第143話
「そ・・・そんな・・・」
「な、なんという事だ・・・」
「う・・・ううう・・・」
これは事情聴取に参加した人達が流体金属スライム状態になったザンブロワに触れて、彼が見た光景を見た後のリアクションである。
リーもこの時初めて亡くなった探検家達の身に何が起こったのか映像で知ることになり、その可愛らしい目からは大粒の涙がこぼれた。
ひとしきり悲しくも残酷な現実を認識した後、いったんお茶を飲んで落ち着かせる事にした。
「ザンブロワ殿、これから大変残酷な質問をする事をどうかご容赦ください、貴殿はこの先どういたしますか?そのような姿になった事を身内の方々や世間一般に公表なさいますか?」
「キュウウ・・・」
「否定しています」と、私が代弁したが、本人の意思表示が大事だと思い、ふと私は閃いて新聞社代表の人に筆記用具を借りて、ザンブロワの前に紙とペンを置いた。
するとムニュウ~とナメクジのような腕が伸びてきてペンを握り、なんとザンブロワは紙の上に否定を表す文字を書いた。
それを見てもう一度嗚咽を漏らす人も出たが、出席者達はその意思を尊重し、確かにその方が多くの人達にとって辛い思いをせずに済むだろうと同意した。
私はさらにひらめき、ザンブロワは新たに発見した神様の使いという事にするのはどうかと提案したところ、全員がそれは良い考えだと同意してくれたが、ザンブロワは恐れ多いとして神の使いに仕える存在として欲しいと書いたので、私達はザンブロワのこの主張を尊重する事にした。
さらに報告は続き、次にいよいよ金属生命体である宇宙人について、隠すことなく全て報告した。
すぐに有識者の中でも考古学代表の人が、その方面に詳しい人物の人選をして、職員を呼んで緊急招集するよう依頼した。
この時点で結構時間が経過していたのと、かなり重たいテーマの話しで皆も精神的に疲れただろうという事でいったん休憩とする事になった。
悲しくても腹は減るという事で、私達は食欲があまりない都市長達と違ってお腹が空いたので、食事をとることにした。ザンブロワも普通に食欲があり、皆と一緒に昼食を食べた。
それでも皆珍しく口数が少なく、静かに昼食をとっていたのだが、シャルがなかなか気の利いた話しを持ちかけてきた。
「神の使いの召使いに生まれ変わったザンブロワに新しい名前を付けてあげるのはどうだ?」
「賛成賛成!」(リュウト)
「そうですね!賛成です!」(ニッキ)
「うん、アタシもそれが良いと思う」(ムルギン)
「私も賛成です!」(シルビア)
「私もそれが良いと思います!」(リー)
「キュキュキュー!」
「かなた、何か良い名前はないか?」
「えっ!?僕?・・・そうだなぁ・・・やっぱり、この見た目だからスライム・・・スラ・・・スラちゃんっていうのはどうだろう・・・って安直過ぎる?」
「いいんじゃないか?短いし可愛いし今のザンブロワの姿にピッタリな気がする!」
「すらいむ?っていうのはアタシには分からないけどシャルの言う通り可愛いいし短くて覚えやすいし、合ってると思う」(ムルギン)
「オイラは賛成!(リュウト)」
「そのまんまの名前ですけど、私も覚えやすくて可愛くて合ってると思います」(ニッキ)
「私もそう思います!」(シルビア)
「でも、ザンブロワさんはどうですか?可愛い名前でも良いですか?」(リー)
確かに生前のザンブロワの肖像画はとてもスラちゃんなどという名前とは程遠い程に立派な風貌で、逞しい体に立派なヒゲをたくわえた中年男性だった。
「キュキューキュ!キュキューキュ!」
どうやら大いに気に入ったとの事だった。
昼休み休憩の後、考古学に関する有識者と魔の森で発見された食べ物に関する有識者が加わって、午前の部以上に衝撃的な内容の報告を事情聴取に参加した人達は聞かされることになった。
