第101話
丁度良い事に焚火はかなり大きなかがり火にまでなっていて、確実に遠くからでも確認出来る上に、敵が扉に突入するのを防ぐかたちにもなった。
その反面敵もおびき寄せるかたちにもなり、案の定先にやってきたのは招かざる客達だった。
「かなた、ポウェトゥール流の連中は任せてもいいか!?アタイはグリンジの使い手と戦いたい!」
「分かった!僕はポウェトゥール流の人達に少し学んだことがあるから任せて!」
とは言ったものの馬の上に乗ってる達人、それも複数人相手にはかなり心もとないものがあった。しかも今私が手にしているのは愛用の刀ではなく、今手にしたばかりの護衛が持っていた剣なので、余計に不安だった。ところが・・・
ピョンピョンピョン!
「タナカさん!」
「えっ!?その声はニッキ!?」
突然私達の目の前に現れたのは全身黒づくめの服をまとった小さな子供だったが、私にはすぐにその声でニッキだと分かった。
「タナカさんのカタナを持ってきました!」
「えっ!?どうしてニッキが僕の刀を!?」
「説明は後だかなた!来るぞ!」
私はニッキから刀を受け取り、鞘からスラリと抜いた途端圧倒的な自信を取り戻し、どう見ても勝ち目のない馬上の騎士達に向かって走り出した。
「ニッキ!オヌシは剣を使えるのか!?」
「いえ!私は戦いは苦手です!」
「ならばその剣をくれ!二刀流でいってみる!」
「はいどうぞ!シャルさん!」
「おっ!?・・・ニヤリ」
シャルはニッキが自分の名前を呼んだ事に一瞬驚いたがすぐに洞察して喜んだ。こうした点においては非常に頭の回転が早かった。
私は我が愛刀のカタナに全幅の信頼を寄せて、まずは馬めがけてカタナを振り下ろし、馬はそのまま気絶して倒れ、続けて馬から落下する騎士のような鎧を着たポウェトゥール流の使い手を躊躇なく一刀両断した。もちろん胴体は切断されることなくそのまま気絶した。
「キャアウォーーッ!!」
視界の外から大きな奇声が発せられたがシャルの雷声ではなく別の男の声だった。
「オヌシがグリンジの使い手か!」
「いかにも!キャオラッ!」
異様に手足が長い痩身の男は両手に武器を持っており、右手の剣は刀身がかなり湾曲した剣で、左手にはグニャグニャと波のように波打った不思議な形の短剣で、明らかに毒が塗られていた。
シュシュッ!
「やるな!」
グリンジの使い手は鋭い右手の剣の斜め切りで牽制しつつ、右に回り込んで左手の短剣を長いリーチを活かして突き刺してきた。明らかに背が低くリーチも短いシャルには不利だったにも関わらず、さらに卑怯な手段を使ってきた。
「シャルさん左ッ!!」
「ウムッ!甘いッ!」
パキン!
「そこだっ!」
ドシュッ!ギャッ!!
なんとグリンジの使い手はもう一人いて、いつの間にか近づいていた黒づくめの男が、シャルに向かって吹き矢を吹いていたのだが、シャルは左手の剣で毒の矢をはたき落とし、そのまま男の胴体に剣を投げつけた。防具をつけていたので貫通はしなかったが、その場に倒れて動けなくなる程のダメージは与えた。
「隙あり!チィエーイ!!」
「ワザとだ!」
バツンッ!
「ギィヤァーーーッ!!」
シャルが剣を投擲した隙を狙ってグリンジの使い手は短剣を突き刺してきたが、シャルはわざと隙を作って見せたとのことで、ギリギリの紙一重で短剣をかわし、伸びきった長い腕を斬り落とした。
しかしグリンジの使い手は振り返ることなくすぐに斜め横方向に凄まじい速さで逃げ出した。
「やっ!コヤツも足が速い!」
「逃がしません!」
ピョン!ピョン!ピョン!
