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このゲームをプレイしよう!

「おい、玄野(くろの)!遅刻だぞ!」

「はいぃ!すみません!」


 今日の朝から俺、玄野雄介(ゆうすけ)は怒鳴られていた。

 何故って? 上読んでください。上。

 遅刻しましたよ。ガッツリ。


 俺は今日、少ぉしだけ寝坊して、制服を着てゼリー飲料を飲みながら駅に急いでいると、DQNギャル達の無駄に大きな声が聞こえてきた。


「この時間に駅までダッシュとかモテなくね!?」

「ギャハハ!」


 その言葉を聞いた俺は、恥ずかしくなってそこから歩いて駅に向かったらそのまま乗り遅れました。

 畜生…。

 普通に走ればこんなことにはならなかったんだ。多分…間に合ったはず…。多分ね?


 それで次の電車に乗って現在に至る。

 説教でこってり絞られた俺は、教室の自分の席にため息を吐き出しながら座る。


「なぁ、太一(たいち)のこと知らないか?今日学校にいないみたいなんだ」


 と歩夢(あゆむ)が言ってくる。太一と同中でいつも一緒に行動している。

 俺と太一は歩夢ほどではないが仲が良い方である。


「や?俺ぁ知らねーよ?」

「…そうか」

「どーしたよ?そんな心配なのか?」

「最近行方不明者がめっちゃ多いだろ?

 不安になっちまってよ」


 1年ほど前から日本では行方不明者が続出している。1日に平均14人が忽然(こつぜん)と姿を消している。

 警察も捜索を進めているらしいが、何も掴めていないらしい。

 身近な奴が行方不明になることも稀ではあるが、あり得なくはない。

 俺は太一が行方不明になってしまっているのではないかという不安をかき消すように、スマホを取り出す。

 スマホに届いていたLINEの通知を見る。


「いや、大丈夫だよ!」

「?…なにが?」

「ほら、アイツ真夜中に俺にゲームの招待送ってきてやがるよ!だから気にすんなって!」

「あぁ、そうだな!」


 強張っていた表情が多少は柔らかくなり、笑みを浮かべて自分の席に戻っていった。


 それにしても…このゲームなんだ?

 タイトルは"ゲーム"としか書いていない。招待文も詳しいことは一切書かれていない。

 俺は"確認"を押して"ゲーム"の詳細を見てみる。


『このゲームをプレイしよう!自分の能力を駆使して敵を倒そう!』


 としか書かれていない。アイコンは真っ黒の背景に大文字のGのみ。


 マジでどんなゲームなんだよ…?


 俺はその不気味さと好奇心に負け、ゲームをダウンロードする。


 まぁ、面白くなかったらやめれば良いし。


 【TAP TO PLAY】を押す。どう見てもただのスマホゲームである。さすがにビビりすぎだろうか。


 ぐわんっ。


「ッ?」


 目の前が歪んだ。視界が真っ白になっていく。気持ち悪い。グラグラと今にも崩れてしまいそうな世界に閉じ込められたような感覚に陥る。

 俺は必死で吐き気を我慢していると力が体から逃げていって座っていることすらできなくなってくる。

 そして、俺は______。




***




 ゆっくりと目を開ける。体を起こして辺りを見回す。

 どうやら保健室のようだ。

 視界が歪んだところから記憶がぼんやりしている。


「あら?起きたの?大丈夫?」


 白衣を着た女性に話しかけられる。保健室の先生だ。


「あ、はい」

「今日、朝から具合悪かったの?」


 先生は特徴的なおっとりしたペースで会話を続ける。


「いや、いきなり視界が歪んで…」

「今はなんともない?」

「はい、大丈夫です」

「そう、念の為に今日は早退してね?できる限り早く帰って休んで?」

「はい、すみません、ありがとうございます」


 俺はベッドから出て、引き戸を開ける。


「玄野くん、お大事に」


 俺は先生の笑顔に会釈だけして、保健室を出ていく。

 今日はもう疲れた。早く帰ろう。

 教室に入って自分の席にある黒いリュックサックを背負う。


「おぉ玄野早退か?お大事になー」


 俺は教室から出る。

 昇降口でサンダルからローファーに履き替える。

 校門を通り、学校を出る。

 太陽に照らされてチラチラ光るアスファルトを歩いていく。

 駅で改札をくぐり、電車を待つ。

 電車に乗り込む。正面には70はいってるであろう老人が座っている。周りにもスーツを着たサラリーマンが数人いる。

 電車はアナウンスの後に進み始める。


 俺はスマホを開く。俺は"ゲーム"をタップしてスタートさせる。


 あれ?俺、アカウント登録なんかしたっけ?