私は紙に八面体を描いて見せ、魔の森ではかなり大きな物だった事と、砂漠の地下では小さかった事と、さらに砂漠の神殿遺跡内の壁画にも同じ物が描かれている事を説明すると、考古学者は文献を指し示して同じような図形は他の古代遺跡や洞窟内の壁画で、数か所ではあるが発見されているとかなり興奮気味に説明した。
文献に描かれたそれはまさに同じ八面体が空から降りてきたように描かれており、この世界の人達はまだ宇宙空間について知らないので、それはやはり天の神様が使わせたものだと信じていた。
ただ、あまりにも古い時代に描かれた物なので、具体的にそれらが人類に対してどう接し、何をもたらしたのかという事については良く分からず、ただ当時の人達はそれらを神の使いとして崇めていたようだというくらいしか分からなかった。
色々な協議の末、魔の森も砂漠の地下空間も本来は人間が踏み入れてはいけない神の領域だという事で彼らは納得する事にした。
そして魔の森の食べ物については、かつてそれを口にして亡くなった人の状況についての症状に関する説明を専門家からしてもらったが、身体がドロドロに溶けていくという恐ろしい症状の記録はこれまでにないそうで、およそ150年程前からの記録の中で約200名程の死亡事例があり、その大半が急性心不全による死亡で、生のままの果物の半分以上を飲み込んだ時点で死亡したとのことだった。またそれより少ない量を食べた者は意識不明になり、やがて心肺停止したとの事だった。
一つの仮説として、過去の事例はいずれも魔の森から持ち込まれてから日数が大分経ったものを口にしており、採れたての新鮮な状態じゃなかったから成分がかなり弱くなったのではないかと推測された。
また、ムルギンやシャルが今も生きている事と、ザンブロワも酷い姿にはなってしまったが、生きている事に関する事実に基づく推測については、とても公に公表出来ないという方向で意見が一致した。
ちなみに引き換えに超人的能力を手に入れたことについては伏せていた。聞かれなかったので言わなかったという極めてアレな対応ではあるが、世に広まってしまうとかなり危険だと判断したからである。
ただ、かなり薄めて飲んだり肌に塗ったりすれば健康に良いとか美容に良いという情報は既に出回っているので、今から撤回する事は出来なかった。
まぁ現時点で世に出回っている数が極めて少ないので緊急に対応する程でもなく、既にそれの危険性についても十分知れ渡っているので、今回の件でさらに恐ろしい症状を公表すれば多くの人達はますます恐れてくれるだろうと考えた。
一通りこちらからの報告は終了したが、問題はこれをどこまで公に公表するかという事で、魔の森の食べ物に関する危険性の発表はそのまま行うとして、砂漠の地下世界と正八面体に関する件については、ありのままをそのまま公表するのはいったん避けて、魔の森のような場所に迷い込んだという事にして公表する方針で決まった。
以上で報告会は終了して解散となり、私達は貴賓室に戻ると、ザンブロワ改めスラちゃんは文書を書き始めた。それは残された遺族達への遺言書と、地下世界で起こった事の手記である。
ザンブロワはなかなか豪快な人物だったようで、結婚はしていないが各地に愛人と子供がいるようで、なんと8人もの愛人がおり、子供に関しては何人いるか分からないとの事だった。とりあえずまだ健在な両親と8人の愛人に向けてそれぞれ均等に10分割して分けてくれと書いた。
また、砂漠で意識を失い目覚めたら不思議な場所に来ていたと書いて、そこには見た事もない不思議な果物があり、それを食べた後はとても眠くなったので横になると、目が覚めたら仲間達の身体がドロドロに溶けていたと書いた。そして自分の身体も溶けていくと書いた。最後は文字がグニャグニャになって、それだけでもなかなかにショッキングな感じで書いた。
それらをザンブロワ改めスラちゃんは自分の遺留品だった使い古しの手帳と愛用のペンで書いた。スラちゃんは姿形こそスライムだが、なんと筆跡はザンブロワのものと完全に一致していた。




