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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第24話

「驚かしてすまんのう、って、いやワシの方が驚いたわい、オヌシ人間か?何ちゅう身のこなしじゃ」


「すっ、すいません!あまりにも驚いたもので、体が勝手に反応してしまいました」


「何?もしかしてオヌシ・・・いや、それよりもオヌシもしかして魔の森から生きて帰ったとかいうタナカか?」


「えっ!?はい!そうです!田中です、昨日その、えっと・・・探検家と戦士のライセンスを取得しました」


 私は首にぶら下げているライセンス証を胸から取り出して見せた。


「おうそうかそうか、ついさっき戦士組合の会合で聞いたばかりじゃ、して腰に下げている剣が魔の剣とやらか?」


「そうです、森の中で目覚めたらこの剣が私の体の横にありました」


「ホウ・・・とりあえずここで立ち話もなんじゃ、続きはウチの中で話を聞こうか」


「分かりました、失礼致します」


 そうして私は素上の分からぬお爺さんの後に付いていき、後方ジャンプで既に足を踏み入れていた道場の中へと入って行った。


 確かにこのお爺さんの正確な素性は分からないが、組合の会合に出席していたというのと、こうして後に着いて歩いていると、道場にいる人全員が頭を下げているのと、そもそも先程の衝撃的な出会いからして、恐らくこの道場で最も高い地位にいる達人であることは間違いないと私は確信した。


 広い玄関から建物内に入ると、これまた広い屋内練習場があり、これまでとは一変した貫禄が漂う人達が全員静かに深々と頭を下げていた。確実に上級クラスの人達だろう。


 さらにどんどん奥へと進み、小さな一室へと到着した。


「やれやれどっこいしょ、オヌシもそこに腰かけてくれ」


「はい、失礼します」


 小さな部屋の小さなテーブルに腰かけるとすぐにお茶を持ってきた年老いた女性が一礼して入ってきて、すぐにまた一礼して退室していった。


「良かったらオヌシも飲んでくれ」


「有難うございます、いただきます」


「ウン?いただきます?頂くにます?頂戴致しますという意味か?」


「あっ、はい、つい習慣で、物を食べたり飲んだりするときの挨拶みたいなものです」


「ホウ、オヌシ、先ほどから丁寧な言葉遣いじゃのう、余程良い所の出なんじゃな」


「そう・・・なんでしょうか?覚えていません」


 いや確実に普通の庶民だった事は間違いないと思うが、さすがに今この場で初対面の人にこことは違う世界に生きていたとは言えないので、言葉を濁しておいた。こういう時記憶喪失というのはある意味便利ではある。


「そういうのは体に染みついているものじゃ、さて、詳しく話を聞こうじゃないか」


 そうして私はこれまでの経緯と、今ここにやってきた理由を話した。


 お爺さんは私の話を面白がったので、時折質問を受けながら結構長い時間話し続け、話が終わったころに先程の女性が入ってきて今度は昼食を持って来てくれた。


 昼食に出てきたのはなんとお茶漬けで、まるで鮭茶漬けのように小さく刻まれた魚や何かの薬味がふりかけられたご飯に湯が注がれていた。


「年寄の食い物で悪いが、よければ食べてくれ」


「すいません!いただきます!」


「ウム、そのいただきますというのは良いのう、ワシも習うとしよう、いただきます」


 そうしてやはりお箸ではなく、スプーンで一口食べてみたのだが、まさしく紛れもなく鮭茶漬けで、それも高級料亭などで出てきそうなくらいダシが利いていて抜群に美味しかった。


「驚いた、オヌシ実にうまそうに食うのう、湯かけ飯を気に入ったか?」


「はい!美味しいです!」


「おかわり要りますか?」


「いいんですか?お願いします!」


 今回はお婆さんはすぐには退室せずに静かに目立たぬところに立っていて、すぐにおかわりを持って来てくれた。


 いきなりやってきたにも関わらず、奥まで通してくれてお茶をご馳走になり、さらに美味しい昼食までご馳走になり、それもおかわりまでしてしまうというあつかましさではあったが、二人の老人はにこやかな笑顔を浮かべていた。


「最初にオヌシを見た時に言いかけたのじゃが、お前さん流水式の人間かもしれんな」


「えっ?私がですか?」


「うむ、図書館で数ある剣術書の中で流水式の書を手にした事といい、初めて会った時のあの身のこなしといい、その時のオヌシが思わず体が勝手に反応したと言った事といい、流水式が体に染みついていたからこその言動かも知れん」


「でも私は流水式について全く記憶にないんです」


「まぁそもそもアレは形がないようなもんじゃからなぁ・・・」


「ええと、お爺さん、じゃない、あなた様は流水式についてご存知なんでしょうか?」


「ウン?ホッホッホ!いやすまんすまん、すっかりずっと名乗るのを忘れておったのう、話しが面白くてついこちらの事を言うのを忘れておった、ワシはこの道場の当主を務めるロレオン・デ・モルサールと言う」


「そうなんですね!お会いできて光栄です!」


「うん、まぁ一応モルサールを名乗ってはいるが、所詮田舎の分家じゃよ」


「・・・」


「さておき、ワシも流水式については良く分からん、そもそも流水式を良く知る人物など果たしておるのかどうかも知らん、それくらい謎の多い流派じゃ」


「上下巻の本を軽く一読したんですが、全く分かりませんでした」


「そうじゃろう、しかしあれに書かれていることは高みを目指して多くの実戦を経験した腕の立つ者ならば頷ける点があるのじゃ」


「なるほどそうなんですね、あの沢山書かれた矢印についても達人の方ならば分かるのでしょうか?」


「そうじゃなぁ・・・あれは恐らく太刀筋じゃないかと思うが、実際の所はよう分からん」


「こういう動きの絵の通り素振り練習してみたのですが、どうにもしっくりこないというか、何がどう違うのか分かりませんでした」


 私は指で8を横にした無限のマークを宙に描きながら説明した。


「ホウ、どれ、腹ごなしに丁度良いからやってみせてもらおうかの」


 そうして小部屋を出て先程通った大きな屋内道場へと戻った。


「ではやって見せてくれ」


「はい、ええと・・・では・・・」


 なにせ朝に初めて軽く練習しただけの事なので、付け焼刃な上にそもそもずぶの素人なので、無様なのは分かっているがそれでも真剣に真剣で素振りを開始した。最初はゆっくり大きく動き徐々に小さく鋭く速くしていった。


「続けられるだけ続けてみよ」


「はい!」


 私は言われた通り延々と無限に無限のマークを描く動きを続けた。10分を越えた辺りから時間が気にならなくなり、30分を越えた辺りから周りが気にならなくなったが、それでもやはり何かが違うという違和感は拭えなかった。


「その辺でいいじゃろう・・・ウン?オイ、これ、やめて良いぞ・・・オイ・・・」


「スゥ・・・ヤメッ!」


「うわっ!・・・あっ!すいません!つい夢中になって聞こえていませんでした!」


「こりゃ驚いた、お前さんなんちゅう疲れ知らずじゃ、それに凄い集中力じゃな」


「失礼いたしました」


「フーム・・・もしかしたらその魔の剣の持つ力かも知れんな・・・」


「ゴクリ・・・やっぱりそうなんでしょうか、私も何だか自分の力じゃないような気がします」


「ウム、ちと試してみるか・・・」


 そう言ってロレオンは数人の上級者を呼んで、何かを試すことにした。いきなり戦えとか言いださなければ良いが・・・

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