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このゲームを知りたくない?

 この"ゲーム"をプレイして1週間が経過した。

 1週間が経った今でもこの"ゲーム"については謎が深まっていくばかりである。


「なんだこれ?ガチャ?」


 あの殺し合いのサポートでもあるってのか?

 俺は慎重に『ガチャる』をタップする。

 画面がコミカルなガチャガチャの絵に変わり、後ろで花火が3発弾けてからガチャガチャのハンドルが回り、紫と白のカプセルが出てくる。

 『タップ』が出てきて押すと、白黄色の光が飛び出して、カプセルが開く。

 結果は…。


 『フォトンブレード プラチナ』


 プラチナってことは結構いいのか?

 でもなんの役に立つんだろう?


 そんなことを思っているとガチャンと玄関の方で音がなる。

 なんだ?Amazonでなんか頼んでたっけ?


 玄関のドアにある郵便受けを開くと、そこには段ボールの箱が入っていた。

 ガムテープを剥がし、中を見ると、手紙が入っていた。


玄野(くろの)雄介(ゆうすけ)様へ

 この度は"ゲーム"をプレイしていただきありがとうございます。

 本日はガチャ機能でプラチナを排出した玄野様の豪運を記念して、フォトンブレード以外にもエネルギーライフルも同包する運びとなりました。

 組み立て方は裏に記載されています。

 よく読んで組み立ててください。

 今後ともこのゲームをよろしくお願いします。

 ゲーム運営』


「………」


 恐る恐る、箱の中身を見ると黒とメタリックシルバーの円柱状の物と黒い袋に包まれた銃のパーツらしきものが入っていた。


 俺はフォトンブレードのグリップらしき円柱を手に持つ。

 ズッシリとした金属の重みが伝わる。

 マイクのスイッチのようなボタンを発見し、それをオンにしてみる。


 ウ"ォ"ン"!


 青紫の光が一瞬にして刃のようなモノを形作る。

 光に手を近づけると、火傷しそうな程の熱を持っている事が分かった。


ロマンあるし使ってみたかったけど本当に…。


「…実在するんだな。」


 問題はこのパーツか…。

 まぁ、これはデカそうだし今はいらないだろう。


 そして1番の悩みの種となっているのが、昨日匿名で届いたこのDMである。


『このゲームを知りたくない?』


 え?殺害予告?


「もうやだ…このゲーム」


 俺はベッドから起き上がり、コップに水道水を入れて飲む。

 あの日から食事が喉を通らなくなり、4kgも痩せた。

 だが、まぁ今は少しだけなら食欲もあるし、時間が解決をしてくれるのだろう。


「…はぁ、あの人みたいになりたくはなかったんだけどな」


 俺はぼそっと呟く。


 俺は裁かれないとはいえ、もう人殺しだ。

 俺の手には命が失くなるあの感触が残っている。

 もう殺したくないし、死にたくもない。

 この"ゲーム"もアンインストールできない。

 足を洗うことも、忘れ去ることもできそうにない。


 俺は生きたい。なんとしても。

 俺はこの"ゲーム"の有識者から知識を貸してもらうしかない。

 匿名の最高に怪しい、同時に相当な有識者であるはずのこの人に会ってみたい。




***




 今日の午後9時半にメッセージの送り先と会うことが決まった。


 今更になって怖くなってきちゃった。

 どうしよう?

 親が怒っちゃうよ。


 スマホがポケットで震えた。

 俺はスマホを出して、通知を開く。

 どうやら、今日の密会のルールが送られてきたらしい。


 武器の持ち込み禁止。

 信用できない場合は殺す。等の合計17個のルールが送られてきた。


 うーん?この感じ、バトルさせられる状況も全然あり得るよな?

