第110話
白いキノコを手にして完全にハイになっているシャルとムルギンを見て、私は飛び起きると同時に二人の身にこれから恐ろしい事が起きるのではないかと想像してとても不安になった。
「シャル!ムルギン!ダメだ!そのキノコは危険なんだ!食べないで!ってうわぁー!ダメェーッ!」
「オイチイキノコ!食べたいのォー!」
「ウンマイキノコ!食べるゥー!」
モグモグモグ・・・ゴクン!
「うわっ!うわぁーーーッ!!ダメダメダメェーーーッ!!」
「う~ん・・・ムニャムニャ・・・どうしたんですか、タナカさん・・・」
「ムニャムニャ・・・どうしましたか?何だか騒がしいですね・・・」
「大変だ!シャルとムルギンがとても危険なキノコを食べてしまった!どうしよう!二人ともショック死するかも知れない!助けて!!」
「「ええっ!?」」
バダン!!
「うわぁーっ!シャル!ムルギン!目を開けて!」
「わっ!わっ!えと!えと!どうしたら!」
「わぁー!ムルギン!目を開けて!って目は開いてるけど白目です!二人とも白目をむいてます!」
「ス!ステータス画面!ステータス画面はどうなってる!?」
「わっ!えっと!えっ・・・と・・・きゃあーーーっ!心臓が停止しています!呼吸も!」
「わぁーーー!ムルギン!ムルギンーーー!」
「しっ!心臓マッサージ!あと人工呼吸!・・・うわっと!ニ!ニッキ!お願い出来る!?」
私はシャルの胸を押してマウスツーマウスをしようとしたところでシャルのふくよかな胸と口を見て思い留まってしまった。こんな時に自分は何を逡巡しているんだ!
「わぁっ!シャルさんとムルギンさんの魂がこっちを見て笑っています!」
「ホントだ!ダメ!ムルギン!戻って!身体に戻って!」
「えっ!?どこ?どこにいるの?えっ?そこ?そこにいるの?僕には見えないけど、シャル戻って!お願い身体に戻って!行かないで!」
『アハハハハ!』
『イヒヒヒヒ!』
私には姿は見えなかったが、声が聞こえてきた。
「わぁー!ダメダメ!行かないで!早く戻って!空に行かないで!」
「あぁーーー!二人ともどんどんお空に行っちゃいますゥー!」
「わぁーーー!二人の姿が消えていきます!ダメェー!消えちゃダメェー!」
「シャル!シャル!シャルゥーーー!」
私は居ても立っても居られずシャルに覆いかぶさるようにして、心臓マッサージとマウスツーマウスを決行するべく覚悟を決めた。と、その時・・・
パチッ!
シャルは突然目を大きく見開いた。
「うわわっ!!」
私はシャルに叩かれるんじゃないかと思ってすぐに身を引いた。
ドクンッ!・・・ビクン!ビクン!ビクン!
「わっ!僕の時と同じだ!痙攣してる!」
「どうすればいいですか!?タナカさん!」
「タナカさん!どうすれば!?」
ガッ!・・・ガハッ!ゲホッ!ゴホッ!
