第126話
中央都市を出発してから10日程経過し、遠くの山々の山頂付近が冠雪している辺りまでやってきた。
道行く人々は厚手のジャケットを着ているのだが、私達はモルサール流歩方術で絶えず移動し続けているので全く寒くなかった。
「リュウトは寒くないかい?確かトカゲとか爬虫類って寒さに弱いんじゃなかったっけ?」
「うん平気だよ!オイラトカゲじゃなくてドラゴンだから大丈夫だ!」
爬虫類は変温動物なので外の気温に応じて体温も変化し自分で体温を一定に調節する事が出来ないので心配したのだが、どうやらリュウトの言う通りリュウトはただのトカゲではないので大丈夫なようだった。
タイミング良くお昼休みの時間帯に町程の規模ではないがそこそこ大きな村に到着したのでお昼ご飯を食べようと店内に入ると、愛嬌のある人の好さそうなお店のおばさんが私達に話しかけてきた。
「あんれま!そんな恰好じゃ風邪引いちまうべ!」
近くのテーブルに座るこれまた人の好さそうなおっちゃんも話しかけてきた。
「そんだぞ!この先はぐっと寒くなっからそったら恰好じゃだめだべ!」
私達は全く寒くないのだが確かにこの先の事を考えてコートぐらいは買っておいた方が良いかと思い、食後に衣料品店を見つけて一番良いのを購入した。
その際私達がいかにも十代の少年少女のような見た目なので、店員は高額商品を買えるだけのお金を持っているのか少し疑わしい目をしてきたが、リュウトがリュックから出てきた途端「世直し仮面様!?」と言って態度が豹変し手袋と帽子をおまけしてくれた。帽子については私の黒髪が隠れるので丁度良かった。
会計を済ませて早速着用して外に出てみると、ホカホカで少し暑いくらいで、かなりの防寒性能を持っていることが分かり、良い買い物に満足した。
「これを着たままなら雪の中でも眠れそうだ」
「確かにそれくらい温かいね、でもこれを着たまま歩くと暑いね」
「うむ、まだここいらはそんなに寒くない、もっと寒くなってから着よう」
そう言って村を出てからは2人ともコートを脱いで軽装で歩き続けた。
しかし夕方になってまた大きな村に到着すると、今度は門番からそんな恰好じゃダメだと言われ、慌ててその場でコートを着込むことになった。こうした様子もまた別の鳥に見られていた。
いつものように一番大きくて高そうな宿に入ってライセンス証を見せて受け付けの人に驚かれながら、一番良い部屋を高ランクライセンス保持者限定特別価格でチェックインして、宿の人に評判の食事処を教えてもらってその店に行き、そこでも店の人が驚くほどの食べっぷりでごちそうをたらふく食べた。
またなんとも嬉しい事に温泉銭湯があったので、久しぶりに足を延ばして湯に浸かって疲れを癒した。
そうしてシャルも私も盛大に身体から湯気を出しながら宿に戻っていったが、高級宿にチェックインした後からずっと鳥とは別の実に分かりやすい監視の目が注がれている事に私達は気付ていた。
「実に分かりやすい連中だ」
「ホントだね」
「この村を出たら襲おうって言ってたよ、凄く分かりやすい人達だった。あと凄く弱そうだった、一応身体は大きくて顔は怖かったけど」
リュウトは人の多いところでは目立たないように透明になっていて、監視者の様子を軽く見てきた。私達程ではないが身体から湯気が出ているのが少し愉快だったが、監視者達は気付いていないようだった。
翌朝、お高い店で美味しいモーニングをタップリ食べてご機嫌な状態で村を後にし、コートを脱いで軽装になってから荷車を引いて飛ばした。
私もシャルもこれまで通りモルサール流歩方術で一応歩いているのだが、今や相当な速度になっており、早馬にも負けない程の速さだった。
やがて村の大きな門が見えなくなる程の距離に達した辺りで街道の左右から飛び出してくる複数の影が見えたが、私達は無視して飛ばし続けた。