 『NAME:クロノユースケ』

 俺はそんな疑問を抱えながらもどんなゲームなのかを知るために『バトル開始』を押す。


 『マッチング中…』

 『完了!』


 そこに表示されたのは…。


『クロノユースケVSスラッシュ』


 インターネット対戦のゲームのようだ。ゲームのカウントが始まる。


『3...2...1』

『GAMESTART!』


 その瞬間、学校で起こった【歪み】が起こる。




***




 少し下を向くと、すぐに収まった。俺はすぐに正面を向いた。そこで気がつく。


「あれ?…誰もいない?」


 さっきまで周りにいた人たちが1人たりとも見当たらない。

 俺の額に気持ちの悪い汗が流れる。

 左の車両から足音が聞こえる。よかった、人がいるみたいだ。


「ん?おぉ…いたいた」

「あの?!」


 男は俺にナイフを向ける。


「よぉ、俺ぁ"スラッシュ"。お前ぇこのゲーム始めたばっかか?」

「…?だったら何ですか?」


 "スラッシュ"はケラケラと顔を歪ませる。

 電車のドアが開く。駅に着いたようだ。


 ともかくコイツがヤバいってことはわかった。

 ここは…とりあえず逃げる!


 俺は"スラッシュ"を振り切り電車から降りるが、すぐに足を止めた。

 ホームには手足のない人や槍が串刺しになったまま放置されている人の死体などがそこら中に、散らばっていた。


「…なんだ………これ…」

 

 別の世界に来たと言われても信じ切れる程には異常な光景だ。

 俺は胃から持ち上がってくるモノを必死で我慢して、俺は血にまみれたホームを走り始める。

 改札を乗り越えて、駅中を走り続ける。


「とりあえず、ここまで来れば大丈夫だろ…ッ」


 俺はゼェハァと激しい呼吸と心音を落ち着かせる。俺がくるりと後ろを向くと20メートルほど先にゆっくりと歩きながらこちらに向かってくる"スラッシュ"の姿があった。


 俺の場所がアイツにバレてる…。

 

 "スラッシュ"が少しずつ近づいてくる度に、俺には恐怖が蓄積されていく。

 呼吸が荒くなり、冷や汗が全身から滲み出る。膝が笑い、ガクガクと小刻みに振動する。


「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」


 逃げなきゃ…急いで。

 俺が"スラッシュ"から逃げるために背を向けようとした時、"スラッシュ"の気怠げで、妙に落ち着いた声が耳に届く。


「逃がさねーよ、もう」


 気怠げで低い声音だが、圧倒的な意志の強さを感じた。

 その瞬間、"スラッシュ"のナイフに光が宿った。


 …触れたら死ぬのだろうか。


 俺は直感的にその問いがYESであると悟る。

 俺の周りの時間が止まったような錯覚に陥る。

 脳内麻薬がドバドバ出てるからなのか。

 ストレスで身体もぶっ壊れたか。


 まだ、死にたくない______。


 その想いに応えるかのように俺の身体が身勝手に動く。

 まだ死ねない、死にたくないのだ。

 "スラッシュ"が右手を上から下に振るとオレンジに灯るエネルギー波のようなものが飛んでくる。

 どんなファンタジーも今なら納得できるな。

 俺はそれを左方向に飛び跳ねて、避ける。

 とりあえず走るほかないだろう。逃げて勝機を見つけて叩くしかない。


 俺はすぐに立ち上がり、走り出す。

 "スラッシュ"も今度は走って俺を追ってくる。

 俺は駅を抜けてすぐそこにあるデパートに入る。


 "スラッシュ"の飛ぶ斬撃はどうやら物には干渉できないらしい。

 "スラッシュ"の飛ぶ斬撃は壁や段ボールでも防ぐことができる。

 俺は積み重なった段ボールを盾として屈む。

 俺が"スラッシュ"に近づきすぎなければ、大丈夫なはずだ。


「ケハハッ!お前ぇ、俺様の斬撃が物を壊せないと思ってるだろ?」


 "スラッシュ"は俺に上機嫌に話しかけてくる。

 俺はその問いかけには応じず、黙って"スラッシュ"の話に聞き入る。


「違うんだよ…俺の斬撃の本当の力はッ!」


 オレンジに光り輝く斬撃が俺の真横の壁に当たった。

 斬撃は壁を反射して、俺の方へと飛んでくる。

 俺はそれに反応することができず、右腕が切断された。


「ッ!?うがああぁぁぁ!!」


 腕がっ!