 よくよく考えてみれば、命が簡単になくなってしまうゲームなのだから"スラッシュ"みたいな初心者狩りでポイントを稼ぐ人間も多いはずだ。


 簡単な武器くらいは携帯してた方が身を守れるかもしれない。

 リスクはあるが、丸腰よりは遥かにマシだろう。

 フォトンブレード(これ)を持って行こう。

 そんなこんなで準備が終わった。


 時計を見て、俺は玄関を出て、CBR250RR(バイク)に掛かっているヘルメットを被り、バイクを跨ぐ。


 俺はエンジンをかけ、暗くなり始めた街を照らしながら走り出した。


 ちなみに校則違反だからマネすんじゃねーぞ!




***




「………着いた」


 俺はヘルメットをはずして、バイクから下りる。

 会う場所はこの薄気味悪い倉庫である。


 俺は一度大きく息を吸って、吐き出す。

 俺の心は平常心を保っている。大丈夫だ。


 倉庫に入ってくる月明かりを頼りに進むと、5メートル程先に、人影を見つけた。


「………君がクロノユースケくんだね?」


 声は女性のものだった。

 高くて、優しい声。

 コツン、コツンと足音が空気を震わせる。

 俺は額に流れる冷や汗を拭って、言った。


「…はい、玄野雄介です」

「私は倉咲朱季(くらさきしゅき)、よろしく」


 倉咲朱季が名前を名乗り終わったと同時に月が彼女の顔を照らした。

 ボブヘアーで艶のある明るめの茶色の髪。

 透き通るように白い肌。

 少し垂れ下がった目。

 簡単にいえば、超がつく程の美人。


 こんな人がこの殺人ゲームやってるなんて考えらんねぇよ。


「あの、"ゲーム"について教えてくれるんですよね?」

「うんいいよ。でも今から少しだけ質問をさせてもらうよ?

君どんな能力を貰ったの?」


 能力ってのは"スラッシュ"を殺したあれのことだろうか?


「能力は…ある、けど今使えるかどうかは知らない」


 俺の言葉に倉咲は首を傾げる。


「それは蓄積系ってこと?ダメージ受けないと発動できないとか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…この前はなんか咄嗟に出たみたいな感じで…」

「………ふーん」


 まずい。怪しまれただろうか。

 でも仕方がない。事実なのだから。


「ちょっと試してみる?」

「いや、スマホにあるはずだよ?開いて"ホーム"の"スキル"の欄に何かあるでしょ?」


 スマホをポケットから出して見てみる。

 …何も書かれていない。

 なんだ?嘘の情報か?


「えっと、何も書かれてないんだけど…?」


 俺がチラッと倉咲を見ると、何か赤黒い物が飛んできていた。

 俺はしゃがんでそれを避ける。


「なに…!すんだよッ!?」


 俺が叫ぶと、倉咲はクスリと笑う。


「君のバッグから光剣落ちてきたじゃん。

やっぱり…。私言ったよね?信用できないなら…殺すって?」


 クソが!フォトンブレードを落とすという大失態。これはもう、巻き返すのは不可能に近い。

 逃げるしかない!


 フォトンブレードを拾って走り出したが、即座にシャッターが閉められて、この倉庫に閉じ込められた。

 俺は倉咲に向き直る。

 倉咲の手から血が吹き出し、それが一瞬で固まり、クナイのような刃物を形作る。


「あと何秒生きてられるだろうね?」


 倉咲は俺を睨みつけて言う。

 倉咲はスマホを操作し始める。

 その後、俺のスマホから音が聞こえた。


『GAME START !』


 視界が歪むあの浮遊感が俺を襲う。




***




 歪みがなくなった瞬間、倉咲は俺との距離を詰める。

 俺は倉咲の右手に握られているナイフを躱す。

 倉咲は驚いたような顔をして、俺を見る。


「危機察知の能力でもあるの?タイムアタックの最高記録は越せないなー?」


 倉咲は楽しそうな笑みを向けて、俺にナイフを突きつける。

 ナイフは倉咲の手元でトンカチに姿を変える。

 俺は倉咲との距離を取る。


 武器を作るだけなら、武器の間合いを考えてさえいれば、当たることはない。

 逃げ切れるはずだ。


 倉咲は俺を見て口角をクイっと上げた。

 途端、倉咲は俺の懐に潜り込んでいた。

 倉咲の強烈な膝蹴りは俺の鳩尾に入った。


「ッ!がはぁッ!」


 俺は転がりながら、吹っ飛ばされ、倉庫に置いてある段ボールに突っ込んだ。

 一瞬、呼吸ができなくなりパニックを引き起こす。


「勘違いしない方がいいよ?私の能力は単純(武器を作ること)じゃないから…」


 倉咲は倒れ込んでいる俺を嘲笑いながら言った。


 今のはなんだ?

