祭りのお誘い
「花祭り?」
育った畑の野菜を収穫していると、ジジババたちが明日は祭りがあると教えてくれた。
「そうじゃ。せっかくの日だしのう。畑は大丈夫なんで明日族長と行ってきたらどうじゃ?」
恋人たちの祭りだからのう。と、婆さんがひっひと笑う。んー、と2つに結んだ髪の毛先をいじりながらリルリアーナは考えた。
「でも私、カイゼルさんの恋人じゃありません。それに多分、他に誘う女性の10人くらいいそうじゃないですか」
特段それを気にするようでもなく当たり前のようにリルリアーナが言うと、周りで様子を伺っていた青少年たちが群がってくる。
「恋人じゃないんですか!?」
「じゃあぜひ俺と祭りに行きませんか!?」
「俺!俺とぜひ!毛繕い得意です!」
「俺!この中で俺が1番尻尾が長いです!」
つぎつぎにアピールが始まってゆく姿にリルリアーナは驚いた。
「え、え。あの、私髪の毛しかないです。尻尾、長いんですか?えーと、えーと」
大柄な獣人たちに囲まれあわあわと慌てるリルリアーナだったが、そこでひょいと後ろから手が伸びた何者かに持ち上げられた。
「最近畑にやたらと若い手伝いが増えたと聞いてきたら、案の定だったな」
「「族長!!」」
「カイゼルさん!」
そのままリルリアーナはくるりとカイゼルに向き合うように抱き抱えられる。
「お前らは畑の手伝いに来たんだろ?だったら働く働く!」
リルリアーナを抱き上げたまましっしと男たちを追い払うカイゼルに、やっべ見つかった!ずりぃよー!と口々に言いながら若者たちは散らばって行く。
「カイゼルさん、土がついちゃいますよ!」
「いいよ別に。それよりさリルちゃん。花祭りのお誘いに来たんだけど、俺と一緒に行ってくれないかな?」
「え、でもカイゼルさん、誘う女性が他にも15人くらいいるんじゃ…」
割と本気で言っていそうなリルリアーナの手をさり気なく自身の首の後ろに回しつつ笑うカイゼル。
「いないよそんなの!俺が明日誘うのはリルちゃんだけ!これ本当!」
「ふふっ!じゃあ連れて行ってください」
『明日』誘うのは自分だけ。これが『一生』とか言っていたらきっと断っていた。運命なんて信じないリルリアーナにはこれくらいの方が安心する。
「カイゼルさんは正直だから好きですよ」
「俺もリルちゃん好きだよ!じゃあ恋人になろ?」
「それは嫌です。恋人は誠実な人がいいです」
ひどいなー、じゃあ誠実だと思ったら付き合ってよー。などと言いながらカイゼルはリルリアーナを抱きあげたままクルクル回る。
きゃっきゃうふふとする2人を遠目から見つつ銀狼の若者たちはぼやく。
「あれで付き合ってないとか…」
「族長めっちゃ首触らせてるじゃん」
「しかもなんか今日とかリルリアーナさんからめっちゃ族長の匂いするんだよなー」
「それな。あれ絶対マーキングしてるよなー」
「いいなぁ〜…」
そのまま遠目に見ていると、カイゼルが笑いながらリルリアーナに何かを囁く。すると彼女は顔を赤くして小さく頷いた。そして今度は彼女からカイゼルの耳元で何か囁いている。照れたように笑うリルリアーナの表情は先ほどとは全然違った。
「….いや、まぁ狼としては尊敬しかないけどさ」
「族長の見事な狩りを見せられた俺たち…」
はぁぁぁぁ、と長い長いため息をつき、若者たちは畑作業に戻るのだった。