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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第23話

 翌朝、護衛の無口な人と弓使いの人が作ったという美味しい朝食を各々適当に雑談しながら商人も含めて全員で食べている時、商人から昨日は別れた後何をしていたのかと問われたので、図書館で色々と情報収集をしていたと答えた。


「そういえば図書館で流水式剣術という変わった本を見つけたのですが、皆さんご存知ですか?」


「流水式?・・・あぁアレか!」

「ブワッハッハッハ!」

「うわ!汚ねぇな!吹き出すんじゃねぇよ!」

「すまんすまん!しかしあの流水式だぞ!」

「・・・」


「ガキん頃読んだなぁ~」

「オレもオレも!」

「流水式ごっこはめっちゃ流行ってたよな」

「あれだろ?下巻の最後の言葉・・・」


「「「考えるな!感じろ!」」」


「「「ワッハッハッハッハ!」」」


「まぁある意味言いたいことは分かるが、一対一の戦いならともかく、その場の状況に応じて頭を使って戦術を即座に考えないと感じる前に殺られてしまうわな」


「全くだ、おまけにあの意味不明な矢印の解説で何をどう理解しろというのだ、まず何と言っても素振りと対捌きがまともに出来なければ話にならん、逆にその基本が本当の意味できっちり出来ていればそれだけで事足りるぐらいだ」


「下巻はほとんど思想哲学で意味不明だしな」


「でもあの難しい言葉がガキの頃にはなんか格好良かったんだよな」


「分かる分かる、何か達人っぽい感じがしたな」


 どうやら私はかなり中二病全開の怪しい本に引っかかったようで、みるみる恥ずかしさで顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。


「そういえば昔、流水式を教えている所がないか本気で探し回った事があった」


「ホウ!で、どうだった?」


「結局なかったが、モルサール流剣術の本部にいる腕の立つ人が流水式は強かったと言うのを聞いた」


「ホウ!」

「へぇ~!」

「ホントかぁ~ソレ?」

「・・・」


「まぁ実際の所どうだろうな、他の人は大概あぁアレなみたいな反応だったし・・・」


 そんな具合で私の方はなかなかに恥ずかしい気持ちではあったが、皆で食べる朝食の場は盛り上がったようで何よりだった。


 その後商人は商工組合へ行き、私は中庭にある簡易テーブルとイスに腰かけて流水式剣術の書を読んだ。せっかく借りたのだし一応は全て目を通しておこうと思ったのと、その場で刀を振って練習してみようかと思ったからだ。


 そもそも流水式という名前がどういう意味なのかと疑問に思っていると、どうやら流れる水のように自由自在に止まることなく形を変えて、相手の力に抗わずに動くことを表しているようだった。


 相変らず意味不明の矢印が沢山描かれた図を見ながらページをめくっていると、何となくこれなら分かるという絵が出てきた。


 それは8の字を横にした無限のマークのように切っ先を動かしている絵で、相手の攻撃を払いのけてそのまま動きを止めずに相手のわきの下を切り付けるようだった。ただそれはあくまでも一つの例に過ぎないようで、その動きでいくらでも自由に応用せよと書かれていた。


 何と言うか大雑把な感じが否めないが、それでもようやく具体的な説明が出てきたので、これは実際にやってみようと思い、いきなり真剣の刀を抜いて練習し始めた。


「えーと・・・こうして・・・こう?いや、こうしてから・・・こうか?・・・ウーン・・・分からない・・・まぁいいや、とりあえず何回かやってみよう」


 そうして刀の切っ先を無限のマークのようにそれこそ無限に延々振り続けた。


 最初はゆっくり大きく振っていたがだんだん気分がノッてきてスピードを上げて、徐々に動きも小さく鋭くしていった。


 相変らずいくらやってもまるで息が上がらず疲れ知らずではあったが、どうにも何かしっくりくるものがなくいったん動きを停止した。


「何か違う気がする・・・」


 しかし何が違うのかさっぱり分からなかった。そもそも剣道はおろか真剣を持った剣術なんて全く微塵も関係のない人生を歩んできたはずなので、そんな素人以下の自分に分かりようがなかった。


 考えるな感じろと書かれていた事だし、考えるのはやめて、おまけに練習するのもやめて、とりあえず最後まで本だけでも読むのを続けた。


 護衛の人が言っていた通り、下巻の後半はひたすら意味不明の思想哲学のようなものが続き、例えば一つの事に捕らわれるなと書いていたかと思えば一つの事を極めよとも書かれていて、どっちだよ!と思わずツッコミが口から出る程だった。


 さらに意を念じて動と為せば、其れ則ち電光石火の速さと為る、という確かに中二病患者が喜びそうな難しくも格好良い言葉が書かれていた。


 まさに朝食の場で護衛の人達が言っていた通り、昨日は私も子供のようにコレ格好良い!と思ってこの本を借りてきたが、内容の真偽はともかく今の自分には参考にならない事が分かった。


 それでも上下巻の二冊しかなかったので、一応一通り全てに目を通し終えて、改めてもっと基本的な本、確かソルドンが言っていたモルサール流剣術とやらの本を借りようと思って、今日も図書館へと向かう事にした。


 図書館に到着すると昨日と同じ職員の人がいたので、昨日借りた本を返却しに来たと話した。


「あぁ、この本ですね、やはりあまり参考になりませんでしたか?」


「はい、ちょっと私には難しかったです、もっと基本的な事から教えてくれる本の方が良かったです、モルサール流剣術なら参考になりますか?」


「そうですね、モルサール流は広く普及していて全国各地に道場があります、この町にも支部があるので本で学ぶよりも道場に行って直に学ぶ方が断然習得は早いですよ」


「あっ、道場があるんですね、それは良い事を聞きました、早速そちらに行ってみようと思います、っと場所を教えてもらえるでしょうか?」


「いいですよ、でも失礼を承知で伺いますが、あなたは探検家ランクと戦士ランク共に3級の腕前の方でいらっしゃるのに、道場に通う必要があるんですか?」


「えーと・・・自分はその、実は記憶を失ってしまっていて、剣術の基礎もすっかり忘れてしまったのです」


「・・・あっ!あなたが最近魔の森から生還なされたという探検家の方だったんですね!」


「はい、田中と言います」


「あぁそうでした、タナカさんです、職員会議の時に説明されました」


 そうして職員の人からモルサール流剣術道場の場所を教えてもらい、まずは見学だけでもしてみようということで足を運ぶことにした。


 途中何度か道行く人に尋ねながら目的の建物に到着すると、いかにもそれらしい門がある建物があり、門は開かれていたのでそのまま入るとまさに剣術道場だという風景が目に飛び込んできた。


 素振りをする者、人型の木人形に木剣を打ち込んでいる者、二人一組で練習稽古をしている者など、広い敷地内で様々な練習をしていた。


 道場にたどり着いたものの、果たして敷地内に入ってもいいものか、このまま何の断りもなく入って、トラブルが起きたら場所が場所だけに大事になりかねないので、どうしたものかと立ち往生してしまった。


 そこでふと良い事に気が付いて、今のところはいったん宿に戻って、護衛のギャラガかソルドンに相談して可能であれば一緒に付いて来てもらおうと閃いた。昼食に昨日食べた美味しい料理屋をご馳走すれば何とか頼みを聞いてくれるかもしれない。


 早速そうしようと思って振り返ったところ、目の前に小さな老人がいたので私はビックリして思わず脊髄反射で後方にジャンプした。


 一体いつからいつの間にそこいたのかまるで気付かなかった。

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