『イベントまで10分!』
絶対なんかあるだろ!その顔はなんだよ!
「どうした?朱季」
「いや?別に〜?」
嘘つけよ…。
「なぁ?うちの姫さまがご機嫌斜めなんだ、後にしてくれないかな?」
俺はゆっくりと祐磨を見る。男は「うぅ〜ん…」と唸ってからため息を吐く。
「………わかった、今日はやめとこう」
「そうか!そうしてくれると助かる!」
コイツ……ちょろい!
俺はすぐに朱季を見る。
「どうした?」
「だって…全然違うんでしょ?」
俺は首を傾げる。
何言ってんだ、実際付き合ってないだろ。
でもここでそんなことを言ってしまえば、俺にもこのショッピングモールの人にも被害が出る。
それだけは避けたい!絶対に。
「悪かった!恥ずかしくてさー!」
「ほんと?」
目を輝かせないでくださいっ!
きらきらと輝いている瞳が俺の姿を反射する。後ろに祐磨が見えた。俺は瞬時に振り向き、拳を受け止める。
「ただイチャイチャしてるだけじゃねぇか!!ぶっ殺す!!」
「ハァッ!?どこが?!この場にいて命があることに感謝しろよぉ!!」
俺たちの絶叫が周りに響き渡る。
周りで笑っている人、本当に感謝してください?この女ゲーム起動させずに殺しにきますよ?
***
俺たちはファミレスにきて、各々ドリンクバーのジュースを飲んでいる。目の前で俺たちを睨んでいる男と話し合うためである。
「祐磨は俺たちを知ってたのか?」
「ん、雄介には悪いがお前のことは知らない」
あ、そう。傷ついてないですよ。別に。
ということは狙いは朱季か。
「なんで朱季を?」
俺が言うと、祐磨は「はぁ?」と首を傾げた。俺は何かまずいことを言っただろうか?
「それを知らないで関わってたのか?わかった。お前ビギナーだな?」
祐磨は俺のことを指差す。
「そうだけど?そんな有名なの?」
「この女はなぁ、一年前に20人いたクランを一人で壊滅させたんだよ!」
俺が朱季の方へ目を向けると朱季は胸を張っている。
胸を張るな。おい、こら。
どうやらクランを壊滅させることはそのクランと同盟を組んでいるクランも敵に回す行為らしい。そんな朱季の実力を見たいから戦ってみたいということだった。
「でもあんたさぁ?」
隣でスマホを突いていた朱季が口を開く。
「イベント参加者よね?調べたら名前も挙がってるし」
「おう!そうなんだ!倉咲もイベント参加者だったな!」
「いやイベント参加者が自分からバトルしに来るとかありえないっしょ」
朱季の鋭い言葉が炸裂。
しかし実際、その通りである。イベントに参加しただけで普通は凄いことらしい。それの前にバトルを行うとはよっぽど自信があるか、命知らずかである。
「あー!そうだな!たしかに!!」
祐磨がケラケラと笑う。俺と朱季は祐磨の言葉を聞いて察する。
こいつ………。大バカだ!
「じゃあ祐磨。イベント中、俺たちに協力してくれ」
「ん、おう?別にいいがクランがあるのか?」
「いや、ない。俺たちの協力関係は薄っぺらいが信じてほしい」
ここでこいつを仲間に入れるべきだ。そんな気がする。朱季は少し驚いたような顔をする。イベントを朱季頼みで切り抜けられるとは思っていない。保険は増やすべきだ。
「面白いな!お前!いいぜ!協力する!」
「…ありがとう」
俺は祐磨と握手を交わして、協力関係が成立した。
***
祐磨と協力関係を結んでから2週間が経過していた。俺は二人とバトルしたことで初心者の中ではポイントの量がとんでもないほどあるらしい。
ゲーム内のショップでレア度の高い武器は買えないが、戦闘中に武器を購入しても余裕はある。
「能力がメインの戦いになるから武器って思ったより要らないよな」
俺がぼやくと祐磨が振り返る。
「そうでもないぜ?武器があってこそみたいな能力もあるしな!」
「へえ、そうなのか」
「おう、有名なのはナイトメア・ファングだな!クランリーダーが日本ランキングで1位なんだよ」
よほど有名なのか、朱季もうんうんと頷いている。
「そのリーダーがそんな能力なのか?」
「いや、それは幹部だな。武器の扱いが達人級の女がいるんだよ。逆にクランリーダーは表に出てこないから弱いっつう噂もあるな!」
どうやら色々なクランが存在しているらしい。
イベントは1週間後に迫っていた。
〈情報屋視点〉
静かな部屋でマウスのクリックをした。パソコンの画面にはある3人組が映し出されていた。
異様な3人としか言えない。
倉咲朱季。ゲーム歴が短いのにも関わらず、能力の使い方を素早く理解し、力で劣る分、手数で戦う。柔軟な発想を実現できるポテンシャル。
佐藤祐磨。目立った結果こそないが、戦いになった時に広い視野を持つ。立体的な戦いをする。
ただ……それと協力している男。玄野雄介。初バトルでビギナー狩りのスラッシュを倒した。スラッシュと同じようなエネルギー斬撃。
この人は何者なのだろうか?
〈雄介視点〉
『イベントまで10分!』
俺たちに通知が届く。
朱季はニコッと口角を上げる。
「いよいよだね!雄介」
どうやら楽しみらしい。俺と祐磨はイベント初出場だが、朱季は過去に2回、イベントに参加している。
イベントは街ひとつを丸々巻き込んで行われる。規模が小さくなっていなければ、今回もそうだろう。
俺は準備していた荷物を全て持ち、立ち上がった。
「よし、行くぞ!」
俺が叫ぶと祐磨と朱季が頷く。俺の視界がぐにゃりと歪む。そこからゆっくりと暗転していく。そして俺は気づけば、道路のど真ん中に立っていた。




