第121話
なるべく目立たぬよう台車の後をつけて北側の門にたどり着くと、さすがにこちら側は強固な守りが敷かれていて、町の自警団の武装も結構本格的な装備になっていた。
「オイラ、空から様子を見てくる!シャル姉ちゃん靴下ちょうだい!」
「分かった、ちょっと待ってくれ」
シャルはいつの間に持っていたのか、可愛らしい赤い靴下を取り出して、新しく手に入れた剣で器用に目と口の部分の穴を開けてリュウトに渡した。
「ありがと!それじゃちょっと見てくる!」
私とシャルはさらに目立たぬように建物の影に隠れながら出来るだけ近づこうとしたところ、高い防壁が続く一部の箇所にちょうど建物があって死角になっている場所があり、そこから超人並みの跳躍力を使って防壁にぶら下がれば外の様子が見えるかも知れないと思いシャルと一緒にその建物へと向かって、誰からも見られていないことを確認して少しだけ助走して防壁を垂直に駆け上がって最後にジャンプして防壁のへりを掴んで懸垂のように身体を持ち上げて外の様子を眺め見た。およそ常人のなせる業ではなかった。
高さおよそ7メートル程はある防壁に指の力だけでぶら下がっている私とシャルは頭を少しだけ出して外の様子を見てみた。
「なんだ、思ったより大軍じゃないぞ」
「えっ、それでも4~50人はいるように見えるよ」
「本当に町を襲撃するつもりならもっと必要だし、裏口にも別動隊を派兵するはずだ、何よりあの連中からはやる気を感じられん、不真面目だ!」
真面目にやられちゃ困るんだけどと思いつつも、確かにシャルのいう通りの印象を受けて、どうにもやはり予定調和というか、戦闘回避のために無抵抗で互いに妥協できる範囲での物資提供で事を終わらせるような感じだった。
すると互いに代表者と思われる人物が双方から一人ずつ歩み寄って何かを話し始めた。
ここからだと100メートルはありそうで、確実に話しの内容を聞き取る事は不可能なのだが、それでも私とシャルは静かにしてかなり集中して聞き耳をたてた。
「・・・、・・・だ、・・・をよこせ」
「・・・?・・・!話しが違う!」
「・・・、・・・、それでもいいのか?」
「待て!・・・、・・・!」
「・・・、・・・」
「どうも話しがこじれているようだぞ」
「そうみたいだね」
普通なら間違いなくこの距離から聞こえるはずのない二人の会話であったが、私とシャルの超人的な五感能力によってごく断片的に少し語気が強い箇所のみ聞き取ることができた。どうやら取り引きに齟齬があって少し揉めているようだった。
「やっ、かなた!あれを見ろ!あの二人の近くにある小さな岩のあたり!微妙に変だ!」
「うん?・・・あっ!ホントだ!光の屈折が少しだけ変だ!あれはきっとリュウトだ!」
これまた常人には決して気付くことは出来ないであろう微妙な違いに私とシャルは気付き、そこには光学迷彩で隠れていたリュウトがいた。
いつもなら私達でもそうそう気付くことは出来ないし、ましてや100メートル程も離れているにも関わらず私たちが微妙な光の屈折の違和感に気付く事が出来たのは、リュウトが頭に靴下の仮面を付けているからで、その部分だけ僅かに光学迷彩が上手に働いていないからだった。とはいえ普通の人には見分けられない程ではあった。
するとリュウトはゆっくりと後ずさりして、十分距離をとってからパタパタと飛び始めてこちらに向かってきた。
リュウトが戻ってきたので私たちはほぼ無音で地面に着地し、光学迷彩を解いたリュウトから話しを聞いた。
「えっとね、悪い奴が食べ物以外に若い娘を寄こせって言ったら、町の人がそんな話しは聞いていないって言って怒ったんだ、そしたら悪い奴が力で奪い取ってもいいんだぞって脅したんだ、で、町の人は戻って相談するから待ってくれって言って、悪い奴は返事がなければ日暮れ前には突入するって言って脅していたんだよ」