「えいっ!」
ドンッ!ギャッ!ズサーーーッ!!
それ以上に速く跳ぶように移動したニッキが逃げるグリンジ使いの背中に体当たりして、グリンジ使いは思いっきり前方に突き飛ばされてそのまま気絶してピクリとも動かなくなった。
私の方も最後のポウェトゥール流の騎士を倒したのですかさず駆け寄り、まずは胴体を刺されたグリンジ使いを手当して、次に斬り落とされた腕を拾ってニッキに突き飛ばされたグリンジ使いのもとに駆け寄って手当てで腕をくっつけた。緊急でやったので少し曲がってくっついたように見えた。
やがて、腕に白い腕章をつけた人達が駆け付けて来て、さらにその後ろには馬に乗った人達もやってきた。恐らくこちら側についている貴族達だろう。
「タナカ殿!タナカ殿はおられるか!?」
「あっ!その声はリシャールさん!こっちです!」
「おおタナカ殿!っと!何というお姿!お身体の方は大丈夫ですか!」
「えっ?わっ!すいません!だ、大丈夫です!間一髪のところでしたが指一本触れられていません!」
「私のマントをお使いください!」
「有難うございます!」
「ボンボルム達はこの奥ですか!?」
「はい!監禁されていた人達もいます!」
「よし皆!気を引き締めて行こう!」
「「おう!」」
そうして全員突入して2階へと行き、例の部屋に入ったところ・・・
「ウッ・・・ウグッ」
「な、なんという醜悪さだ」
「これは酷い・・・とても貴族にはあるまじき、いや、ヒトとしてあるまじき醜さだ・・・」
「なんというむごい仕打ちだ、ほとんどの子供が足を斬られている・・・」
「この表情、そしてこの虚ろな目、確実に麻薬の類のクスリの症状だ・・・何と酷い・・・ここまでするとは、人の心はないのか・・・」
その後続々と町から派遣されてきた組合員達と一緒に組合長及び町長もこの場に到着し、私とシャルは館から逃げ出そうとする残党達を残さず気絶させて捕らえた。
また、他の別館からも監禁されていた性奴隷達が確保されたが、その者達は変態貴族に散々弄ばれた末に飽きられた者達で、より一層むごたらしい姿で再起不能の者もいるとのことだった。
ここにいる全ての人が、今この場でこの手で変態貴族どもを処刑したいと心から思っていたが、極めて理不尽な事に王侯貴族連合の法により、彼等は特別法廷の場で起訴されるまでは手出しできず、もしも手出しした者は重罪に問われるのであった。
「しかし、それも数日の辛抱です、これだけの目撃証言と生きた証拠が揃えば、いかに抵抗勢力貴族がいようとも処罰は免れないでしょう」
ともあれ、これでようやく長い間多くの者達が忸怩たる思いを抱いていた貴族の闇がまた一つ明らかになり、新たな犠牲者を産む事もなくなった。
捕らえた者や保護した者の確保と物的証拠の確保など、もろもろの作業が一通り終了する頃には朝日が昇ってきた。
私とシャルとニッキは一足先に高級宿屋にてくつろいでおり、ニッキは一切肌を隠していた服を全て脱いでまるでレッサーパンダのようなとても愛らしい獣人の姿を見せた。
シャルは大喜びですかさずニッキに抱き着き、頬ずりしてフワフワモフモフを堪能した。ニッキも嫌がるどころか、とびきりの美少女に抱き着かれてとても喜んでいた。
そんな二人を見て私も実に嬉しくなった。先程までの酷い光景を無理矢理洗い流すかのように二人を見続けた。
想像を絶する程の酷い仕打ちを受けて壊れた心と身体が戻ることはないかもしれない、そんな事を考えると胸が張り裂けそうになる。もしかしたらシャルもそういう想いかも知れない。
シャルは愛らしいニッキを強く抱きしめて顔をニッキの胸の埋めていた。僕等には今はニッキの温もりが必要だった。




