第7話 後ろから
この感覚には覚えがある。初めて部活の試合に出た時と一緒だ
足元が少しふわふわした感覚になり、視野が少し狭くなる
上手く息が吸えていない為か、呼吸が少し浅くなる
これが「本番」ってことなんだろうな
自分が緊張しているのが分かる
でも少し驚くのは、思ったほど躊躇していないって事だ
索敵の範囲は大体分かっているので、範囲外から後をつけていく
少し開けた場所に1行がついた瞬間に目の前にライカンを2体登場させる
出し惜しみは無しだ
「くっ、、、おい!下がってろ!」
前衛が前に出て、後衛との隙間が出来る
だが、ここで落ち着かせはしない
横の小道からゴブリンを4体出現させる
「きゃあ!」
女が驚きながら更に後退する
後衛の男が矢を引くが全員に木の盾と竹槍を
装備させている為距離が縮まり、乱戦になる
「大丈夫ですか!今手伝います‼」
後ろから大きな声を出す
「前に集中して‼」
一瞬こちらに向いた意識を戻させる為に声を出す
『後ろは大丈夫だ』と全員に一度認識させるために
白兵戦を続ける3人の男を助ける為か、2人の女は魔法を発動しようとしている
後衛の女二人は筋力の問題か、装備の防御力が低かった
「ドスッ」
後衛の女の胸を後ろから突く
「えっ…?」
声が出せないよう、肺の辺りを狙う。僅かだが、息を吐くようなか細い声が聞こえる
確かな手ごたえを感じながら、引き抜いた槍を迷いなく
音に気付き、こちらを振り向いた一人の女目掛けて突き出す
首に刺さった為かさっきよりも容易く貫き、引き抜くと真っ赤な血が噴き出ている
持っていた杖を落とし、力なく倒れる
速度が勝負だ。女が落とした杖を拾い
ゴブリンと白兵戦を続けている男の元へ走る
ゴブリンは1匹減っていた。
女が落とした杖を投げつけ、こちらへ注意をひく
「は?」
男の振り向きざまに装備の薄い下半身目掛けて槍を突きだす
「ああっっ⁉⁉いってえぇぇぇ!!」
槍を引き抜き、顔に叩きつける
「がぺッ⁉」
片足が使えない状態で顔に衝撃を食らったためか、あっけなく倒れる
リーチも、数もこっちに分がある状態で倒れたらこっちのもんよ
止めを刺そうとすると、さすがに気付かれた
「何やってんだてめえぇぇぇ!!!」
前衛の2人が背中合わで戦っている状況でこっちへ怒鳴っている
見るとライカンが1匹やられたところだった
槍を持った男に残りのライカンを任せ、鉄の剣を持った男がこちらに向かって走りだしてくる
俺はまずは倒れた男に一突きし、止めを刺す
念を入れ、ゴブリン1匹にもう2、3突きさながら
2匹のゴブリンを前に出す
「ゴブリン、2匹で盾を構えて、槍を突き出せ」
壁を作りながら、火魔法を発動させる
それでも突っ込んでくるスピードが速い、身体能力が高いだけあるな
まだ魔法になれていない俺は、鉄の槍を前方に「ふわっ」と投げた
さすがに無視できないのか、1瞬立ち止まったものの
槍にスピードが無い為剣で簡単に払われた
でもそれでいい。この1瞬が欲しかったんだ
ファイヤーボールを男に目掛けて放つ、しかし回避が間に合い、髪の毛も焦がすことが出来なかった
「どこ狙ってんだよ、ジジイがぁ!!」
「いやぁ、狙い通りだよ?」
火の玉はライカンと戦っていた槍の男に着弾した
衝撃で吹き飛ばされ、あっという間に火に包まれた男は火を消そうと地面に転がっている
「こんなお約束も知らないなんて、漫画の読み込みが足りないんじゃないか?」
小馬鹿にした態度で挑発する
「何訳分かんねえ事言ってんだよてめえ!!!」
左手で火球を作りながら、アイテムボックスから「ゴブリンの短剣」を2本程取り出し投げつける
相手の方がパワーは上だ、近寄らせたくない
新たに作り出した火球も、短剣も当たらなかった。しかし一瞬足止めすれば止めを刺したゴブリンとライカンが戻ってきて包囲の完成だ
囲って足が止まればこっちのもんだ。銅の槍を取り出し、全力で投げ込む
素人の投げやりだが、脚に当たればそれなりに効く
後は動きが鈍った相手に対して竹やりとライカンで牽制しながら、魔法と投げつけた武器で削っていけば終わりだ
途中で泣き喚きながら命乞いが聞こえたような気がしたが、知ったこっちゃない
お前もこれまで相手が泣いてても傷みつけてきたんだし
俺を殺しにきたのに自分は助けて下さいなんておかしな話だ
『Lvが上がりました! Lv.2→Lv.4』
あの効果音は鳴らないよう設定変更して正解だった
多分今鳴ってたら誰にキレ散らかしていいか分からん
ステータスを確認しようとすると後ろから音が聞こえてきた
一番最初に刺した女だ。そういえば止めを刺していなかったな
放っておいても助からないだろうが、どうしようかと悩んでいると泣き声が聞こえてきた
少し悩むが、やってみる事にしよう
「今死ぬか、俺の眷属になるかどうする?」