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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第26話

 自分がしでかした事なのに何が起きたのか分からずおろおろしていると、数人がかりで座り込んでいる人の鎧を外し、布でグルグル巻きにされたクッションを取り出し、シャツをまくり上げて脇腹を確認すると黒紫色に内出血しており、私はますますおろおろするばかりだった。


「まぁ折れてはおらんじゃろ、えーと・・・よし、お前は最近手当が上達してきたな、手当してみろ」


「はい!」


 いやいやいや、そこはちゃんと医者にみせましょうよ、いくら骨は折れていないとはいえ、相当内出血して打撲していますよ。


「スゥ~~~ハァ~~~、スゥ~~~ハァ~~~、スゥ~~~ハァ~~~」


 って、えぇーッ!?この人本当にただ手を当てて深呼吸しているだけじゃないですか!?


 と、私は心の中で驚きと突っ込み満載で口が開いたままだったが、さらに驚く光景を見てますます開いた口が大きくなっていった。


 なんと、みるみるうちに内出血して黒く変色していた箇所が小さくなっていくのである。


「おお、お前大分上手になったもんじゃのう」


「スゥ~~~ハァ~~~、有難うございます!」


 これは何だ?魔法か?回復魔法というやつか?いや、でも何も呪文を唱えていないし、別に手当てしている手が光ってもいないぞ。ただ本当に手を当てているだけでみるみる怪我をした箇所が治っていくではないか。


「えっと・・・これは何かの技ですか?」


「見ての通り手当じゃよ、手を当てて怪我をしたところに元気を送り込んでおる」


 元気って・・・元気を送って治るなら病院なんか要らない・・・ってホントに治ってる!


「フゥー、大分良くなった、有難う」


「はい!」


 すっかり綺麗な状態に戻った大男は打たれた方の右腕をグルグル回し、なんともないと言って立ち上がった。


 そして壁に突き刺さったなまくらの剣、90度に折れ曲がった私のなまくらの剣、最後に今はずしたプレートメールの右胸のあたりがべっこり凹んでいるのが目の前に並べられた。


「こんなになったのはこれまで見たこともない」


「すいません!弁償します!」


「んっ?いやいやそんなのはどうでも良い、それよりもオヌシとんでもない腕前じゃのう、記憶は失っておってもやはり体に染みついた技は体が覚えているようじゃ」


「えっと、その・・・恥ずかしながら、私は今何をどうやったのでしょう?」


「そうじゃな・・・よし、お前とお前、ゆっくり今のを再現してみせい」


「はっ!」

「はっ!」


 上級者の二人がすぐに対面し合い、他の練習生達もすぐに後ろに下がった。


 一人がゆっくりと剣を上から降ろし、もう一人がほんのごくわずかに左に剣先を動かしてから右方向にわずかに斜め上向き加減に剣を移動させ、相手の剣の軌道を完全に逸らしてから剣先を切り返して、左方向へと剣を薙ぎ払った。その際相手の右わき腹は完全にがら空きだった。


 これをたった今自分がやったというのか?とても信じられなかった。


「あの曲線運動にはこういう意味があるんじゃ、しかも角度を変えたり大きさを変えたりすれば、幅広く応用出来る、誰か思いつく者はおるか?」


「突きを払って相手の足を斬ります!」


「おう、良い案じゃ」


「下からすくいあげて袈裟懸けに斬ります!」


「うむ、それもあるな」


 いやそんな、斬ります斬ります言わないで下さいよ、確かに剣術道場だから斬るのを教えているんでしょうけど、そんな簡単にごく当たり前のように斬りますとか言うので私はかなりぞっとするものがあった。


「あくまでも一つの例えとしての話じゃが、沢山の技を覚えるよりもまずは一つの技を極めるまで徹底的に修練すれば、様々な形に応用出来るという極意がある。もちろんあらゆる戦いの場において当てはまるという訳ではないが、それでもただ色んな技を知っているだけというよりは遥かに役に立つ」