 動きがさっきまでとは格段に違う。

 今のをずっと使ってくるようなら俺に勝ち目はない。


 俺はフォトンブレードのグリップを握って、立ち上がる。

 俺はフォトンブレードのスイッチを入れて、青紫の光を出現させた。


「アハッ!ヤル気になった?」


 余裕のある倉咲に対し、俺には全く余裕がない。

 倉咲はクナイを生成し、俺に投げてくる。

 俺はフォトンブレードでクナイを斬る。


「死んでたまるか…!」


 荒い呼吸を繰り返しながら、俺は天井を見る。

 天井から鉄パイプが大量に落ちてきていた。

 元々、天井にあったパイプが先ほどからの衝撃で落ちてきたのだ。


 このままなら倉咲に落ちる。

 そうすれば死には至らないだろうが、きっとダメージにはなる。


 でも……。


 俺は地面を蹴り出し、倉咲に覆い被さるような形で庇う。


 ガッララァァンッッ!


 けたたましい音とともに背中に物凄い衝撃が流れる。


「ッ痛!」


 音が鳴り止んですぐに俺は倉咲が下敷きにならない所にぶっ倒れる。

 倉咲は信じられないというような面持ちで俺を見ている。


「大丈夫か?」

「なんで?庇うの?」

「………あぁっと、なんだろ?身体が勝手に動いたんだよ」

「…変な奴」

「失礼だなぁ、お前」


 俺は途切れそうな意識を紡ぎながら言った。

 身体が全く動かない。

 こりゃ殺されるか。


「クロノユースケ、君を今から殺す」

「おぉ、勝手に殺れ!もうどうでもいいわ」


 俺は天井を見ながら、薄れていく意識の中で言う。

 敵(美少女)を守って、死んだバカな男になってしまった。




<倉咲朱季視点>




 最初はただの興味本位だった。

 ランキングから"スラッシュ"の名前が消えていることに気づいて、ビギナー狩りを殺すなんてどんな人なのかと思っただけだった。

 "情報屋"からはクロノユースケという本物のビギナーが殺したと聞いた。


 ただのラッキーで勝ち上がったのかとも考えはあった。

"スラッシュ"はそんなラッキーで倒されるタイプでもないため、少し気になってDMをしてみた。


 私に会うことを選択してきたこのクロノに興味が湧いた。

 この男はただのラッキーではないのかもしれない。

 私の直感はそう告げていた。


 実際に会って、その直感は確信に変わったのだ。

 この男は人殺しとして生きることを決意した目をしていたから。

 クロノはきっと私を楽しませてくれる。

 私を殺すところまでいくかもしれないと心から期待した。


 本性を見せろ…!

 はやく…!はやく…!

 その光剣で私を楽しませてみせろ!


「大丈夫か?」


 この男はあろうことか相手のダメージを自分のダメージにした。

 理由は身体が勝手に動いた?


 ありえないよ。認めないよ、そんなの。

 殺すと言ったのに。


「おぉ勝手に殺れ!」


 本当に意味分かんない。


 …でこうしてクロノを助けようと必死で身体能力強化を使っている私が一番意味が分からない。


 "ゲーム"はバトルを私の降参(サレンダー)にしたのだ。ポイントも多少減少してしまった。


 でも、不思議と嫌な気持ちはない。


 私はクロノ…いやユースケを背負っている。

 私はいつもより熱い顔で笑みを溢した。


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