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狼と不穏な噂

街は依然として賑わっていて、情報収集にはもってこいだ。まぁ領内はいつもと同じで、特に変わった様子もなさそうだが。それでも把握しておくのは族長であるカイゼルの仕事の一つだ。


「最近変わったこと?この辺では特にないねぇ」

「あ、でも帝都の方では何か騒ぎがあったらしいよ。龍帝陛下が城を半壊したって」

「自分の城を??」


領地から領地へと渡る商人たちに街の外の情報を聞くと、そのうちの1人からよく分からない物騒な話が出てきた。


「ほら、数年前に三ツ鳥族が陛下の怒りをかって絶滅したろ?あの時みたいにどこかのアホがやらかしたって話だよ」

「うわ怖!一体何して怒らせたんだよ?」


商人の言葉に身震いしながらカイゼルは聞き返すも、商人はうーん、と首を傾げて唸るだけだ。


「いやそれが俺も命からがら逃げ出してきた商人仲間に聞いた話だからはっきりしないんだよ。そいつの知り合いの胡散臭い魔道具師が龍の炎で燃やされたとかなんとか…」

「魔道具師?確かにまたそりゃ胡散臭いな。燃やされたのはそいつだけなのか?」

「いや、よく分からんが龍族の何人もが粛清されたらしい。陛下はかなりお怒りになっていたとかで、惨殺した後骨すら残らなかったとか何とか」


俺は巻き込まれないで良かったよー、と対岸の火事とばかりにいう商人。ちなみに城は今猛スピードで再建中らしい。長い時を生きる龍たちにはかなり優れた大工や職人たちがいるようだ。


「いやほんと何やらかしたか知らんが陛下怒らすとかアホだよなー。俺だったら絶対逆らわないもん。超こえーじゃん、もう無理無理!」


ははは!と笑いながら言うカイゼル。商人も、だよねーと返す。力こそ全てな獣人にとって、圧倒的強者すぎる龍帝陛下はもはや畏怖の象徴なのである。


「カイゼル様もうかつに無礼な真似しないようにしてくださいよ」

「へーい。ま、そもそも新年祭とか公式行事くらいでしか会わないし…ってあれ?」


ゼフに話しかけられ振り向くカイゼル。ふとその横に3分前まではいたはずの人物を探す。


「リルちゃんは?」


――


「可愛いねー、君1人?」

「銀狼族じゃないよね?震えてて超可愛いー!」

「え、え…あの…」


大柄な銀狼族の男たちに囲まれて狼狽するリルリアーナ。街の物珍しさにきょろきょろフラフラしていたらいつの間にかはぐれてしまったらしい。


「お昼ご飯まだ?だったら俺たちと…」

「はいそこまでー!」


リルリアーナに近寄っていた男たちとの間にサッ!と何者かが割って入ってくる。


「カイゼルさん!」

「わ!族長!?」

「ごめんねー、この子俺の連れだから」


割って入ったその人物、カイゼルはリルリアーナの肩を抱きながら銀狼たちに飄々と言った。それに対して男たちの反応はというと…


「なんだよー、族長の新しい女かよー」

「どこでこんな可愛い子見つけたんすかー」


ずるいっすよーと言っている程度で、特に喧嘩になる気配はなさそうだ。親しみを持たれつつも実力的に一目おかれているのは本当らしい。


「族長に飽きたら俺たちとも遊んでなー!」


とリルリアーナに笑いながら手を振り男たちは去っていく。狼たちのノリが全くわからないリルリアーナは終始きょとんとするしかなかった。

しっしっと軽く男たちを追いやったカイゼルは、くるりとリルリアーナの方を向く。


「リルちゃん、心配したよ〜。ごめんね目を離して」

「いえ!私こそごめんなさい!珍しいものばかりでついフラフラしちゃって…」


あわあわしながら両手を顔の前でふるリルリアーナの手を見て、その手を両方きゅっと握るカイゼル。


「ひゃ!」

「よし!じゃあ手を繋ごう!これならはぐれないだろ?」


我ながら名案!と笑顔で言うカイゼルに、さっきまでおろおろしていたリルリアーナはなんだかおかしくて思わず笑顔になった。


「ふふっ…この状態じゃ歩けませんよ」

「はは!確かに!じゃあ片手だけ!ね?」

「はい!」


素直にきゅっと手を握り返し、笑いながら2人は歩き出す。そしてふと、カイゼルは何か視線を感じて振り向く。


「…?」

「カイゼルさん?どうしたんですか?」

「いや、なんか視線を感じたんだけど、気のせいかな。リルちゃんが可愛いからかなー?」

「もう!またそういうこと言うんですからー」


ふふふあははと笑顔で手を繋ぎながら歩いてきた2人を、心配していたゼフが白い目で見てくるのはまた数分後の話だ。


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