第138話
「あっ!かなた兄ちゃーん!向こうに人が沢山いるよー!」
「なんだって!」
私はリュウトが指さす方向を見たが、背の低い木々に遮られてその向こうまでは見渡せなかった。
リュウトが降りてきて、小川に沿って迂回すれば辿り着けると教えてくれたので、私達はその場所に急行することにした。
リュウトは上空からはアリぐらいの大きさに見えたと言い、それなら私のモルサール流歩方術で行けば迂回したとしても1時間はかからないと判断した。
私達は小川に沿って進んだが魔の森と違ってとても進みやすく、行く手を遮るような障害物は全くなかった。
そのおかげで30分ちょっとでリュウトが見つけた人のいる場所が私にも見えた。
リュウトと一緒におーい!と声を掛けながら進んだが応答はなく、進んでいくごとに私とリュウトは声をあげるのをやめることになった。
「兄ちゃん・・・」
「うん・・・」
私達が到着した場所には沢山の衣服と装備品が綺麗に横に並べられていて人の姿はどこにもなかった。
カサカサ・・・
「「 !! 」」
現場近くの背の低い木々の間から何か小さい物が出てきたので私はすぐにカタナに手をかけ、リュウトも離れて戦闘態勢をとった。
「えっ!?」
「わっ!?」
「これ・・・は・・・スライム?」
「あっ!それ知ってる!スライムだ!」
カサカサ・・・プルプル・・・
「でも色が変だよ?スライムって青くて透き通ってるんじゃなかったっけ?」
リュウトの言う通り、目の前にいるのはバレーボールの球よりも小さいくらいの大きさの楕円形の丸い物体で形状的にはまさしくスライムなのだが、青く透き通ってはおらず、全身銀色でまるで流体金属のような見た目だった。
「なんか・・・なんか記憶がある・・・メタル・・・いや、そうなんだけどそうじゃなくて、なんか・・・ええと・・・あっそうだ!思い出した!はぐれだ!はぐれスライム!これははぐれスライムだ!」
「仲間とはぐれたスライムって事?」
「えっ、いや、うん、まぁ・・・そう、とても希少なスライムで倒すと経験値とお金が・・・」
だからどうしてこうも日常の生活に1ミリも役に立たない記憶だけが蘇るのだ。内心忸怩たる思いを抱きつつも思い出せた事に少しスッキリした。
私もリュウトも戦闘態勢を維持したまま目の前のはぐれスライムを観察し続けた。すると・・・
キュウゥゥゥ・・・
とても可愛らしい小さな声、多分声だと思うが、そういう音が聞こえてきた。さらに・・・
ポロポロポロ・・・
「あっ、かなた兄ちゃん、はぐれスライムが泣いてるよ!仲間とはぐれたから悲しいのかな?」
まさにリュウトの言う通り、目の前のはぐれっぽいスライムはゴマ粒みたいな可愛い小さな目から大粒の涙をポロポロ流していた。それを見ているとなんだかこちらまで悲しくなって泣きたくなり、私はカタナから手を離してしゃがみ込んで両手を伸ばした。
するとはぐれっぽいメタルスライムはプルプル震えた後にキュウーと言って私の胸に飛び込んできた。そしてスライムを抱きしめた瞬間、私の脳内に直接映像が映し出された。
目の前には探検家と思われる人達が砂漠を探検している様子が見えて皆賑やかな表情だったが、その後場面も表情も変わって慌てている表情が映し出された、その後今いる人口の草原が映し出され、探検家達は驚きと感激が入り混じった表情になり、泉の水や魚や果物を指さして少し興奮しながらも嬉しそうな表情になった。
それからあの果物に鼻を近づけて香りを嗅いだ後、ナイフでほんの少しだけ切り取って口に入れると、とても美味しそうな喜びの表情で皆に伝え、皆も喜んで果物を手にして食べた。
「ダメだよ!食べちゃダメ!」
リュウトもスライムに抱きついていたようで、同じ映像を見ているらしく、思わず声に出していた。
