第136話
その後およそ15分おきにリュウトに進行方向を修正してもらいながら私は砂漠中央部の遺跡へと向かったが、今のところ瞬間移動される事なく進んでいた。
途中水分を含んだ瓜を食べて休憩したが、それ以外はぶっ続けで夕方まで歩き続け、夕方にリュウトと干し肉をかじりながらさらに歩き続け、夜になっても月の明かりがかなり明るいので歩き続け、私もリュウトも何ら問題なく夜通し歩けられる程の肉体を持っているが、さすがにそこはしっかり睡眠を取って休息することにした。
本来ならば相当冷え込んでいて、常人ならばかなり寒く感じるだろうが私達はそれほど寒くはなく、一応持ってきた毛布を軽く体にかけて、そりの上でカタナとリュウトを抱いて横になって寝た。
こんな状況でも相変わらずグッスリと熟睡し、寝ている間には特に何も起こらず、一切日の光を遮るものがない砂漠の強烈な朝日の明るさで目が覚めた。
スヤスヤと腕の中で眠っているリュウトはかなり愛らしく、リュウトがいてくれるだけで自分ひとりだとかなり心細い思いになるのを防いでくれた。
私はビスケットに似たせんべいのような形の食べ物を取り出して食べていると、リュウトも起きて一緒に食べた。ほんのり甘くてバターの香りが口の中に広がるこの食べ物は思っていた以上に美味しかった。
「このクッキーみたいなの美味しいけど、口の中が乾くね」
「そうだね、瓜も食べよう、干し肉もいるかい?」
「うん!食べる!」
そうして軽い朝食をとってから、私とリュウトは移動を再開した。日の出の後は急激にぐんぐんと温度が上昇していった。慣れていない普通の人ならば確実に体調不良になる過酷な自然環境だった。
そんな急激な気温変化の影響で、あちこちで小規模の砂嵐が舞い上がり、所によっては小さな竜巻が出来ているのが見えた。
私達も体の方は大丈夫だが、視界不良で方角が分からなくなるのでいったん穴を掘って砂嵐が収まるのを待つ事にした。
砂まみれになるのを防ぐため簡易テント用の布を被ってそりの上で丸まった。先ほど起きたばかりで結構な轟音だというのにカタナとリュウトを抱いて横になっているとまたしても眠くなってリュウトと一緒に仮眠した。
眠りが浅かったせいか完全に熟睡とまではいかず、徐々に轟音が去っていき、やがて完全な静寂が訪れたところで私は目を覚ました。
しかしカタナとリュウトを抱いて仮眠していた時に私もリュウトもカタナを通してシャルが持っている剣からシャルが無事だという感覚が伝わった。
それは明瞭なメッセージとして伝わったのではなく肌感覚のようなもので、シャルが生きていてバイタルも正常だという事が感覚として伝わったのである。
私もリュウトも互いに見つめ合って力強く頷き、起き上がって移動を再開した。
炎天下の中私は黙々と休みなく歩き続けた。モルサール流歩方術は使えないが、それでも常人に比べれば相当に速い移動速度で、競歩大会に出たら間違いなく世界記録を大幅に更新するペースで休みなく進んだ。それも荷物満載の大きなそりを引っ張って。
時折歩きながら瓜を食べて水分補給して進んだが、シャル達には瓜も食べ物もない事を思うと、とても心配で心が落ち着かなくなり、平常心を保ちながら歩くペースを維持するのに苦労した。
「かなた兄ちゃん!大分近付いてきたよ!」
「あっちにあるのがそうかい!?」
「そう!その方向だよ!」
地球にいた頃の私の視力が果たしてどれくらいだったのかは全く覚えていないが、恐らく一般の視力検査では測れない程の優れた視力を持っているようで、それこそ砂粒程の大きさの遺跡を私の目は捉える事が出来た。
ここからはリュウトの上空支援がなくても目視で進む事が出来るので、リュウトは私の腕にしっかり抱き着いて、私は駆け足で遺跡に向かう事にした。
