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朝食



翌朝、小鳥の囀りと明るさで目が覚めた。


「おはようございます。ご気分はいかがですか?」

「おはようございます。おかげさまで、気持ち悪さはとれました」


ー目覚まし以外で起きたのって、いつぶりだろう。

エリカがゆっくり起き上がると、カーテンを開けていたあの年嵩の女官が「それは、良うございました」とエリカのベッドに近づいてきた。


「あの…、お名前をお聞きしてもいいですか?」

「これは申し遅れました。私、神殿付きの女官のアマーリア・フレイタスと申します。どうぞ、アマーリアとお呼びください。昨日より聖女様付きになりました。よろしくお願い致します」

そう挨拶をすると、アマーリアは深く腰をかがめエリカに挨拶をした。


「こちらこそ、お尋ねするのが遅くなりました」

エリカはどうせ夢の中だと思って、周りの人に何も聞かなかった。現実だと分かっても、怒涛の展開ですっかり彼女の事は抜け落ちていたのだ。


考えたら昨日からお世話になりっぱなしだった。

朝の身支度から食事まで、アマーリアは他の若い女官達にテキパキと指示をしていた。


朝食は豪華なものだった。パン一つとっても白パン、黒パン、オートミールにポリッジと数種類あり、魚料理や肉料理も何皿もあった。無論飲み物もざっと見ただけで10種類ほどの果実ジュースが用意され、どこのホテルの朝食バイキングかと思うくらいだ、



「あの…これは?」

「お好みがわかりませんでしたので、記録に残っていた過去の聖女様のお好みだったものを全て作らせました。お好きなものを、どうぞ」


にっこりと笑うアマーリアに、戸惑うエリカ。

でも、昨日はお菓子を少々と夕食も食べずに寝てしまったエリカはとてもお腹が空いていた。無難にスープと香草のサラダ、スクランブルエッグと薄く切ったステーキを二切れと白パンを選び、アマーリアが取り分けたそれらで朝食を済ませた。


食後にベリージュースを飲みながら、アマーリアに一般的なここでの生活習慣の話を聞くと、どうもこの世界は中世から18.9世紀くらいのヨーロッパの文化レベルのようだった。そして、聖女の生活の全てにおいてアマーリア達女官の手が介在するらしい。


「あの、先程以前の聖女達の記録があると言われてましたけど、何人くらいの聖女の記録があるですか?」

「記録に残っているのは初代様も含め49名でございます。エリカ様は50番目の聖女様ですわ」

「そんなに…」


「ええ、我がヴァロワ王国は今年建国985年となります。興亡を繰り返す他国の王族から千年王朝の国とも畏敬の念で呼ばれております」

「そうなんですね」

余程自慢なのだろう、アマーリアがこの話をした時には誇らしげに笑みを浮かべ、周りにいた女官達もこくりこくりと頷いていた。


ー約千年で五十名程度なら、だいたい二十年に一人くらいの召喚ペースよね。いくつで召喚されたかかわからないけど前の聖女が生きていれば何か話が聞けるかも…。


「あの先代の聖女様はどちらに? できればお話をしたいのですが…」

エリカの問いにアマーリアは、途端に顔を曇らせた。


「……。残念ながら先代様は数年前にお亡くなりになっております」

「え。それは失礼な事をお聞きしました」


「いえ、歴代の聖女様方もですが、先代様も同じ質問をされました。同じお立場の方がいれば、お話を聞きたいのは当然かと…。ですので、お気になさらず」

「アマーリアさんは、先代の聖女様をご存じなのですか?」


「はい。召喚されてから先代様付きとなり、お亡くなりになるまでお仕えしておりました」

「どんな方だったのですか?」


「先代様は…イヴリン様という名で、金の髪と青い目をお持ちのお美しい方でした。教養もあり刺繍と読書を好まれておりました」

フッと一瞬遠い目をしたが、アマーリアはにこりと笑って先代聖女イヴリンの話をした。


聞けばどうも模範的な貴族女性だったらしく、公式行事以外はほぼこの部屋と庭で過ごしていたらしい。


「城外への外出って、できないのですか?」

「おできになります。ただ、先程国民に聖女召喚が成されたと公布されました。その際に聖女様の特徴も一緒に伝えられます。エリカ様の黒髪はこの国では珍しく、今城下にお出になられたら混乱を招きますので暫くは難しいかと…」

申し訳なさそうな顔でアマーリアは答えた。


確かに他の女官もアマーリアも色の濃さは違えども、全員金髪にヘーゼルや青い目をしている。聞けばこの国の庶民には茶髪が多く貴族は金髪が多いらしい。


ごくたまに黒髪の子供も生まれるが、本当に稀のようだ。


ー黒髪じゃない方が目立たないって、ちょっと皮肉ね。

エリカは黒髪に染めている自分の髪の毛先を触りながら、少しだけ昔を思い出していた。


染めなければ父親譲りの金に近いゴールドブラウンなのだ。赤ん坊の頃は、白人特有のベビーブロンドと言われる金髪だったが成長につれて今の色になった。もっとも、その色も今は生え際で見るくらいしかなかったが。


「エリカ様。数週間後には祈りの儀式で国境を周ります。きっと、その時にご気分も晴れるかと思いますわ」

毛先を見ていたのを、外出ができないから落ち込んでいるとかと思われたのか、アマーリアはエリカに優しく声をかけてきた。


「祈りの儀式って?」

「まだご存じございませんよね。この後、大司教様から聖女様の役割について詳しいお話がございます。その時に詳しいお話があるはずですわ」


そう言って微笑んだアマーリアは、若い女官にカモミールティを持ってくるよう目配せをした。

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