルカンは手当ての名人なんだ」
だからソルドンには言ってないって。いやしかしソルドンの言う通り確かにこれは凄い!この技は何とかして自分もモノにしたいが、そんな事出来るのだろうか。
「どうすればグルカンさんのようになれるでしょうか?」
「・・・」
「何か特別な練習方法とかあるんでしょうか?」
「・・・」
「・・・」コミュ障なんだろうか・・・
「まぁグルカンは特別だからな、こればかりは教えてどうにかなるもんじゃねぇよ」
だからソルドンには聞いてないんだが・・・しかしその後グルカンはまた自分だけの世界に入ってしまったかのように、一人果実酒を飲み始めたので、私もそれ以上聞くのはしつこいと思ってやめた。
その後も誰も聞いてないのにソルドンによる自分の自慢話ではなく師匠の自慢話が続いたが、ソルドンの自慢話じゃないので楽しく聞くことが出来た。
「そういえばギャラガさんは、モルサール流ではないんですか?」
「ああ、オレは元々こっちの人間じゃないからな、オレは北方出身で北ではドゥーリー流が主流なんだ」
「どんな流派なんですか?」
「モルサール流と違って多人数で戦場で戦うのに特化しているのが特徴だ、一対一の戦いはあまり想定していない」
「そうなんですね」
「純粋に剣の腕ならばソルドンがこの中では一番だが、護衛任務となれば最優先は護衛対象の命だ、そして次に我々自身の命を守らねばならない、だからいかに守って生き抜くかが重要なんだ」
「なるほど・・・」
その後、遅くまで飲み続けるのかと思いきや、まだ結構早い時間に飲食は終了した。私はロレオンの所で結構汗をかいたので今日も風呂屋に行くと言うと、昨日一緒に行ったソルドンとグルカン以外の3人が一緒に行くと言い、風呂場と行き帰りの道中で他の護衛の人達の流派についても聞くことが出来た。
今日もサッパリして商人の家に戻り、自室に入ると枕元に何やら紙切れが置いてあり、手当てについて参考にするとよい書物の題名が幾つかリストアップされており、最後にグルカンと書かれていた。
「良い人だ・・・」私は小声でつぶやき、とても嬉しい気持ちになりながら横になって寝た。
翌朝もグルカンと弓使いの人が朝食を作ってくれて、皆で一緒に食べた。
「聞きましたぞタナカ殿、昨日は凄い一日だったようですな!」
「いやぁハハハ、昨日は驚きの連続の一日でした、でも行って良かったです、ロレオン様はとても素晴らしい人でした」
「そうだろう、そうだろう」と、ご機嫌な様子のソルドン。
「最後にロレオン様から興味があるならモルサール流の総本部がある中央都市に行ってみると良いと言って紹介状をもらいました。なのでいつかは中央都市に行ってみたいと思います」
「なんと!それは実に丁度良いですぞ!何という幸運の女神のはからいでしょうか!」
「???」
「実は私も中央都市に行くつもりなのです」
「えっ、そうなんですか!?」
「ええ、恐らく2週間、途中で何か面白そうな商いがあればひと月はかかりそうなので、今それに向けた準備をしているところです、どうです?タナカ殿も一緒に行きませんか?」
「行きます!喜んで!」
商人のセリフではないがまさに、幸運の女神様様といった感じで、出発は4日後を予定しており、それまでに商いの支度を整えるとの事だった。
当然護衛の人達も一緒に行くということで、私はウキウキした気分になった。
早速私も旅行の準備ということで、替えの服と下着やタオルなどを買いに行く事にした。
以前ガリクソンと町を歩いたときに教えてもらった雑貨屋が既に開店していたので入店すると、ガリクソンが言っていた通り確かに見ていて飽きない程色んな商品が実に良い感じに興味をそそられるように陳列されていた。
早速タオルを手に入れようかと思っていると、綺麗な石鹸がズラリと並ぶコーナーが目につき、石鹸箱も綺麗な陶器で作られており、とても良い香りで充満していたが、案の定値段は一つ5千から1万ガーランドもするとても高級な石鹸だった。
町の風呂場の石鹸はまぁまぁ泡立ちは良いが、途中立ち寄った村の宿の洗い場の石鹸はあるだけマシという程度のものだったので、思い切って買ってみることにした。
今の私は日本円でおよそ3500万円も持っているのだが、それでも元が普通庶民なので、それが板についているせいか、一番高いものではなく5千円程度の石鹸を二つ買う事にした。
腰のベルトに取り付けたポーチの中の巾着袋にはまだ銀貨が5枚あるので、近くにいた店員に銀貨一枚で石鹸を二つ買いたいが丁度良いのはどれか聞いたところ、店員は私の顔を見て少し驚いた表情をしてから、誰か好きな女性に渡すのかと聞いてきて、私はこれから長旅に出るのでその時に使うと言い、ついでに丈夫で肌触りの良いタオルも探していると言うと、さらに少し驚いた顔をしつつ、なんと一つ1万ガーランドの一番良い石鹸を二つで銀貨一枚で良いと言ってくれた。
今この町では銀貨の価値が上がっているようで、ついでにタオルも一緒に買ってくれるならおまけするとのことだった。
タオルも良いのは1万もするが、旅で使うのには不向きということで、繰り返し洗濯しても肌触りや吸水性が落ちないものを選んでもらい、それを二枚買うことにした。
タオルも割引してもらい、トータルで銀貨1枚と銅貨5枚で高級石鹸二つとタオル二枚を手に入れた。
次に衣料品店に向かい、替えの下着と服を手に入れたが、こちらもせっかくなので丈夫で良いものを手に入れた。やはりここでもまとめ買いの割引をしてもらってトータルで銀貨二枚で買いそろえた。
その後銀行に寄って銀貨を10枚程補充してから、いったん商人の家に戻って購入したものを置き、すぐに昼食をとりに出かけ、その後は図書館に行く事にした。




