第22話
初心者向け探検家教本の後半は簡単なサバイバル技術に関する説明が図解入りで説明され、さらに薬草や毒のある植物や毒虫や危険な獣や食用可能な動植物なども図解入りで説明されていて、非常に分かりやすい上に大いに参考になった。
別売りでそうした情報のガイドブックが販売されているとのことだが、上位ランクの組合員はなんと無料だった。もちろん後で手に入れるつもりだ。
その後戦士組合のコーナーに行くと、やはり同じような初心者向けの教本があったが、探検家組合のものよりは本が薄かった。しかしその先の棚には様々な戦闘方法に関する本が充実していた。最も多かったのはやはり剣に関する書物だった。
適当に身近にあった片手剣の本を取って、パラパラとめくっていると途中から図解入りのページが多くなり、基本の構えから剣の振り方、敵の攻撃の対処と続いていき、後半では人間以外の様々な生き物に対する対処法が書かれているのが興味深かった。
まさかドラゴンとか巨大昆虫とか悪魔のような存在とか出てこないよなと少しだけワクワクしながらページをめくっていったがそうした存在は出てこなかった。それはそれで安堵するものがあった。
他の本も手に取ってみたが、剣だけでも様々な流派があるようで、色んな本が沢山置かれていた。図解入りが多いので一つの流派でも一冊だけでは完結せず、大体十巻前後ほどあった。
図解入りということもあってこれが結構面白く、色んな流派の本の一巻目を手にとってはパラパラとめくっていくと、何かピンとくる本に出会った。
その本のタイトルには「流水式剣術」と書かれていた。
これまでの流派と違って、その本では腕の力を抜いてダラリと剣を下げた姿勢が基本の構えだった。いや、それどころか基本の構えというもの自体存在しないと注釈で書かれていた。
戦闘技法の章に入ってもこれまでと明確に異なり、自分と対戦相手が描かれた絵に対して無数の意味不明な矢印が描かれているのだが、具体的にこうしろああしろという説明書きがまるでなかった。
そして他の流派の本と違って流水式剣術は上巻と下巻のたった二冊しかなく、しかも下巻の一番最後にはただ一言「考えるな、感じろ」としか書かれていなかった。
なんじゃこりゃ?と物凄く不思議というか変な流派だと思ったが、どうにもこれが気になって仕方がなく、この二冊を借りられるか職員と思しき人に組合の認証プレートを見せて尋ねたところ、職員の人は驚いた顔をしてプレートと私の顔を二度見して、無償で貸し出してくれた。貸出期限は10日でそれを超えた場合は日数に応じた料金を支払わなければならず、紛失した際も相応の料金を支払わなければならないとのことだった。
そうして私は流水式剣術の本を借りて、ついでに初級探検家用ガイドブックを無料でもらって図書館を後にした。
外に出ると既に夕暮れ時だったので、ガリクソンと一緒に町を歩いていた時にあの店はうめぇぞと教えてくれた店に入ってみた。
大分繁盛しているようで大勢の人で賑わっていたが居酒屋と違って飯屋といった感じなので回転が早く、待たずにすぐに席に着くことが出来た。
早速メニューを見るとメイン料理は肉の日替わり定食と魚の日替わり定食の二種類しかなく、サイドメニューにはソーセージ盛り合わせと煮物と漬け物があるだけだった。なるほど通りで回転が早いわけだ。
ここのところ肉続きだったので魚の日替わり定食を注文し、ついでに煮物も頼むと、1分もかからず料理が運ばれてきた。
嬉しい事にホカホカの白米が大盛りで茶碗に盛られていて、大きな焼き魚の開きと漬け物とゴロゴロ野菜が入ったスープに加え、追加で頼んだ煮物にはじゃがいも、にんじん、たまねぎ、豆、薄切り肉が入っていて、素材だけならまさに肉じゃがだった。
残念ながらそれらは醤油と味噌で味付けされてはいなかったがそれでも十分美味しくてあっという間に完食したが、なかなかのボリュームがあったのでお腹がいっぱいになった。
隣に座っていた人が手を上げて店員を呼んで会計していたので、私も後に続いて支払いを済ませたのだが、全部で700ガーランド、日本円で700円程度だったのでこれは安いと思った。
満腹で満足しながら歩いていると、とある建物に入って行く客と出ていく客の決定的な違いに気付き、私は目を大きくして良く見て建物に近づいていくと、明らかに私が欲していた建物らしいことが判明した。
そこは恐らく公衆浴場、つまり銭湯らしかった。
入って行く客は髪の毛が乾いており、出ていく客は髪が濡れていて、人によっては少し身体から湯気が出ているように見えたのだ。
私は急ぎ足で商人の家に戻って、ユーリヤからもらった替えの下着(恐らくドリクソンがまだ少年だった頃の下着と思われる)とタオルを手にして玄関に向かうと、護衛の人で両手剣使いのソルドンがいた。
「おっ、風呂に行くのか?オレも行く!一緒に行こう!」
「了解です、ところで替えの下着とタオル以外に何か持っていく物ってありますか?」
「タオルは持っていかなくてもいいぞ、風呂屋にタップリあるから替えの下着だけで十分だ」
「そうなんですね、ではタオルは置いてきます」
これは丁度良かった。なにせこちらの世界での習慣とかマナーなどほとんど何も知らないので、知ってる人が一緒にいるのは実に助かる。
玄関で再開するとソルドンと一緒に寡黙というかほとんど無口の人もいて、三人で銭湯に行くことになった。他の人達は居酒屋で飲んでいるそうだ。
銭湯は当然男湯と女湯に分かれており、前金で300ガーランド支払い、脱衣所もまさに日本の銭湯や温泉旅館やホテルの大浴場などのようで、替えの下着や荷物を入れる下駄箱のような木製の建具があって、壁には大きな鏡があって、腰かけるベンチに、何かの飲み物が入っている容器もあった。
風呂は日本と同じで全裸で入るようで、風呂場の出入り口には身体を洗うための小さなタオルと、風呂からあがってきた時に身体を拭く大きなバスタオルがたくさん積まれていた。
風呂場に入ると大きな湯舟に乳白色のお湯がたっぷり入っていて、どうやら温泉のようだった。
それとは別に今となっては見慣れた普通のお湯が入った水槽が数か所にあり、皆そこでお湯をすくって体や髪を洗っていた。
護衛の人達はちゃんと入浴前に頭からお湯をかけて体の汚れを軽く落としてから湯舟に浸かるのを見て、マナーの良さに感心しながら私も同じように真似してから湯船に浸かった。
「ブハァーーーッ!」
「・・・」
「ハァー気持ちいいですねぇーーー」
ソルドンは盛大に息を漏らしたが、実際とても心地良く、周りの人達も一様に声を漏らして気持ちよさそうだった。普段寡黙で表情を崩さない護衛の人も目元が緩んでいてなんとなく可愛い表情だった。
その後これまでよりも泡立ちの良い石鹸で体と髪を洗い、もう一度湯船に浸かってから風呂から上がり、入浴前に気になっていた飲み物が果実入りのミルク飲料で、これがまた冷えていてすこぶる美味しかった。しかも何本飲んでも無料とのことだった。
そうして念願の温泉入浴で心身ともにリフレッシュ出来たので実に気分が良く、商人の家に戻るとすぐにベッドに横になった寝た。
日本にいた頃と大きく文明は異なるが、この世界でも十分快適に過ごせることが分かり、私は心から安堵しながら深い眠りについていった。