「うわっ!速ェぞ!」
「なんじゃありゃ!?」
「一体どうなってんだ!?」
後ろの方で大きな声が聞こえたが無視して飛ばし続けると、今度は馬の蹄が地面を蹴る音がしてきた。
「ダメだ!距離が縮まらねぇ!」
「ウソだろ!こっちは馬だぞ!」
「慌てるな!すぐにバテるはずだ!」
「そうだな!慌てるこたぁねぇ!追い続けりゃ絶対疲れて休むはずだ!」
私達は全く休むことなく飛ばし続け、2時間程経過した辺りで馬で追いかけていた連中は馬の方がバテたようでどんどん小さくなっていき、やがて見えなくなった。
その後さらに追加で2時間程休みなく飛ばし続け、私達はバテてはいないがガス欠になり、丁度良いところで小さな村に到着したので食事処を見つけてお昼ごはんを食べる事にした。
薄着のままだと注意されるので門の前でコートを羽織ろうとしたが、小さな門の前には誰も立っていないのでそのまま通過して村の中に入った。
小さな村という事もあり、通りにはあまり人の姿を見かけなかったが、ちょうどお昼の時間帯なので皆家で煮炊きをしているらしく、煙や湯気が出ている建物を見かけた。
小さな集落と違ってこの村には雑貨屋や食事処や茶屋や宿屋もあり、ちゃんと営業しているようで、早速良い匂いのする食事処の中に入った。
「いらっ・・・しゃい」
店のおばさんは最初は愛想良く元気で大きな声だったが、私達の姿を見た途端一瞬驚いた表情をして声量も若干トーンダウンした。
「そ、そこの席にど、どうぞ」
ますますぎこちない様子で4人掛けテーブルを勧めてくれたのでそこに腰かけ、とりあえず日替わり定食を3人分注文した。
「さ、3人分、ですか?」
「うん!オイラの分だよ!」
リュックの中からリュウトが出てきてそう言うと、店のおばさんは今度はしっかり驚いた。
周りにいた客もこちらを見て驚いた表情をしたが、すぐにまた目をそらして急いでかきこむようにしてご飯を食べて会計を済ませていった。中には釣りは要らないと言ってそそくさと店を出ていった。
ゴトリ
「お、お待ちどうさま、ご、ごゆっくり」
緊張した面持ちと手つきで皿と器をテーブルの上に置く様子が目に見えて分かった。リュウトが神の使いで私達が世直し仮面だと分かったからという理由にしてはこれまでと全然違う雰囲気だった。そして私達は目の前の料理を見た。
「・・・」
「・・・」
「かなた兄ちゃん、コレ・・・」
「ウム、毒・・・という程の物ではないが、何かが入れられておるな」
「多分・・・眠り薬じゃないかな・・・」
「凄いな兄ちゃん、良く分かるね」
「どれどれ・・・パクッ、モグモグ・・・ゴクン、うん味は悪くない、普通に美味しいぞ」
「わっ、シャル、大丈夫!?」
「平気だ、多分これぐらい今のアタイ達には効かないと思うぞ、それよりも面白い事を思いついた、ヒソヒソヒソ・・・」
私は少し怪訝な顔をしたが、リュウトはすこぶる気に入ったみたいで同意したので、私もお腹が空いていたことだしシャルの提案に乗ることにして、目の前の美味しそうな日替わり定食を食べ始めた。
「おばちゃんおかわり!」
「アタイも!」
「・・・自分もお願いします」
店のおばさんはギョッとした顔をして、何か言おうとしたが手を口に当てて後ろの厨房を気にしたそぶりを見せてから分かったと言った。
結局各自3人前を平らげて大いに満足し、おばさんが心配そうに机の上を片づけたところで、私達は机の上に突っ伏して寝たふりをした。
「グウグウ・・・」
「スヤスヤ・・・」
「スピースピー」
おばさんはしばらく私達の様子を見た後で、肩をゆすったり声をかけて起こそうとしたが、私達はそのまま寝たふりを続けた。
「グウグウ・・・」
「スヤスヤ・・・」
「ムニャムニャ・・・もう食べられないよう」
すると、厨房の方から別の人間が近付いてくる足音がしてきた。




