第115話
それは何もかもが異質だった。
まず地面には大きな穴が開いており、その中央には二等辺三角形の八面体が宙に浮いていて、地面を境に上半分が出ていて下半分は地面から下にあり、上半分の高さは10メートル程もあった。
そして極僅かに何か甲高い硬質な金属音のような音色がリズミカルに鳴っていて、ゆっくりと水平方向に右回りに回転していた。
八面体は銀色の金属色だったが、ピカピカの光沢ではなくつや消しの地肌になっていて、鏡のように私達を映し出すこともなければ、光を反射してギラギラして眩しいという事もなかった。
「何だ・・・コレ・・・」
「宇宙人が作ったモノだったりして!」
「確かにリュウトが言った通り神様が作った物というよりは宇宙人が作ったものみたいですね」
「うちゅうじんって何だ?」
「えっ?あれっ?シャル達、この世界の人達は宇宙を知らないのかい?」
「知らない、初めて聞いた」
「うん、アタシも知らない」
「えっと、お空の上のもっともっと上のお星さまが沢山ある場所の事を宇宙って言うんですよ」
「空の上は天空じゃないのか?」
「そうだよ、アタシ達は天空って言うよ」
「そうなの!?でもお星さまは知ってるんだよね?太陽も知ってるよね」
「もちろん星は知ってる、たいようは知らないが、もしかしてお日様の事か?」
「なるほど・・・この世界はまだ天文学についてそれほど認知されていないのか・・・いや、それよりも今はこの目の前のモノに集中だ、ニッキとシルビアはどう思う?」
「・・・全く分かりません、ステータス画面も出て来ません」
「私も同じです、何も表示されません」
「オイラこういうの映画か何かで見た気がする、触ると宇宙人と話せるんだ」
パタパタパタ・・・ペタッ
「あっリュウト!」
「・・・あれっ?何にも起こらないや」
不用心に8面体に触れたリュウトに心配したが、特に何の変化も現れなかったので安心した。私達も触れてみたいが8面体までは2メートル程あるので手を伸ばしても届かないし、地面に掘られた穴もちょっと下を覗いただけでは分からない程深かったのでどうにもならなかった。
「木を切って橋にしたらいいんじゃないか?」
「なるほどそうだね」
私は近くの結構大きな木を刀で一刀両断して邪魔な枝を切り取って丸太を作ると、すぐにシルビアが運んでくれて、早速私が最初に8面体に触れてみる事にした。その際丸太の後端に皆またがってくれて、丸太が動かないようにしてくれた。なんというかこういう以心伝心の配慮が実に有難かった。
ゆっくりと回転する8面体の金属表面にそっと手を触れるとヒンヤリと冷たい金属の感触があり、そのまま手を触れ続けてみても特に何か宇宙人からのメッセージが頭の中に流れてくる事もなければ、8面体が発光して宙からUFOが降りてくる事もなかった。
10秒ほど触りながらあちこち見回しても何も起こらなかったので戻ろうと思って後ろを振り向きかけたその時変化が現れた。8面体にではなく私の刀に変化が現われたのだった。
カタカタカタカタカタ・・・
「う・・・うん?あれっ?僕じゃなくて刀が震えてるのか?」
カタカタカタカタカタ・・・シュランッ!