「シャル!」
「ムルギン!」
「「み・・・みず・・・」」
私とニッキはすぐに泉の水を手ですくってシャルとムルギンに飲ませた。残念ながらシルビアの手の先では水をすくえなかったので、ニッキが代わりに手ですくったのであった。
「ゆっくり・・・ゆっくりだよ、気管に入るとむせるからね」
コク・・・コク・・・コクン・・・
プハァ~・・・ッ
「「「・・・」」」
私とニッキとシルビアは息を飲んで見守った。
スヤスヤスヤ・・・
「脈拍心拍呼吸全て正常に戻りました!」
「私も確認しました!正常です!・・・あっ!でもステータスがまた上昇しています!今度は五感の能力が向上しているみたいです!」
「マジで!?」
「「マジです!」」
「凄い!二人とも死の淵を乗り越えたんだ!」
「多分普通の人なら死んでいたと思います!」
「あぁ良かった、本当に良かった・・・」
「ハァ~・・・それにしてもどうして二人とも危険なキノコを食べていたんでしょうか?」
「あのキノコは一度香りを嗅ぐと無性に食べたくなって抗うことが出来ないんだ、食べた後はまるで麻薬のようにおかしくなって幻覚を見るんだ」
「それは怖いですね・・・」
「でも、少し食べてみたいかも・・・」
「恐らくムルギンが僕等のために朝食の材料を調達しようとしてキノコ狩りに出かけたんだと思う、そしてその時に白いキノコを見つけてさっきのような状態になったんじゃないかな」
「探してみても良いですか?」
「うーん・・・シルビアなら大丈夫か・・・僕も一度食べたから耐性があるし」
「私もちょっと興味が出てきました」
「じゃあ探してみようか、ムルギン達の足跡をたどればすぐ見つかる気がする」
「あっそういえばあの小さくて可愛い生き物がいなくなっちゃいました!」
「あの生き物は白キノコが危険だと分かっているから、白キノコには近づかないんだ」
「わぁお利口さんなんですね!」
そうしてシルビアとニッキが白キノコに興味があるということで森の中に入り、二人の高性能探知センサーでいとも容易くムルギンの足跡を辿り、3分程で白キノコを発見した。
「クンクン・・・わっ!これは凄く美味しそうな香りです!」
「ステータス画面には知覚拡大キノコって書いてあります」
「なるほど通りで幻覚を見るわけだ・・・でも、そのおかげで五感の知覚能力が拡大するんだね」
結局私はニッキやシルビアと違って生まれ変わっても普通の凡人だったというのが分かった。後からこうしたチート級の食べ物を食べたおかげで超人になれただけの事で、さらに私の高性能な刀のおかげでこれまでやってこれたという事で、本来の自分は生まれ変わる前の普通の人間だったのだ。
だとしたらシャルはこの後目を覚ましたら私よりも遥かに強いスーパーウーマンになりそうだが、シャルが自分よりも強くなることに対して妬むような感情は全くなく、大好きなシャルがちょっとやそっとのことじゃ死ななない頑丈な肉体を手に入れる事は私にとっては大歓迎だった。恐らくシルビアにとってもムルギンが強くなる事は大歓迎だろう。
「ムシャムシャ・・・わぁ~美味しいですゥ~」
「パクパク・・・美味しいィ~」
「・・・って、えっ!もう食べちゃってるの!」
「アハハハハハ~」
「ウフフフフフ~」
「「楽しい気分ですゥ~」」
「ちょっとちょっと!二人とも大丈夫!?」
「「大丈夫ですゥ~とっても良い気分ですゥ~」」
残念ながら私にはステータス画面を見ることが出来ないので、二人のバイタルが今どんな状況なのかまるで分からないのだが、シャルやムルギンの時のように幽体離脱して心拍停止とかしていないようなのでひとまず見守る事にした。
私の目測はひとまず正しかったようで、ニッキもシルビアもしばらくの間はほろ酔い気分のような上機嫌な感じで特におかしな言動を取ることもなく、大体10分程度で通常状態に戻った。そして二人とも極僅かにパラメータが上昇したとのことだった。
「こうなると、シャルとムルギンが目を覚ました時に果たして二人ともどうなるか凄く気になるね」
「そうですね、特にシャルさんはこれまでも凄く高い能力値を持っていたので、目を覚ましたらどこまで強くなっているのか気になります」
「ムルギンも戦闘力以外の数値は相当高い人だったので、どうなるのかとても気になりますね」
その後私はシャルとムルギンを見守る事にして、ニッキとシルビアはステータス画面で色々と確認する事が出来るのを活かして、森の中でまだ知らない食材などがないか探しに行く事になった。