皆美味しそうに果物を食べて満足したらしく、腰を下ろして横になり眠り始めた。
その後目を覚ますと、とても直視出来ないショッキングな映像が映し出された。
横になって寝ていた人達の身体が人間の原型を留めていない程にドロドロに溶けていたのだ。
髪の毛も含めてドロドロになっており、目と口らしきものがあるがグニャリと変形して歪んでおり、極めてグロテスクな状態になっていた。
それを見ている人は絶叫していたが、その映像を見ている私達には音声を聞くことは出来なかった。
次にその人は自分の手を見ると、5本の指がくっつていてドロドロに溶けていて、ますます錯乱してうずくまる様子が映し出された。
それから目の前は真っ暗になり、しばらくその状態が続いた・・・
次に映像が再開されると、映し出された映像はとても低い位置からのアングルとなり、そのままゆっくりと回転すると、脱ぎ捨てられた衣服や装備品がすぐ目の前にあり、何やらナメクジのようなものがムニューっと右端から伸びてきて脱ぎ捨てられた衣服の襟元からネックレスに通された金属片を取り出した。
そしてその金属片には超一級探検家ザンブロワと刻まれていた。
「わぁ~~~、うわぁ~~~、うわぁ~~~ん!」
リュウトは声を出して泣き、私も嗚咽を漏らしながら涙を流した。抱きしめていたはぐれスライムもキュゥーと言いながら涙を流した。
そうしてひとしきり皆で泣いた後、私はスライムを胸に抱いたまま立ち上がり、綺麗に横に並べられた衣服を見て、皆を町まで連れて帰ろうと言った。
私は横に並べられた衣服を丁寧に折り畳み、一人一人に対して手を合わせて黙祷した。リュウトも胸の前で小さな指を組み合わせてお祈りした。
そうしてリュックから食料を取り出して、折り畳んだ全員の分の衣服を慎重にリュックに入れていると、空から待望の声が聞こえてきた。
「タナカさぁーん!」
「かなたさぁーん!」
見上げると丸くて可愛いリーと、その両足にぶら下がっている小さな可愛いニッキの姿が見えた。
「あっ!リー姉ちゃんとニッキ姉ちゃんだ!わーい!おーい!」
リュウトは元気よく飛んで二人を迎えに行った。
私は私のヒザ近くから離れずにいたスライムにあれは僕等の仲間でとても優しい人達だよというと、キュウと短く小さく鳴いてプルプル震えた。私にはそれが嬉しいという感情表現だと分かった。
リーが着地する前にニッキは飛び降りて、私の元に到着すると開口一番こう言った。
「シャルさん達も皆無事で元気です!この後ここにやってきます!」
「良かった!皆無事で本当に良かった!有難う!」
「いえ!かなたさんならきっと来てくれると思いました!・・・ところでそこにいる可愛いスライム?ちゃんは?」
「これは・・・」
すぐにリーも私のすぐ近くに着陸したので、私は先ほど見た事の一部始終を二人に伝えると、ニッキもリーも涙を流して悲しんだ。
「ここに来るまでに他の探検家の人達の衣服や装備品を見なかったかい?」
「いえ、そうした物は見つかりませんでした、私がこの不思議な場所に移された後、大体10分くらいでリーも現れて、しばらく二人で周辺を探索したのですが、人の痕跡は何一つ見つかりませんでした」
「はい、私も空から色々見てみたのですが、そうした物は見つかりませんでした、そしたら大体1時間ちょっと過ぎた辺りで私が現れたところからちょっとだけ離れた場所にシャル達が出現しました」
「シャルがかなたさんは必ず探しに来てくれると言って、剣に触れて何度も自分達は無事で大丈夫だと念じていました」
「それから一日経って、私が空から不思議なこの場所の様子を観察していたらリュウトの炎の柱が遠くに見えたので先にニッキと一緒に飛んできたのです」
私はなるほどと言って頷き、皆互いに近い場所で合流出来た事から、ランダムに転移されたのではないのだと断定した。