「そうか!そうか!悪い奴だなぁ!イヒヒヒ!」
シャルは嬉しそうだった。
「どうするシャル姉ちゃん!今なら悪い奴達は油断しているぞ!ヤるか!?」
「えっ!いやいやいや!待って待って!」
「そうだ待てリュウト、アタイに凄く良い考えがある、我ながら素晴らしい考えだ、キシシシシ」
どうにも良くない考えのような気がする。
シャルは突然私の顔をまじまじと見て、身体付きも上から下まで舐め回すように見た。
「えっ?なになに?何見てるの?」
「うむ、結構イケると見た!よしやるぞ!」
シャルは私が止める間もなく門の方へとダッシュし、先ほど憤慨して戻ってきた町の交渉人へと近付いて行った。
「うん?君は誰だね?」
「アタイは・・・通りすがりの若い娘だ!もう一人美しい黒髪の若い娘と旅をしている!外にいる連中が若い娘を寄こせと言っているようだが、アタイ達がアイツらの所に行ってやろう!」
「ハッ?何ッ!?何を言ってるんだね君は?」
「ウーム・・・ダメか、ならば言い直そう、アタイ達は世直し仮面だ、悪党どもを成敗するのが使命であちこちを旅している、つい最近では西の極悪な貴族を成敗したり南にいる悪党をやっつけたのだ」
「あっ、それは新聞で読んだ・・・って、君がそれをやったって言うのか?とても信じられん」
「こう見えてアタイ達は剣の達人だし魔の森から生きて帰ってこれる程の超人だぞ」
「いや、突然そう言われてもはいそうですかって信じられないよ」
「やはり口だけでは無理か・・・仕方がない、これを見ろ」
「・・・えっ!?1級探検家?君が?」
「さらにこれを見ろ、エイッ!」
シャルはその場で反動もつけず垂直飛びで5メートル以上ジャンプした。そして着地後には剣を深々と地面に突き刺しこれを抜いてみろと言い、結構体つきが良い町の人が渾身の力を込めて引き抜こうとしてもビクともしなかったのをシャルは片手でラクラクと引き抜いて目にもとまらぬ速さで剣の舞を披露して見せた。
「なんと!なんとも驚いた!こりゃ本物だ!」
「うむ、この姿だから信じられないのも無理はなかろう、だが我らは人知れず世の悪を打ち倒す世直し仮面なのだ」
「そうでしたか!」
なんとも生き生きとした表情で饒舌に作り話しがポンポンと飛び出るシャルであったが、聞いてる方も大分信じ切っている様子だった。
その後町長を交えて作戦会議を行い、私は町の女性達の元に送られ化粧を施される羽目になった。
「ンマァーーーッ!可愛い!」
「綺麗!」
「素敵ね!」
若干気持ち悪い発言になるが、確かに鏡の前にいる自分は我ながら大分イケてると思った。
この世界に来て半年以上も経過しており、髪の毛が大分伸びていたのでカツラを被る必要もなく、歳もまだ若い状態なのでヒゲも濃くなく、もともと男らしい顔付きというよりは中性的な顔付きだったので薄く化粧しただけでもしっかり女性に見えた。
さらに超人的な肉体の割には肩幅も狭く、この世界の平均的な男性と比較して線が細い体形なので、少し胸に詰め物をしてワンピースを着たらどこから見ても女性という具合に仕上がった。
そうしてシャル達の前に戻ると、シャルを含めて全員私を見て絶句した。
「あれ?・・・やっぱり変?」
「こりゃ驚いた!母ちゃん以上の別嬪だ!」
「まさに!生まれてこのかた見た事がない絶世の美女!いや美少女だ!」
「かなた兄ちゃん凄く可愛いよ!」
「あっ、そう?エヘヘ・・・なんだか照れるなぁ」
我ながら結構危険な趣味に目覚めなければ良いがと思いながらも、周りからもてはやされるとまんざら悪い気分ではなかった。
この後たった3人で数百人規模の武装集団の本拠地に行って、彼らを壊滅させるというほぼ絵空事の事はこの時だけは頭から離れていた。




