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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第13話

 クマを載せたそりは男達が数人がかりで裏手の方に引っ張っていくということで、私は村長のガリクソンに案内されて大きな建物の中へと入って行った。


 建物の広い玄関には大きな木彫りのクマとかなり大きな斧が飾られていた。


「わっ凄い!この木彫りのクマ、じゃない、グマンもこっちの大きな斧も凄いですね!」


「そうか!そのグマンはオレが彫ったんだ!」


「凄い!とても凄い出来です!今にも動き出しそうな程生き生きとしています!」


「そうかそうか!ありがとよ!」


「この斧も凄いですね!凄く大きい!」


「その斧は今でもオレにしか持てないんだ!それで大きな木を沢山切り倒してきたぞ!」


「こんな大きな斧をですか!凄いですね!」


「ハッハッハ!ありがとうよ!そうだ!タナカよ!その斧を持てるか試してみないか!?」


「こんな大きくて重そうな斧をですか?」


「ウム!一人でグマンの王を倒し、一人でグマンの王を載せた重たいそりをここまで引っ張ってきたんだ、そんな凄い探検家ならその斧も持てるかもしれんぞ!」


「分かりました、やってみます、それでは・・・失礼します」


 私は刀を壁に立てかけて、うやうやしく両手を差し出して丁寧に慎重に斧に手をかけて、絶対に落とさないように腰を落として身構えながらも、優しく横たえるように斧を持ち始めた。


「ホウ!そのまま落とさず10秒耐えられたら大したもんだ」


「・・・あれッ?」


 斧は私の想像以上に軽かった。まるで私が持っている刀の鞘ぐらいの重さに感じた。その大きさといい見た目といい明らかに脳がバグってるとしか思えない程の違和感があった。


「おっ!良く耐えてるな!」


 私は身構えて落とした腰を普通の位置に戻し、刀を持つ時のように両手の握る位置を変えて、軽く垂直に振ってみた。


 ヴオン!ヴオン!


 動きは遅いが何せ刃も巨大なので鈍い音がした。


「おっ!?おぉう!?」


 村長はなかなかのリアクションで驚いた表情と声を出した。


「こいつぁ驚いた!さすがグマンの王を倒した探検家だ!こりゃ本物だ!」


「失礼しました」


 これなら片手でもブンブン振り回せると思ったが、そこは空気を読んでやめておき、私は丁重に斧を元の位置に戻した。


「いやはやたまげた、大したもんだ、その小さな身体で信じられない程の怪力、やはり探検家というのはすげぇんだなぁ・・・」


 そんな一幕もありつつ、さらに建物の中へと案内されて入って行った。


 その後長いテーブルに多くのイスが並んだ広い応接間のような場所に案内され、正面奥に村長が座り、私は右側の村長に一番近い席を勧められたのでそこに座った。


 すぐにお茶が運ばれてきて、振り返ると私よりも高身長の180センチ超の大きな女性と、その女性の腰の高さにも届かない女の子が目に映った。


「まぁ!あなたがグマンの王を倒したという探検家なの!?とてもそんな風には見えないわ!」


「お兄ちゃんより小っちゃい!」


「こらこら、失礼だぞ、タナカは確かに身体は小さいがオレの斧を持ちあげて振って見せた、グマンの王を倒したというのは間違いなく本当の事だ」


「まぁ!あなたの斧を!?」


「お父ちゃんのオノをもったの!?すごい!」


「すまんなタナカ、これは妻のユーリヤと末娘のアーリヤだ」


「初めましてタナカさん、ガリクソンの妻のユーリヤです」


「わたしはアーリヤ!えっと・・・5歳!」


「あら、アーリヤはまだ4歳よ、5歳になるのは秋が来る頃よ」


「そうだった・・・でも秋に5歳!」


「あらまぁアハハ!」

「ワハハハハ!」


 この一幕のおかげで私の気分は大分和らいだ。なにせ村長のガリクソンの容姿といい太くて大きな声といい正直かなり怖かったからだ。


 お茶を配り終えたら退出するかと思ったがそのまま妻のユーリヤは私の横に座り、末娘のアーリヤは私の目を真っ直ぐじっと見てから、私の膝の上に座り始めた。ガリクソンもユーリヤも止めなかった。


