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聖女起源

案内された浴室には、ネットでしか見たことがない猫足のバスタブが二つ。両方になみなみとお湯が満たされていた。


入浴の手伝いしますという女官の言葉を丁寧に固辞した。一人で入浴をさせることは禁じられていると食い下がられたので、間仕切りの向こうで控えてもらう事で妥協してもらって湯船につかる。



ー気持ちいい。

ゆったりとバスタブの中で手足を伸ばすと、温かいお湯が身体の疲れを溶かしていく。祐樹の事が浮かんでくるが、今はこの気持ちよさを堪能したくて、そのことは頭の隅に追いやった。


程よく体が温まった頃、渡された石鹸と海綿スポンジで軽く身体をこする。ちゃぷちゃぷというちいさな水音と石鹸のラベンダーの香りが浴室に広がっていく。


結局女官の皆様には、髪を洗うのだけは手伝ってもらうことにした。


入浴の途中で気がついたのだが、この浴室には蛇口もシャワーが無い。隅に湯と水を満たした大きな桶があるだけ。一人での洗髪は無理だったからだ。

大判のタオルでしっかりと身体を隠し、もう一つのバスタブに入ると女官達が手桶で、手際よく髪を洗ってくれる。



バスローブっぽい服に着替えるとタオルドライで髪を乾かされた後化粧をされ、真新しい白いドレスが差し出される。

だが、下着から着方がわからない。聞けば着てきた服や下着は洗濯に出されたという。

後から絶対に返してもらうように頼んで下着の着方を教わって自分で着た。服は下着以上に着方がわからなかったので、仕方なく着付けてもらうようにお願いをするしかなかった。


用意された服は、司祭服のような肌触りの良いロングドレスで聖女が着るに相応しい気品がある。


ー汚すのが怖くてなにもできないわね。これ着る前にお化粧をされてよかったわ。


鏡に映る自分を見ると、最近は祐樹にしか見せていなかった黒みがかった緑の目の自分がそこにいる。会社ではいつもは顔を隠すように垂らしていた髪はハーフアップにされて、まだなにも恐れずに笑っていた昔を思い出させる。違っているのは、軽く白粉がはたかれ淡い紅が唇にのせられるくらいだ。



「お美しいですわ。聖女様」

満足げな女官達に、エリカは曖昧に笑って礼をいうと王からのお呼び出しがあるまでお部屋でおくつろぎくださいと告げられた。



豪華な部屋の窓辺にある一人掛けのソファに腰をおろす。部屋の隅には若い女官が二人静かに控えていた。

一人にはさせてもらえないらしい。


柔らかなソファに身体をあずけると、どっと疲れが押し寄せてきた。


ー眠くなってきたわ。夢の中で寝て目が覚めると現実よね。どうしよう。貧血を起こしたって言おうかな。なにも聞いてないってふりして、体調不良で退社したいって……。契約途中の退社はペナルティだったっけ。もういっそ契約会社ごと変えようかな。祐樹にも松沢さんにも会いたくない。……無責任かな。でも、もう全部…全部いや…。


ぐるぐると駆け巡る考えに翻弄されつつ、こんどこそ本当に絵里香は意識を手放した。





「まことに、召喚させたのか」

「はい。成功させました」

父からの問いかけに、誇らしげにジュダスは答えた。


「よくやった。これでそなたは真の後継者となった」

ヴァロワ王国の後継者となるには、聖女召喚を成功させた者しかなれない。



それはこの国の初代王と聖女に由来する。

魔物が跋扈するこの世界は、常に魔物の脅威に脅かされてきた。ある国はその為に軍備を整え、ある国は冒険者たちを抱え魔物に対峙していた。

その中で、まだ国とも言えなかった小さな集落に生まれた男が、皆を守れるようにと魔物との戦いの後、強く神に祈りを捧げていた。


その時、目の前に見知らぬ女が光に包まれ現れた。

女は魔物の話を聞き、集落の周囲に祈りを捧げた石を置いて回った。それから不思議と集落は魔物に襲われなくなった。

男は苦労の末、周囲の集落をまとめ初代王となり、女は聖女と呼ばれるようになる。深く愛し合うようになった二人は力を合わせ、この国の礎をつくったのだ。


だが、聖女は若くして原因不明の病の床につき亡くなってしまう。


初代王は嘆き悲しむが、残された息子を慈しみながら育てた。息子が成人した頃、母であった聖女の力が薄まったのか、また魔物に国を襲われるようになった。


息子が、父が母と出会った場所で祈りを捧げたところ、再び聖女が現れた。


その聖女が、初代聖女が残した石に祈る事により、再び魔物を遠ざけた。そして聖女を呼び出せる者が次代の王となり、祈りを捧げた場所が『召喚の聖域』と定められたのだ。

それがこの国の建国の始まりの歴史となり、以来約1000年代々の王が聖女を召喚することでこの王国の平和が続いている。


そして、今日。

ジュダスは、何度かの不調を重ねたが聖女召喚に成功し次代の王になることが確約された。



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