「「「はい!分かりました!」」」


 今回は他の練習生に交じって私も元気よく返事をした。


「それにしてもオヌシ相当にヤバイヤツじゃな、こりゃちょっと一筆書いておかないと、死人が大量に出るわい、ちょっと待っておれ」


 かなり聞き捨てならないセリフを言った気がするロレオンは小部屋の方へと戻っていき、その時になって初めて上級者の人が話しかけてきた。


「タナカ殿・・・と、申されたか、一体どのような修練を重ねればそのような常人離れした強さを得られるのであろうか?」


「えっ?えーと・・・すいません、自分は魔の森で記憶をほとんど失ってしまったので昔の事は覚えていないのですが・・・あっそうだ、魔の森の中で朝から晩まで素振りをしてぶっ倒れた事がありました、次の日全身を針で刺されたような筋肉痛と想像を絶する空腹で生き地獄を味わいました」


「「「・・・」」」


「あと、毎日それはもう怖くて怖くて、寝ている間に虫が口や耳や鼻から入ってきて卵を産むんじゃないかとか、ヒルやマダニに噛まれるんじゃないかとか、それはもう想像するだけで恐ろしくて気が狂いそうになりました」


「うえぇっ!」

「おえぇっ!」


「・・・オ、オレには無理だ・・・」

「オレも・・・」

「探検家だけはやめておこう」

「ああ、やめておこう」


「お師匠様も申されていたが、生きるか死ぬかという極限状態で生き残った者のみが辿り着く事が出来る境地というのがあるそうだが、タナカ殿もそのような経験をなされたのですな・・・」


「しかし引き換えに記憶を失うというのはあまりにも代償が大き過ぎる・・・」


「「「・・・」」」


 なんかその場の全員がドン引きしている表情で、とてもいたたまれない気分になってきた。


「なんじゃお前ら、まるでお通夜のような辛気臭い顔をしおって・・・」


 ロレオンは巻物と手紙を持って戻ってきた。


「タナカよ、オヌシにはこれを渡そう、この巻物にはこの者には手出し無用とワシの名前入りで書いてある。今回はたまたま最初にワシと出会えたから良かったものの、そうでなければ下手すれば道場破りとみなされて血の海の修羅場となっていたかもしれん」


 ゲーッ!やはりそうだったのか!


「この巻物は丈夫な獣の皮に、水に濡れても文字が消えたりにじんだりしないインクで書いている、そしてモルサールの正式な刻印を打ち込んだ、もしもこの先オヌシに腕試しを挑んでくる者がいた場合、この巻物を開いて見せよ、恐らく大抵はいらぬ戦いを避けられる、それでも挑んでくる者は知らん」


 最後の一言が結構引っかかるものがあるが、それでも実に有難い免罪符のようなものを得られて、大変有難かった。


「有難うございます!とても助かります!お礼に何か私に出来ることはないでしょうか?」


「いやいや、要らんよ、むしろ同胞のいらぬ血が流れないようにするためにやっておることじゃ」


「しかし・・・そうだ、何か探検の仕事で美味しい果物とか山菜とか見つけたら持ってきます!」


「ホウ!それは良いのう!楽しみにしておるぞ」


「はい!」


「ところでオヌシ、興味があるならいつか中央都市に行ってみると良い、あそこにはモルサール本家の総本部道場があり、そこには超一級の戦士が一人おるぞ。結構変わった奴でモルサール八式というのを考案したのだが、誰一人として使いこなせなくて浮いているそうじゃ」


 浮いてるんだ・・・


「道場生も桁外れに多いからもしかしたら流水式を知ってる人間がおるかも知れん。総本部道場に行くことがあればこの手紙を渡すと良い、オヌシの紹介状を書いておいた」


「有難うございます!中央都市ですね!いつか行ってみようと思います!」


 そうして私は予想外に予想以上の大成果を得て、大いに満足して道場を後にしたのであった。

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