「すまんな、アーリヤは気に入った客人の膝の上に座るんだ」


「ごめんなさいね」


「いえ、全然大丈夫です」


 それから私はこれまでの経緯を話し始めた。もちろん日本で生まれ育ち、どうやら死んでここに来たらしいという事は黙っていた。


「ウーム・・・やはりタナカは魔の森に挑んだ探検家の中の一人で間違いないな」


「そうね、私もそう思うわ」


「わたしもそうおもう!」


「こりゃ一度町に行った方がいいな、いや、グマンの王の件もあるからオレも行かなきゃならんか」


「・・・町ですか?」


「ああ、ここから馬車で3日はかかるが、丁度町からの商人も来ているから一緒に出よう、そうすれば護衛もいるから安全だ」


「護衛がいるんですか?」


「そりゃそうだ、盗賊が出るからな」


「とっ盗賊が出るんですか!?」


「そりゃ出るさ、おっと、そこら辺も思い出せないのか」


「すいません、色々忘れてしまっています」


「まぁ・・・それだけ恐ろしい目に遭ったのね」


「こわいのとんでけ、こわいのとんでけ」


「ありがとう」


 末娘のアーリヤが手を伸ばして私の頭をなでてなぐさめてくれた。でも確か「痛いの痛いの飛んでけ」じゃなかったっけ。


 その後村長ガリクソンの指示で町から来ているという商人が呼ばれ、事情を説明した上で倒したクマの鑑定をしてもらった。


「こりゃ相当なお宝だ!ひと家族が数年は食える程だ!」


「ホウ!それ程か!」


 商人によるとほとんどの部位に価値があるようで、とりわけ頭、掌、爪、毛皮、内臓の肝は相当高額になり、肉も大変美味だがさすがに3日かけて馬車で運ぶには塩漬けしてさらに凍り石と呼ばれる(天然のドライアイスみたいなものかと想像した)ものを入れた箱に入れて運ぶ必要があり、それには経費がかさむのと鮮度が落ちるので少し値は下がるようだが、それでも美食家が喜ぶ食材なので高額で取引されるそうだ。


 骨すらも価値があるようで骨髄は何かの薬になり、骨もスープのダシに使うと格別らしい。ちなみに頭は剥製にして富裕層に高く売れるし、脳みそは高級珍味らしい・・・


「それは良かったですね」


「何を他人事のように言っているのだ?全部タナカの物の事だぞ」


「えっ!?」


「そりゃ当然だろう、タナカが一人で倒した上に、一人で運んできたんだ、それどころかウチらの大事な男達を救ってくれただけじゃなく、周辺の安全まで確保してくれたんだ、もちろんウチからも謝礼金を出すぞ」


「いやいやいや、私はたまたま偶然意味も分からずやっつけただけですから!」


「偶然だろうが何だろうが事実は事実、結果は結果だ、お前さんはそれだけの仕事をしたんだ、当然受け取るべき報酬だ」


「・・・」


「ところでその・・・タナカよ、一つ頼みがあるんだが、グマンの肉を少し分けてくれないだろうか、もちろんその分の金は払う」


「私も払います!」商人も目を輝かせてすぐに言った。


「えっ、いやっ、タダでいいです!幾らでも好きなだけタダで差し上げます!皆さんには美味しいおにぎり、じゃない、にぎりっこに美味しいスープをいただきました、とても親切にしてもらって凄く嬉しかったお礼です!」


「いやいやいや!それこそいやいやだぜタナカよ!こっちは男達の命を救ってもらったんだぞ!そんな握りっこぐらいのお礼なんかじゃ到底釣り合うわけないだろう!」


 理屈の上でも客観的にも反論の余地がなく、おまけにガリクソンの勢いにも抗えず、私は肉の代金と報酬を受け入れることにした。

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