 いたい、いたい、いたい、いたい、いたい。


 俺は血が溢れ出してくる右腕を押さえて悶絶する。


「アッヒャヒャヒャ!」


"スラッシュ"は耳が痛くなるほどの大声で笑う。

 くそっ、くそっ。


「フゥー!フゥー!」


 呼吸だけで精一杯だ。

 涙が溢れてくる。

 痛みで頭がおかしくなりそうだ。

 血を垂れ流しているせいで意識が朦朧としてくる。


「トドメだッ!」


 俺を確実に殺すために"スラッシュ"は距離を詰めてくる。

 俺には何が起こったのかわからなかった。

 ただ気がつけば反射的に左の掌を"スラッシュ"に向けていた。

 その瞬間"スラッシュ"の上半身と下半身は綺麗に裂けて、地面に転がり落ちる。


「……あっ。えっ?」


 "スラッシュ"も何が起きているのかわかっていないみたいだ。


「テメェ、騙したのか?俺がお前なんかに負けるわけねガボァ!!」


 "スラッシュ"は血の塊を口から吐き出す。

 "スラッシュ"が。この男が死んでしまう。

 目の前にいる男が、着々と死に向かっているということは誰がどう見ても明らかだった。


「クソッ、クソ餓鬼ィ!」


 殺意の消えない瞳が俺を睨みつける。

 だがその目は段々と死への恐怖へと歪んでいく。


「まだ…死にたくねえ。まだ……終わって、ね…ぇ」


 弱々しくなっていく"スラッシュ"は哀れとしか言い表せなくなってしまった。

 "スラッシュ"は少しずつ呼吸する回数が減ってきていた。

 もう喋る余裕すらないらしい。

 そして完全に動かなくなった。


 トクン。


 俺の視界が歪む。




***




 視界の歪みがなくなる。

 人が見える。ざわざわと騒がしい、いつも通りのデパートが広がっていた。

 目の前にあった"スラッシュ"の死体はなくなっていた。


 俺は痛みのなくなった右腕を見る。

 治っている?

 先程"スラッシュ"に切り落とされた腕がついている。

 腕には傷一つなく、いつもと同じ俺の腕だった。

 スマホの通知が鳴った。




『YOU WIN!


 WINNER:クロノユースケ

 TIME: 13:27


 〈獲得ポイント〉

 5670P

 ※スラッシュの全ポイントがクロノユースケに譲渡されました


 〈損失ポイント〉

 0P

 ※自分の総ポイントが0以下になるとポイント全損処置が適応されます


 その他 バトルの見直し』




 俺は一番下にある『OK』を押した。

 天井を見つめる。

 今はもう命を狙われることはないだろう。

 ただ俺は人を殺めてしまったことばかりに頭がいっていた。

 俺は裁かれるのだろうか。

 こんな狂った話、誰も相手にしてくれはしないだろう。


 今は圧倒的に情報が不足している。これを知る必要がある。




***




 少女はランキングを見ていた。

 そこで気づく。最近初心者(ビギナー)狩りをして順位を少しずつ上げていた"スラッシュ"がいなくなっていることに。

 "スラッシュ"はどうやらルーキーに負けて死亡したようだ。

 少女は電話をかける。


「あっもしもし?"情報屋"?最近ルーキー狩りを殺した人のこと教えてもらっていい?」

『"クロノユースケ"のことですね。初バトルにしていきなり能力を使ったそうです。

 "クロノユースケ"はそこから全く進展がないので情報はこれが限界です』

「ありがとう!十分よ」


 少女は電話を切り、クスッと笑った。


「クロノユースケ、ユースケね?」


 少女はルーキーへの期待を胸に、スマホを閉じた。


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