1時間程走り続けると遺跡はどんどん大きくなり、最初に訪れた南の遺跡とは比べ物にならない程に大きくて立派な神殿である事が分かった。
「「 ・・・ゴクリ 」」
私もリュウトもその建造物の凄さに圧倒されて言葉も出なかった。
「スゲェ・・・こんなのオイラ初めて見た」
「僕もだよ、こんな凄い建物、一体どうやって作ったんだろう・・・」
私は駆け足をやめてゆっくり歩きながらその神殿をしっかりと観察した。
最初に訪れた遺跡の柱の倍はありそうな高さの柱が並んでいて、その先の奥にはまだしっかり屋根が残っている神殿の本殿と思われる建物があった。
四方にも神殿があったようだが、それらは風化していて砂に埋もれた残骸と化していたが、本殿に続く柱と本殿そのものはしっかり形が残っていた。
私は大きなそりを万歳するようにして持ち上げ、神殿に続く階段を上っていった。
階段には無数の足跡がまだ残っていて、恐らく昔の観光客達の足跡だろうと思った。
さらに当時は観光地として栄えていたと思われる形跡があり、確実に後から設けられたと思われる木製の小屋が残っていた。
一番手前の木製の建物に近付いて窓が完全になくなっている窓枠から中を覗いてみると、机や椅子の他に何本かのほうきが倒れていて、木製のちりとりのような物もあったので恐らく清掃用具と清掃要員の待機所ではないかと想像した。
他にもかつては何かの観光客向けの建物だったらしい木の残骸が散らばった跡があり、大きな柱の傍にある建物は割と原型をとどめていた。
やがて本殿入り口にたどり着くと、当然後から追加されたと思われる木と鉄製のゲートのようなものが残っていて、係員の待機所と思われる小屋もあった。
ここまで来ると砂嵐などの影響は皆無のようで小屋はしっかりしており、中に入ってみてもこれまで見てきた小屋の中でも一番傷んでいなかった。
私はいったん小屋の前にそりを置き、食料袋をどうにかしてリュックに押し込んで巨大に膨れ上がったリュックを背負って本殿奥へと進むことにした。
本殿内部入り口の側面には大きな木製の案内図が残っており、絵具の色は経年劣化で大分なくなっているが内部構造図と当時の探検家などが研究したと思われる説明文はかろうじて見ることが出来た。
まずは広大な玄関ホールを進み、かすかに入り口と読める文字が書かれた立て看板の方へと進み、次の部屋へと入っていった。
一応明かり窓兼通気用の小さな穴が連続して開いているので真っ暗ではないが中は薄暗く、壁には燭台が点々と存在していた。残念ながら当然蝋燭は残っていなかった。
ただ、ちょうど木の棒が幾つか落ちていたのでリュウトに極小ブレスを吐いてもらって着火して松明代わりにした。木はカラカラに乾燥しきっていたので良く燃えてくれた。
すると明かり窓と反対側の壁には彫刻が掘られているのが分かり、太陽を崇める大勢の人々とその中心部で神殿を司る人が宝飾された杖を天に掲げている様子が描かれていた。
「太陽が神様だったの?」
「そうみたいだね、地球にも太陽信仰は世界中のあちこちにあった・・・ような気がする」
さらに進むと次は緑豊かな大地が描かれていて、鹿のような生き物達が沢山いて、果物が沢山なっている大きな木も描かれていて、さらに獲物を狩る人達や川で魚を獲っている人達や畑を耕している人達が描かれていた。
「これってまさか大昔はここは砂漠じゃなくて、緑がいっぱいあって動物も魚も果物も畑も沢山あったってコト?」
「うん、そうだね、きっとそうだと思う」
「それっていったいどれくらい大昔の事だったんだろう」
「多分数千年前とかじゃないかと思う・・・」
「ひゃあー!そんな大昔の事なんだ!凄い!」
さらに続けて次の部屋に入っていくと、壁画には驚くべきものが描かれていた。




