第20話
ガリクソンの言う通りなかなかに格式が高い感じのする店内で、室内の調度品に加えて客層も給仕も含めて確かに落ち着かなかったが、出てくる料理についてはそれはもう一級品で、またしても泣きそうになるのを何とか堪えて味を堪能した。
「いやぁ相変らず旨かった!しかしやっぱり落ち着かねぇなぁ、音を立てずに食べるのに気を使わなきゃならんし、いちいちフォークやナイフを交換しなきゃならんし、あれがなければ最高なんだがなぁ」
「確かにそうですねぇ、いちいちナイフやフォークを交換するのは味が交わらないためだそうですが、そんな事をしなくても十分美味しいですなぁ」
「タナカはオレよりも音を出さずに食べていたな、ユーリヤも言っていたが、お前さん良い所の出なんだな、こういうのは生まれ育った地が出るってもんだ」
「そうですね、記憶を失ったとしてもこういうのは習慣として体に染みついて残っているんでしょうね」
「いやぁ・・・どうなんでしょうか、私も音を出さないように食べるのに結構気を使いました」
食後の余韻を楽しみつつそんな会話をしながら歩いているとすぐに探検家組合の建物に到着した。
「わっ、ここも凄く立派な建物ですね」
「何と言っても探検家組合ですからねぇ、色んな組合がある中でも最も資金のある組合ですから」
「そうなんですね」
「ああ、世界中のお宝を集めているのが探検家組合だからな、単純に資金力という点においては一番だ」
そうして探検家組合に入ると木製建築とはいえロビーのホールも広々としていて実に立派で、ところどころ磨かれた黒い石か飾られていてまるで碑文のように何か文章が刻まれていた。
ホールの一角を見ると人が集まっており、そこには掲示板が何枚か立てられていて、人々は掲示板に貼られた紙を見ていた。
村長と商人はそちらには行かず、窓口へと向かって歩いていき、やはり窓口に近づいていくと職員の方からこちらに近付いて来た。
「木こり村村長のガリクソン様と商人組合の方ですね、そしてこの方が魔の森から生還したという方ですか?」
「おう、そうだ」
「お待ちしておりました、ではご案内いたします」
そうして私達は職員の案内のもと、2階へと続く階段を上っていった。
何やらこれまた立派な部屋へと案内され、職員はすぐに組合長が来るので座って待っていて下さいと言い、入れ替わるようにお茶を運んで来た別の職員が入ってきて私達の前にお茶を出してくれた。
「あっ美味しい!」
「おう、いい茶だ!」
「そうですね、さすが探検家組合です」
私達が飲んだのはミルクティーとは違うが、何かの甘いシロップとミクルクがたっぷり入ったお茶だった。
ティーポットも置いていってくれたので、私はおかわりの二杯目を注いでいるところで、どうやら組合長と思しき人物が入ってきた。
「おお!ガリクソン村長!久しぶり!」
「おお!バリバよ!久しぶりだ!」
「君が魔の森から生還したという者か?」
「はい、田中かなたと言います、姓が田中で名がかなたです、田中とお呼びください」
「ほう性が先に来て、そっちで呼んでくれということは東の人間だな」
「はい、日本で生まれ育ったのですが、ご存知ないでしょうか?地域によってはジャパンと呼ばれているかもしれませんが」
「ニホンにジャパン・・・うーむ・・・いや、分からん、相当遠い東の事かも知れないな」
そうして探検家組合長からのヒアリングが開始されたが、ガリクソンと商人という、証人としてはこれ以上ない二人がいてくれたおかげで疑いをかけられるような事は一切なく進んだ。
また、ヒアリングの途中で私の持っている刀が重さを測る量りにかけられたが、商人が言っていた通り重量は普通の片手剣と同じ程の重さであるにも関わらず、私以外の人が数人がかりで持ち上げようとしてもまるで微動だにしないことが分かった。
さらに最新の探検家名簿を調べてもらった結果、田中、或いはかなたのどちらでも該当する人物は名簿に存在しなかった。
