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第11話

 無謀にも3メートル近い巨体の狂暴なクマの背中を追いかけた私は、追いかけているクマのさらにその先に大きなリュックを背負った体格の良い男達の姿を見た。全員恐怖で固まっており、中にはへたり込んで恐怖で動けない者もいた。


 いよいよ最初の犠牲者が出るかと思われたその瞬間、私は弾かれたように猛ジャンプして右斜め上段に両手で構えた刀を水平に近い角度で左へとありったけの力で薙ぎ払った。


 まるで力加減など分からない素人のやったことなので、猛烈な刀の振りに負けて制御不能で私まで激しく一回転近くスピンしてしまい、そのまま受け身も取れずに落下した。


 ゼロコンマ数秒ほど呆けた私はすぐに落下地点がクマの身体の上だと察して、大慌てで後ろに飛び跳ねた。


 しかしクマは地面に突っ伏したままでピクリとも動かなかった。


 私は何とか立ち上がったが、ヒザがガクガク笑っているどころか、身体中がガクガク震えており、上下の歯もガチガチ音を立てて震えていた。


 心臓の鼓動音がまるで耳鳴りのようでこめかみのあたりがズキズキし、さらに過呼吸になりそうな程に息を荒げていたので、私は強制的に唾をゴクンと飲みこんでなんとか深呼吸をした。


 3回程深呼吸をしたところで何とか落ち着き、恐る恐るクマに近づいてみたところ、クマは首から上が無くなっていた。


 ふと顔をあげて前を見ると、何人かの男達が大きく目を見開いた表情で体は固まったまま一言も発せず地面を指さしていた。


 私は男達が指で指し示した方向を見てみると、そこには大きなクマの頭が転がっていた。


 私も目を大きく見開いて、両手で握りしめたままの刀と地面に転がっている大きなクマの頭を何度も交互に見て、もう一度男達の方を見ると、男達は今度は私、いや、私というより私の刀を指さして何度も頷いていた。


 私はようやく脱力して、痛い程に握りしめていた指の力を抜いて何とか左手を外し、右手に持った刀を空に向かって突き上げてこう言った。


「やったぞ!」


「・・・」


「「「オッ、オォーーーッ!」」」


 男達はようやく動き出し、彼等自身の恐怖を追い払うかのように大声を出して吠えた。


 一緒になって私も吠えて、しばらく全員でその場で吠えた。


 ひとしきり大声を上げて発散したので私も木こりの男達も落ち着き、ようやくお互いをしっかり見合ってどういう人物なのか確認した。


 すると木こりの男達の中の一人が前に出てきて話しかけてきた。


「あんた強いな!探検家の人か!?」


「探検家?・・・冒険者じゃなくて?」


「冒険者?冒険者は知らんが・・・アンタはその冒険者とやらなのか?」


「いや・・・それが自分は色んなことが思い出せなくなっていて、何をやっていたのか思い出せないんです、一応名前は覚えているのですが・・・」


「あっ!そしたらあんたはやっぱり探検家だ!大分前にこの先の魔の森に挑んだ探検家の一人に違いない!」


「えっ!?魔の森!?・・・ですか?」


「そうだ、10人以上の腕利きの探検家が挑んだが、一人だけ瀕死の重傷で戻ってきた、しかしその一人も程なくして死んじまった、あんたはその時の探検家の一人に違いない、余程酷い目に遭って記憶を失ったんだ」


 私はそこで初めて目の前にいる人達が日本語を話していることに気付いて驚いた。


 目の前にいる人達はそんな驚く私の顔を見て頷いていた。多分盛大に勘違いしているに違いない。


「こりゃいったん村に引き返す必要があるな、それにこのとんでもないお宝も持っていかなきゃならんぞ!」


「そうだな!」

「おう!」

「よし、そりを持ってくる!」

「オレも行く!」


 男達はテキパキと行動を開始し、せっかく来たばかりなのに村へと引き返す事になった。まぁこの状況ならば仕方がないだろう。


「あんた、えぇと・・・」


「田中 かなたといいます」


「タナカカナタ?失礼だが変わった名前だな、どこの出身だい?」


「日本です」


「ニホン?知らんなぁ、誰か知ってるか?」


「いや」

「知らん」

「知らん」

「オレも知らん」


「もしかしたら遥か東にある国じゃないか?」


「えっ!?日本があるんですか?」


「いや、あんたがニホンから来たって言ったんじゃないか」


「あっ、えっと、そうです、そうなんですが・・・その・・・記憶違いかも知れないと思って」


「あぁなるほど、アンタ、ええと、タナカカナタは記憶を失っているんだったな」


「はい・・・あっ私の事はタナカと呼んで下さい」


「おおそうか、タナカの方が呼びやすいな、そうする」


「それにしてもタナカの剣は凄いな!グマンの王の首を一刀両断しちまうなんて見たことも聞いたこともないぞ!」


「全くだ!すげぇ強さだ!」


「やっぱり探検家ってのは俺達一般人とは違うんだなぁ」


「その通りだ、こう言っちゃ失礼だがこんなに若くて華奢な体でグマンの王を一瞬で仕留めるなんて、普通の人間にゃ絶対に出来ないぞ」


「その細っこい剣もだ、そんな料理ナイフみたいに幅の狭い華奢な剣でよくグマンの王の首を一刀両断出来たもんだ、やはりそれは魔の剣なのか?」


「・・・」


 ここまでのわずかな会話で得られた情報量の多さに私は頭の中の理解と解析が追いつかなくなって黙ってしまった。


 彼等が日本語を話している事や、日本が東にあるかもしれない事や、彼等が魔の森と呼ぶ場所とか、探検家と呼ばれる人達は超人らしい事や、もしかしたらその探検家というのは私のように日本もしくは地球から来た人達かも知れない等々、頭の中は混乱しかけていた。


「おっと、すまねぇ、タナカはショックで色々忘れちまってるんだったな」


 木こりの一人がそりを持ってきたので、男達は総出で大きなクマをそりの上に乗せた。


「やいーっやい!」

「「うらぁーーーッ!」」

「こりゃ重いぞ!気張れ!」

「やいーっやい!」

「「うりゃぁーーーッ!!」」


 なかなか面白い掛け声を出しながら男達は力いっぱいクマを動かしてそりへと乗せ、最後に巨大なリュックから布を取り出してクマの頭をグルグル巻きにしてそりから落ちないように縛り付けた。


「よし、そんじゃ村に引き返すぞ!」


「おっと、タナカは何か忘れ物ないか?」


「あっ、枕とシーツを取ってきます」


「枕とシーツだって?」


 私は急いで物干し竿に干していたシーツとテーブルの上に日干ししていた枕をとって、さらにベッドの上に置いておいた残り2つの黒紫キュウリを両方のポケットに突っ込んで男達の元へと戻った。


「持ち物はたったそれだけなのか!?」


「はい、これだけです」


「何だって!?そんなんで良くこれまで生きてこられたな!」


「お宝どころか、防具も何もないじゃないか!」


「しかも何故シーツと枕は持ってるんだ?意味が分からん!」


「えっと・・・これしか持っていなかったんです」


「「・・・」」


「ま・・・まぁ、その物凄い剣があったから今まで何とかなったんだろう・・・」


「確かに、グマンの王を一刀両断する程の剣と腕があるのだからな・・・」


「タナカはもしかしたら探検家じゃなくて戦士だったのかも知れんぞ」


「「ウンウン」」


 そうして私よりも遥かに大きくて分厚い身体の男達に囲まれながら、私は彼等の村へと行くことになった。

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