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タナカカナタのカタナ  作者: キクメン


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第103話

 その後もモルサール流歩方術の独特の歩き方と異様な速さで移動するちびっこ集団は周囲から注目を浴びることになり、その日の夕方に村に到着した時も何人かに声を掛けられたので、早々に何かしらの対策をとる必要があると考えた。


 とりあえず美味しそうな食べ物をテイクアウトして宿屋にチェックインして、皆で夕食を食べながらどうするか検討した。


「明日この村で荷車を手に入れて僕が引いていこうと思う」


「アタイも運動不足にならないように引っ張るぞ」


「私も引っ張ります!」


「それなら休憩の回数を減らせるからかなり早く進めるね、僕の時は走ろうと思う」


「私も走ります!」


「アタイはさすがに何時間も走り続けるのは無理だが、出来るだけ頑張ってみる」


 早速翌日に通常サイズの荷馬車よりも一回り小さい幌のついた荷車を購入して、シャルとニッキを乗せて私はモルサール流歩方術ではなく、軽いジョギングよりも速いペースで走り始めた。


 私的には少し速めのジョギングをしているつもりなのだが前を行く馬車をどんどん追い抜き、単独で走る馬並の速度で進んだ。


「こりゃ速い!馬車よりも速いぞ!」


「わぁ速いですね!あっ!また抜きましたよ!」


 購入した荷車はサイズは小さいが一番値段が高いものを買ったので、揺れを抑える板バネがついていて、乗車している二人は結構快適のようだった。


 しかも自分で引っ張って移動するので、馬を操作するよりも自由自在に動けるうえに小回りも効くので不意に盗賊などが出てきても柔軟に対処出来そうだった。


 本来ならば体力の消耗が大きなデメリットになるのだが、私とニッキは確実に規格外の体力だし、シャルも一般人よりは遥かに超人なので、問題にならなかった。


 そうしてまずは私が3時間ぶっ続けで走り、続いてニッキも3時間ぶっ続けで走り、最後にシャルが2時間走り、なんとその8時間で300キロ以上も走破することになった。このペースで移動すれば10日かからずにシルビアとムルギンのいるヌルムワカ村に到着出来そうだった。


 ところがそう簡単に行かないのがまだまだ治安も世の中も不安定なこの世界で、案の定人力で荷車を引っ張っている物だから盗賊に付け狙われてしまうのだった。


「ハハハハハ!待てい!!」


「ハァ、またか・・・」


ポカポカポカ!

ドサドサドサ!


 まぁ足止めを食らうといっても数十秒から数分程度なので全体スケジュールにはほとんど影響ないのだが、大体数日遅れで立ち寄った村で感謝状と謝礼金をもらってちょっとした祝賀会が開かれる事の方が足止めになるのであった。


 また、残念なことに公衆浴場があっても、入浴できるのは私とシャルだけで、獣人のニッキは途中で見つけた川で人目を気にしながら水浴びをしなければならないのもちょっとした足止めになった。


 ともあれ大きなトラブルもなく、9日という驚異的な早さでヌルムワカ村のはずれにあるムルギンの家に到着した。しかもムルギンを呼ぶ前に扉が開いてムルギンが出てきた。


「わっ!ホントにタナカ達だ!」


「やぁムルギン久しぶり!ってよく分かったね」


「うん、シルビアがタナカ達が来たって教えてくれたんだ、全然何の音もしなかったのにさすがクモガミ様だね」


「おうムルギン!」


「やぁシャル!」


「初めましてムルギンさん!」


「わっ!君は誰?」


「私はニッキといいます!」


「えっと、とりあえず中に入れてくれないかい?」


「えっ?あっ、う、うん、どうぞ入って!」


 そうして荷車を敷地内に運んでから私達はシルビアの小屋へと入った。


「えぇと・・・君は・・・」


バサッ・・・


「あっ!えっ?えぇーーーッ!?」


 ニッキは着ていた服を脱いで獣人の姿をムルギンに披露した。


「キャァーーーッ!可愛いィーーーッ!!」


スゥーーーッ


 と、天井から音もなく現れたのはフサフサモフモフの白くて大きなクモの姿のシルビアだった。


「わぁーっ!あなたがシルビアさんですね!」


「アイニッキ・ヴァウティネン・・・さん、あっ!私と同い年なんですね!」


「あっ!ホントだ!同じ19歳なんですね!」


「えっ!?なんで分かるの!?」


「ニッキはアイニッキ・バ・・・なんとかっていうのか!なんでシルビアは分かったんだ!?クモガミ様だからか?」


「あっ、いえっ!その・・・私達にはステータス画面が見えるんです」


「はい、私にも見えます、ただタナカさんのだけは見れなくて不思議なんです」


「す、すてーたす?画面?」


「なんじゃそりゃ?」


「えーと・・・ちょっといい?ニッキとシルビアと三人だけで相談したいんだ」


「・・・分かった!じゃあシャルちょっと付き合ってくれる?夕食に美味しい物を作るからその材料を採ってこよう!」


「よしきた!」


 そうして家の中には私とニッキとシルビアの三人だけになり、シルビアにはこれまでのいきさつと、信頼に値する人達には私達が地球からやってきたことを話そうと思う事を伝えた。


「賛成です!私もムルギンのような人だったらもっと沢山の方と知り合いになって、色んなお話しをしたいです!」


「良かった!ありがとうシルビア!」


「私からもありがとうシルビアさん!えっと・・・ところで、シルビアさん・・・あの・・・」


「?」


「ちょっとだけ抱き着いてみてもいいですか?」


「はいどうぞ!私もとても可愛いニッキさんに抱き着きたかったところです!」


「じゃあ早速!」


モフモフ!モフモフ!


 出来れば私もその間に入りたいところだが、グッと我慢して癒される光景を眺めていた。


 話がまとまったので、外に出てムルギンとシャルを探したが近くにはいないようで、シルビアとニッキも庭に出てきたところ、すぐに二人は私を遥かに超える五感のセンサーでムルギンとシャルの居場所を突き止めた。


 三人で現場に向かうとキノコ採りをしていた二人を発見し、話し合いは終了した事を伝えて、皆で一緒にムルギンの家に戻った。


 とりあえず話は夕食の後にゆっくり話そうということで、先に夕食の支度をすることにした。


 私以外は全員女性ということで、皆小さなキッチンで肩寄せ合って和気あいあいと調理している後姿を見るのは実に心和む物があった。


 やがてクリームシチューの良い香りが部屋の中に充満し、数人のお腹がグウグウ鳴って皆笑い合っていたが、ニッキを筆頭に皆とても可愛いので非常に目の保養になって癒された。


 さらにフランスパンに似たパンの表面を軽く炙った時の香ばしい匂いも大いに食欲を刺激し、ますます腹の音が大きく鳴り続けた。


 そうして大きな鍋にタップリとクリームシチューが出来上がり、小さなテーブルを皆で囲って仲良く食べ始めた。


「わぁ!とっても美味しいです!ムルギンさん凄く料理が上手なんですね!」


「ありがとうニッキ!シルビアが美味しい食材を採ってきてくれるおかげでもあるんだよ!」


「そうなんですね!」


 シルビアは今や8本ある腕を器用に使ってちゃんとスプーンでシチューを音を立てずに飲んでおり、虫が苦手の私とシャルはますますシルビアに対しては苦手意識がなくなっていった。


 また、ムルギンはかなりウットリした目でニッキを見ながら食事しており、時折目と目があってニッキがニッコリした表情で美味しいですと言うと、ますます目尻が下がって嬉しそうだった。

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