結局探検家として新たに登録するかたちになり、これまでのヒアリング結果から、私の探検家ランクは3級相当だという事になった。
探検家ランクは一番下が10級で最上位は超一級まであり、超一級は現在5人しかおらず、3級探検家ですら百人程度しかいないとのことだった。
「いきなりそんな上位ランクで良いのでしょうか?私は記憶のほとんどを失っていて、探検家としての様々な知識や経験が損なわれていると思うのですが・・・」
「ウム・・・それは今後次第と言ったところだな、今回タナカがもたらしてくれた物と情報と行動はそれだけ価値のあるものだった、しかしこの先3年の間で全くそうしたものが提示されなかった場合、3年ごとに1ランクずつ下がっていくことになる、我々探検家組合は一度ライセンス登録をした後は実力結果主義なのだ」
「なるほどそうなんですね、とても分かりやすいですし、公平で正当な取り決めだと思います」
「ウム、賛同してくれて有難う。ところでタナカよ、一つ提案があるのだが一緒に戦士組合にも登録したらどうだ?」
「えっ!戦士組合ですか?」
「そうだ、グマンの王の首を一刀両断して見せたというお前の腕前、何より魔の剣を持ち、魔の森から生還してきたというその能力は探検家というよりもむしろ戦士としての素質の方があると思うのだ」
「オレもそう思う!タナカよ、もしかしたらお前の名前は戦士組合の方にあるかも知れんぞ!」
「なるほどそうですね、タナカ殿、その可能性はありますよ」
「えっと、ところで複数の職業をまたいで組合に登録することは可能なんでしょうか?」
「可能だとも、兼業している者は大勢いるぞ、そもそも探検家として名声を得ている者は大抵腕っぷしも強い。さらに自ら苦労して発見した物を高く売るために商売人としての才覚がある者もいる。さらには料理の腕がある者もいるから料理人組合に所属している者もいる。まぁさすがに2つ以上兼業している程の才能を持つ人物は数える程しかいないがな。しかもそうした人物は大抵は器用貧乏でその道の一流にはなれないのが常だ」
「なるほど、戦士と探検家を兼業することで良い事は何でしょうか?」
「ウム、まず3年間にどちらか一方の功績があればどちらのランクも継続されるし、どちらか一方の仕事の依頼であまり良いものがない場合、もう一つの方で良いのがある場合もある、さらに大抵は探検していると戦闘もある場合があって、その場合は両方で収益が見込まれる」
「なるほど!それは良いですね」
「だろう?だからある程度の上位ランクの者達はほとんどが兼業しているのだ」
「教えていただき有難うございます!早速戦士組合にも登録します!」
「ウム、ならばオレからも書状を書いておこう」
そうして実に有難いことにまたもや権威ある人からの推薦状という援護を受けて、私達は続けて戦士組合へと向かった。
残念ながら戦士組合でも最新の名簿にはタナカもカナタも登録されておらず、新たに登録されることになった。こちらも探検家と同じ3級ランクで登録してもらえた。
ちなみにどちらの組合も上位ランクの登録ということで、2つ合わせた登録費用合計は純金貨1枚、日本円にしておよそ100万円という相当高額な登録費用だった。
しかしそれだけにかなりの高い付加価値があり、両組合から発行される組合証があればほぼ全ての国の通行が許可され、当然身分と身元も保証され、さらに組合関連施設の優先的な利用やそれに付随した様々な特典があり、値段以上の価値が十分あった。
さすがに今日すぐに発行とは行かないようで、明日また訪れるよう言われ、その際専門の画家による肖像画を描いてもらうとのことなので、時間に余裕を持って来てくれと指示された。これはどちらか一方の組合で良いそうだ。
そうして私は探検家組合と戦士組合の仮登録を済ませたのであった。