「えっ!?ええっ?何?何だ?」
「やっ!カタナが勝手に鞘から抜けたぞ!」
「かなた兄ちゃんのカタナが空を飛んでる!」
「あっ!あの時みたいです!前にかなたさんの所に連れて行ってと心に訴えてきた時と一緒です!」
キィィン、キィィン、キィィン・・・
「あっ音が大きくなったよ!」
「やっ!両方とも光り始めたぞ!」
「もしかしたらコミュニケーションを取り合ってるのかもしれません!」
「こ、こみゅ、こみゅにけーしょん?何だか言いにくい言葉だけどどういう意味?」
「えっと、会話や手紙とかで互いの事を分かり合うみたいな意味です、かなたさんのカタナとあの大きな物体は会話しているかも知れません」
「なるほど、確かにそう言われてみればかなたのカタナとあの不思議な物はおしゃべりしているようにも見えるね」
まさに皆が想像していた通り、私にも刀と大きな物体がまるで何かの情報をやりとりしているように見えた。
やがて大きな物体は回転を止めて静止し、なんと正面上部の二等辺三角形一枚が扉のようにゆっくり開き始めた。
「やっ!扉が開いたぞ!」
私達は丸太から降りて扉が開くのに邪魔になるので丸太を後ろにどけると、二等辺三角形の扉は完全に開いて丁度良い具合の橋になった。
私達は互いに見つめ合って頷くと、ゆっくり橋を渡って大きな物体の中に向かって進んだ。
「やっ!あれは剣だ!片手剣がある!」
シャルの言う通り大きな物体の中央部には一本の剣が透明なクリスタル製のラックに縦置きで陳列されていた。柄と鞘は純白で金色の紋様が縁どられていて実に美しい剣だった。
そして私には分かった、いや、私の刀が教えてくれた。この剣はシャルのための剣である事を。
「シャル分かるかい?この剣はシャルのための剣だって僕の刀が言っているよ」
「ウム・・・分かる、分かるぞ、あの剣がアタイの心に訴えかけている気がする、我が身を手にせよってアタイに言っているような気がする」
「スゲェ!シャル姉ちゃん剣を取ってみてよ!」
「うん、剣を取ってみるんだシャル」
「分かった!」
シャルはクリスタル製のラックに近づいて鞘ごと剣を掴んでスラリと剣を抜いた。
シャリーン
それは見事な諸刃の剣で中央部に何かの刻印が彫られてあった。光が当たる角度によってはほのかにエメラルドグリーンのような色合いにも見えた。
シャリーン!シャリーン!シャリィーーーン!
「凄く綺麗な音色がします!とてもその剣に合ってる澄んだ美しい音色です!」
「スゲェーーーッ!」
「こんな音のする剣なんて初めて見た!それにしてもさすが天才剣士、実にサマになってるねぇ!」
「格好良いですシャルさん!」
「とても素敵です!」
皆の言う通りシャルもその剣も実に美しかった。もっと髪が伸びていればまさに戦の女神のようだったことだろう。
「この剣があればかなたがやったように、人を斬っても殺さずに気絶させることが出来るだろうか?だとしたらアタイは凄く嬉しい」
「出来るよきっと、その剣は僕の刀の兄妹みたいなものだと思う」
その後大きな物体から少し大きめの音がして、小刻みな振動もしたので、これは恐らく退出を促しているのだと思い、全員外に出て元の地面の位置まで後退した。
すると開いていた扉が閉じていき、完全に閉じたところで大きな物体はゆっくり空に浮かんでいき、ある程度の高さに達したところで一気に加速してあっという間に見えなくなった。
「オイラやっぱりあれは宇宙人の何かだったんだと思う!」
「私もそう思います!」
「この異世界はファンタジーものじゃなくてサイエンスフィクションものだったんですね!」
「わっ、またシルビアから難しい言葉が出てきた」
「アハハハハハ!ごめんなさい、つい地球にいた時の言葉が出てしまうんです」
確かにリュウトやシルビアの言う通り、これは宇宙人からの贈り物か何かのような気がする、いや、まさかとは思うが私の刀もシャルの剣も宇宙の知的金属生命体だったりして・・・
相変らず何故か妙な事は記憶に残っている事に我ながら内心で苦笑したが、それよりも何故この場所にあのような物体が存在し、しかもその中には剣があったのだろうか。
シャルの剣は元々あの物体の中に存在していたのか、それとも私達に合わせて生成された物なのか、全く分からないことだらけだった。
シャルが以前言った言葉じゃないが、この世界の神様は一体私達に何をさせたいのだろうか・・・




