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自由を教えてくれる狼

カイゼルの世話になって3日目。庭の花々に朝の水やりを終えたリルリアーナが屋敷の中に戻ろうとすると、出掛けようとしていたカイゼルと出会った。


「カイゼルさん、お出かけですか?」

「やぁリルちゃん。これから街の見回りに行こうと思ってね。リルちゃんも行かないかい?」


カイゼルの言葉にリルリアーナは目を瞬かせた。街?行っていいの??監禁生活に慣れていたリルリアーナにはその発想はなかった。


「仕事に当たり前のように女連れで行こうとしないでください」

「固いこと言うなよ。いつも通り見て回るだけだし、銀狼以外から見た街の感想だって大事だろ?」


横にいたゼフは軽いノリで誘うことに白い目でみたが、カイゼルはそれっぽい言い訳をする。


「畑は今日人手が十分あるし…、リルちゃんが嫌じゃなければどうかな?」

「い、いいんですか…?私、人の目に触れても…」

「え?」


思ったどの反応とも違うリルリアーナに、首を傾げる2人。


「あっ…!いや、もう自由なんだった…」

「!」


今の自分の状況を思い出したリルリアーナがぽつりと言うその言葉に、2人は監禁という二文字を思い出し、はっとする。


「ち、違いますからね!?別に来るなと言ってるわけではないですからね!?」

「そうだ!こんな奴のいうことは気にしないで、君は行きたいとこに行っていいし、やりたいことをやっていいんだ!自由なんだよ!」


まるでツンデレみたいなセリフになってしまったゼフと、自由を強調するカイゼル。慌てる2人の姿になんだかおかしくなって、リルリアーナはふふっと笑みをこぼした。


「行きます!行きたいです…!連れていってください!」


――


銀狼たちの住む街の中心は、カイゼルの住む族長屋敷から10分程度のところにあった。


「これが街…!夜に見た時とまた違いますね!」


リルリアーナは人々の行き交う様に大興奮だ。

右も左もわからずフラフラしていたあの時は周りを見る余裕はあまりなく、ヤケになってすぐに目についた酒場に入ったのだった。そしてすぐカイゼルに拾われての今だ。


「族長!おはようございます!」

「見回りっすか?お疲れーっす!」

「あれ、なんか可愛い子連れてるー!」

「あぶあぶ」

「ふがふが」


歩いていると老若男女問わず次々とカイゼルに話しかけて親しみを込めて挨拶をしてくる。

その姿にリルリアーナはカルチャーショックを覚えた。龍帝がこんなに親しげに話しかけられる姿なんて見たことがなかった。まぁ閉じ込められていた彼女が見れたのはほぼ侍女たちに対する姿だけなのだけれど。


「カイゼルさんって、皆さんに慕われているんですね!」

「女たらしではありますけど、人たらしでもありますからね。あぁ見えて族長としての1番大事な仕事はしっかりしますし」


目を丸くして言うリルリアーナにゼフが答える。その言葉に、1番大事な仕事?とリルリアーナは聞き返す。


「他部族への牽制や、族長決闘には今のところ負け知らずです。族長ですから、ヘラヘラしてるようでも強いですよ」

「族長決闘…?」


聞き慣れない言葉に首を傾げるリルリアーナ。まさかそれすらも知らないのかとゼフは衝撃を受ける。


「知らないんですか!?一族の誇りをかけた闘いですよ??族長が負けたら一族全てが勝った一族の配下に降るんです」

「え、何その脳筋。怖い…」


獣人怖い。外の世界ではそんなことが起きていたのか。だから妖精族はそんな争いに巻き込まれないように森の中にいたのかなとリルリアーナは今さらながらに思った。


「カイゼル様は積極的に決闘を挑んだりはしませんが、売られたものはしっかり全部買って勝利してます。この前も山虎族に勝ったばかりなんですよ」


淡々と、しかしどこか得意げに言うゼフもなんだかんだで己の族長を尊敬し慕っているのだろう。


「あれ、そういえばその時…」

「おいおい、あんまり持ち上げてハードル上げるのやめろよ。恥ずかしいだろー?」


街の人たちと話していると思ったが、しっかり聞いていたらしいカイゼルが横からゼフの話を遮る。


「カイゼル様、その時の腕の怪我はもう治ったんですか?」

「ん?あぁそういえばいつの間にか治ってるな。まぁ

大した傷じゃなかったし。それより…」


ゼフの言葉には適当に返し、カイゼルは無言で自分を見ているリルリアーナに向かって両手をふる。


「違うよリルちゃん?別に支配下に降るっていったって、奴隷になるとかじゃないからね?どっちかと言うと獣人のプライドとか面子の問題。俺は全然怖くないからね?」


どうやらリルリアーナが怖いと言ったのも聞こえていたらしい。フォローするように怖くない怖くないと言うカイゼルの姿に、なんだかまた笑ってしまう。


「ふふっ。はい、カイゼルさんは怖くないです。だって優しい人だって知ってるから」

「でしょでしょー?だいたい支配っていうなら、圧倒的強者の龍帝陛下には全獣人が支配されてるようなもんだしさ」


龍帝という言葉に悪い意味でドキッとするリルリアーナ。わずかな反応なためカイゼルは気づいていない。


「かの方は別格です。人と神を比べるようなものですよ」

「ははっ!違いない」


どうやらそれは獣人たちの当たり前の認識のようだ。

リルリアーナは久々に聞いた龍帝という嫌な響きにどきどきしたが、気にしないことにした。

だってせっかくの街だ。自由だ!楽しまないと!もう2度と会わないだろう存在のことは忘れよう!


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