第106話
昨夜は大分遅くまで色々な話しをしたので、ヴォルタークとデルリシアン以外は全員いつもよりも遅く起きて、正直なところ私にとっては有難いことにヴォルタークのいないとても平穏な遅い朝食を楽しむことが出来た。それもマリー手作りの朝食を。
「わぁ!とても美味しいです!シャルちゃんのお婆ちゃんが作ってくれた料理と同じ味がします!」(ニッキ)
「ホントだ!シャルのお婆ちゃんの味がする!」(ムルギン)
「私もそう思います!とても美味しくて優しい味がします!」(シルビア)
「有難うございます!皆さんにそう言ってもらえると私もとても嬉しいです!」
ニッキもムルギンもシルビアもマリーの料理を大いに気に入ってくれたようで私もとても嬉しかったが、これ程美味しい料理を気に入らない者などこの世にいないことだろう。
「ところでシャル達は今日ここを発つのかい?」
「うん、ご飯を食べ終わったら行くつもりだ」
「えっ!?そうなの?えっと・・・もうちょっとゆっくりしていってもいいような・・・」
「いや、あまり長居していると油断してうっかり練習生に目撃されるかも知れん、早く出た方がいい」
「とかいって、早く魔の森に探検に行きたいからじゃないの?シャルは」
「ムッ、さすが母ちゃん、鋭いな」
「「「アハハハハハ!」」」
「おっと、シィーッ!確かにシャルの言う通りこうして皆で賑やかにしているとバレちゃう可能性がありそうだね、シャルの声はシャルが演じていたシャルリッヒ爺ちゃんの声そのものだしさ」
「「「ウンウン」」」
「でもせっかく出会ったばかりなのに、すぐ出発だなんてなんだか寂しくなります」
「すまんマリー、アタイらばかり楽しい事をしているようで・・・」
「いえ、これまで姉さんはずっと外に出れずに我慢していたんですから思い切り楽しんでいいんです、でも・・・行かれる前にニッキさんとシルビアさんをもう一度ギュッとしていいですか?」
「「いいですよ!」」
私もギュッとされたいなどと思うものなら、モルサール八式でいやらしい下心を読まれて軽蔑されそうなので、なんとかそうした想いを抱かないように抑えるのに苦労した。
それからマリーを中心に女性陣全員で一緒にお弁当を沢山作り、家の中で見送られながら裏口からコッソリと静かに出てモルサール家を後にした。
その後モルサール本部道場の表門をくぐり、城塞都市部の大きな城門をくぐり、中央都市を抜けてのどかな街道を走り続けた。
「皆さん良い人達でしたね!」
「ホント!タナカさんのお知り合いの方は良い人達ばかりですね!」
「うん、僕もそう思う、本当に有難い限りだよ」
「かなたは人が良いからな!そういう人物には良い人物が集まるんだ!」
「おいコラ!そこの荷車待て!」
せっかくシャルが良い事を言ったところで、何ともタイミングの悪い事に盗賊が立ち塞がった。
「「「ハァ~~~、ヤレヤレ・・・」」」
「あっ待てよ、ここならアレがまだ役に立つんじゃないかな・・・」
そうして道中現れた盗賊に対して、以前盗賊団のグマンの爪からもらった手出し無用の盗賊の証が刻まれた金属片を掲げて話しかけたところ、盗賊達は少しバツの悪そうな顔をして道を通してくれた。
通常中央都市から木こりの村近くにある町までは馬車だと2週間程もかかるが、3人交代の超人的駆け足移動でひたすら移動し続けたところわずか5日で町まで到着した。
一応事前にマチャント宛てに伝書鳥で手紙を送っておいていたが、まだ以前と同じ借家に全員揃って住んでいるかまでは分からず少し不安だったが、夕方近くになって借家に着いてみたところ、マチャントの馬車と荷馬車があり、借家にも明かりが灯っていたので安心して敷地内に入った。
「おお!タナカ殿!お待ちしておりましたぞ!」
まだ呼び出していないにも関わらずマチャントが玄関扉から出てきた。どうやら後ろにいたグルカンが気付いてマチャントに知らせたようだった。
「マチャントさんお久しぶりです!グルカンさんもお元気そうで良かった!」
「さあ皆さんどうぞ中におあがりください、ギャラガさん達は食べ物を買いに行っててそろそろ戻って来るかと思います」
マチャントの借家の部屋は十分空きがあり、全員個室というわけにはいかないがしっかり人数分のベッドがあり、私とシャルで一部屋、ニッキとシルビアとムルギンで一部屋使うことなった。
やがてギャラガ達が美味しそうな食べ物を沢山買って帰って来たので、食堂に全員集合してまるで大宴会のように楽しく飲んで食べて語り合った。
ニッキもシルビアもその姿を皆の前に披露し、さらにシャルが実はこれまで10年以上もの間シャルリッヒを演じていた事を打ち明け、それを知ったソルドンは何度も目をパチパチと瞬きして、椅子から飛び跳ねて膝をついてシャルに頭を下げ、スナギンとムルギンは久しぶりの再開を喜び合ったが、すぐにムルギンに昔の事でかなりイジられたり、いつもと変わらぬ無口なグルカンもニッキを見てとても和んだ柔らかい表情をしており、ギャラガもハンテルも仲間のくだけた表情を見て実に嬉しそうだった。
「それにしても、タナカ殿が別の世界のお方だったとは・・・いや、正直申し上げますと、何かとても大事な事を内に秘められているような気はしておりましたが、まさかここまで途方もない事だったとは全く想像出来ませんでした」
「すいません・・・記憶喪失だという事は嘘偽りなく真実なのですが、それに乗じてこの世界の事をほとんど知らない理由にしていました」
「ときおり聞き慣れない言葉を言っていたのもそのせいだったんだな・・・例えばそのカタナとか」
さすがギャラガ、抜け目なくしっかりわずかなセリフを覚えていたようだ。
「ところでソルドンさん、明日はロレオン様のところに一緒に行って、ロレオン様にこちらに来てもらえるように一緒にお願いしてもらえませんか?さすがにこのメンバー全員を道場に連れて行くとかなり目立ってバレてしまいそうです」
「分かった、確かにタナカの言う通りだな」
その後はこの場でもやはりかなり夜遅くまで様々な話しで大いに盛り上がり、結局朝方まで宴会が続いたのであった。
翌日、誰も何も大事な急ぎの仕事もないので、昼近くまで寝ていた。
起床後に私とソルドンは昨日話していた通りロレオンのいる道場へと行き、シャルがこちらに来ている事と、それ以外で大事な話があるので来て欲しい旨を伝えると快く応じてくれて、一緒にマチャントの借家へと来てくれた。
「ロレオン爺ちゃん久しぶり!」
「おおシャル!元気そうで嬉しいぞ!ってオオォーッ!?こりゃなんとも凄いモンが現れたぞ!」
「初めまして!私はニッキといいます!」
「私はシルビアです!よろしくお願いします!」
「なんと!人の言葉をしゃべった!こりゃ神様の使いか!?」
「さすがロレオン爺ちゃん!でも二人とも元は人間だったんだぞ!」
「なんと!!」
とりあえずギャラガ達は昼食用の食べ物を買いに行き、今度はロレオンも含めて昼間から大宴会パート2が始まったのであった。




