第124話
鍋をつついていると、一番大きなテントの中にいた女性3人がこちらにやってきて話しかけてきた。
「あの、世直し仮面様・・・」
「うむ?どうした?」
「私達はこの後どうなるのでしょうか?」
「うん?どうなるのかは自分達で決めるといいんじゃないか?これまでの不幸を取り返すために前向きに面白おかしく生きていくのが良いと思うぞ!」
こういうセリフをズバッと躊躇なく言えるシャルは個人的に実に好ましく思える。
「アタイ達が手助け出来るのはここまでで、その先のそれぞれの人生までは手助け出来ない、だからそれぞれで明日を生きていくしかない、そしてどうせ生きるんだったらアタイは楽しい方が良い!」
シャルの力強いセリフは心強い物があるが、それでも今すぐに前向きに切り替えられる程強い人はそうそういないので、私は少しでも彼女達を安心させられる事を話そうとした。
「えぇと、多分もう少しすれば町の自警団の人達がやってきます、皆さんまとまって集まってくれれば私の方から説明します」
「えっ!?あ、あなたは・・・まさかその、男性の方なんですか?」
「はい、実は私は男です、盗賊達を油断させるために化粧をしました」
「まぁなんと!凄く美しいです!とても男性の方とは思えません!さすが世直し仮面様です!」
「本当!凄く美しいです!」
「とりわけその黒い髪と黒い瞳!女の私でも惚れ惚れ致します!」
「えっ、いやぁ~そのぉ~・・・ハハハ・・・」
そうして話していたことで、他の女性達もこちらにどんどん集まって来て、ふと冷静に考えてみれば周りは全員女性という中に、男は女装した私一人という極めて特異な状況である事に戦慄を覚えた。
いつの間にか酒を持ってきて、私にお酌してくれたのだがかなり距離が近く、しかもなんともきわどい姿なものだから私は先ほどの戦闘などよりもはるかに緊張してしまった。
「ハァ~・・・本当にステキなお方、とても美しくて見惚れてしまいます」
「ええ本当ですわ、ずっと見続けていたいです」
「い、いや~ちょっと、その~・・・」
「イヒヒヒヒヒ!困ってる困ってる!」
「アハハハハハ!かなた兄ちゃん顔真っ赤だ!」
「酔っぱらってるんだよ!」
「キシシ!いつもはいくら飲んでも酔わないくせに!かなたはこう見えてめっぽう酒が強いんだ」
私はいざという時のためにポケットに入れていたマスクを被って照れ隠しをした。
「世直し仮面参上!」
「アハハハハハ!アタイもやる!・・・ガバッ!世直し仮面参上!この世の悪を成敗する!」
「オイラもせいばいする!」
「「「 アハハハハハハ! 」」」
女性達もようやく笑顔を取り戻し、皆思い思いに和んでいると、沢山の松明の明かりと馬が駆けてくる音が聞こえてきた。
ところが私達がやってきた方角以外に、別の3方向からもやってきたので私は立ち上がって刀を構え、女性達はまたすぐに怖がって私達の後ろに隠れるように集まった。
シャルが偵察に行こうとしたところで、私達が来た方角から早馬が駆けつけてきて、宙に浮かぶリュウトを見るとすぐに馬から降りてこちらにやってきた。
「町の自警団の者です!状況をお教え願います!」
「盗賊達は一人残らず気絶させたぞ!」
「なっ!なんですって!?」
「それより3方向から近づいてくる集団がいるが、何者達か分かるか?」
「あっ、それは近隣周辺の町や村の自警団です!一応各地に伝書鳥を飛ばして知らせておりました!彼らがこちらの話しを信じてくれるかどうか疑わしかったのですがそれでも送るだけ送っておりました、そして先ほど神の使い様の炎の矢を見てやって来たのだと思います!」
「ふむ、では敵ではないのだな?」
「はい!敵ではありません!」
「よし!皆安心しろ!今こちらに向かっているのは、近くの町や村の自警団だ!盗賊などではない!」
シャルの良く通るはきはきとした力強い声で女性達は安堵し落ち着きを取り戻した。
やがて本隊がやってきて、さらに近隣の町や村の自警団達も続々と到着し、相当な数の人間達でこの場所はごった返した状態になった。
しかしその分多くの人手が確保されたので、数百人もいる盗賊達の捕縛作業や周辺整理作業が大いにはかどった。
また盗賊達のテントも大いに役立ち、そのまま盗賊達の収容施設になったのだが、結構荒々しく運ばれているにもかかわらず誰一人として目を覚ます者がいないので死んでいるのではないかと思われたが、しっかり呼吸していて脈もあるので自警団達は驚きながらも大いに感心した。
それにしても全員生け捕りにしたのは良いが、これ程の数の盗賊達について、この後の処遇をどうするつもりなのか私は少し気になり、隊長らしき人物に聞いてみると、隊長は酒を飲んでもいないのに私を見るなり顔を赤らめながら、それぞれのグループに分けて開墾作業や鉱山作業などをさせるとの事で、首領や幹部クラスについては公開処刑されるとの事だった。
その後保護した女性達は元いた町や村の自警団に送り届けられる事になり、各々荷車に乗って帰っていったが、身寄りのない者達はいったん最初の町にて今後の方針を考えるという事になった。
そんな身寄りのない人の中で、どうにも既視感を覚える人物が一人いた。
「どうしたかなた?その娘が気になるのか?」
「気になるというか、どこかで見たような気が・・・あっ!もしかして、あなたはグルカンという人をご存じですか?」
「・・・ッ!グルカンは私のお兄ちゃんです!」
「やっぱり!」
「お兄ちゃんを知っているんですか!?」
「はい知っています!グルカンさんにはとてもお世話になりました、凄く良い人です!」
「良かった!お兄ちゃんは生きているんですね!」
「はい!元気にしています!」
「ああ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!会いたい!」
「分かりました、会いに行きましょう、知り合いの商人の護衛をしているので連絡がつくはずです」
「ありがとうございます!でも・・・私一人だけ、良くしてもらうわけにはいきません・・・」
ああ、グルカンに似て優しい人なんだなぁ・・・
「えーと・・・そしたら・・・あっ、そうだ!そしたら組合に連絡します!戦士組合か商工組合に連絡すればいずれグルカンさんにも伝わると思います」
「ありがとうございます!そしたら私は町で仕事を見つけて兄が来るのを待つことにします!」
「あなたのお名前を聞いても良いですか?」
「はい!私はグルミンと申します!」
なんとも分かりやすいというか覚えやすい名前だと声には出さずに感心した。
そうしてグルミン以外の身寄りのない女性達と元々町の出身だった女性達と数人の自警団と共に私達は元来た町に戻ることにした。大多数の自警団は盗賊達の監視のため残り続けた。
大分夜も更けて少しずつ遠くの空が白んできた頃に町に到着すると、門の前まで町長達が出迎えて来てくれて、この町出身の女性達は親族や身内の人達と抱き合って喜び合った。
その後町の公民館のような場所に案内されて、温かい飲み物が配られひとまず休むことにした。
私とシャルもその場で横になって仮眠をとろうとしたところ、神の使いのために別途貴賓室を用意していると言われたが、シャルもリュウトもこの場所で皆と一緒に休むので良いと言うと、一緒にいた女性達は安心し、役人の人もそうした私達の配慮に感心した。
安全な町の公民館とはいえ、これまで盗賊達の元で嫌々ながらも仕えさせれていた身寄りのない女性達にとってはまだまだ安らいだ心地になる事は出来ず、そんな中驚異的な力を持つ私達と神の使いという存在が一緒にいてくれるという事は大いなる安心感を持つことが出来たのであった。




